第一話 革命
革命と青春 第一話
空虚だった自分とその日常。「生まれたからには何か成し遂げたい!」そんな使命欲が溜まっていた思春期の自分に「MASK」は熱狂を与えてくれた。
「あら、龍牙、今日も早いのね。」
学校から帰ると、いつも母は自分にそんな事を言う。
「うん、今は勉強に集中したいんだ。」
実際は勉強くらいしかやることがないといった方が正しい。ここ数年、友達という程の友達はできたことが無いし、暇が出来れば勉強かスマホゲームかSNSチェックでもして、時間を潰す毎日だ。
だけど、ずっと自分の中で「自分は何かを成し遂げるだろう」という根拠の無い確信を持って生きてきた。
とはいえ、最近は人生に失速感を感じる事も増えた。ふと、「自分は何の為に生まれてきたのか」、「この社会はどう構成されているのか」そんな哲学っぽいことを考えるようになった。
そこで、自分は教養を深めることでその問いを解決させることを試みた。政治、歴史、経済、法律など、学んでいる内に分かったのは、「その時々のルールは、時々の支配者ごとに変容してきたこと」そして、「その度にルールは腐敗し、やがて革命者によって破壊され、新しいルールを形成してきた」だった。
そうしている内に、僕はこの社会のルールの中で闘争しているだけで本当の成功なんてあるのか、単に今の支配者に搾取されているだけなんじゃないのか、本当の成功とは、革命を成し遂げた者にしか無い。その日から、自分はそんなことを本気で考えるようになった。
あの日から僕はずっと「革命」という言葉が頭から離れなくなった。熱狂性や非現実性を味わえるこの言葉は、熱狂に飢える人々には良い処方薬である。今の自分はきっとその処方薬を求める者の一人だろう。しかし、この社会にはそんな現実逃避性のあるこの言葉を本気で真に受け、思考する者達がいることを知った。
彼らは「この40年間、この国は発展しなかった。それは改革を恐れる老害がこの国のルールを決めているからだ。私達は彼らから私達達の未来を取り返す」と訴え、「革命」を唄うインフルエンサーとして活動していた。
その名は「MASK」。この「MASK」は、「M・A・S・K」と発信者事にそれぞれの名前を持つ。また、支持者の中から「ミッション」と呼ばれるテストに合格した者のみが入れる招待制のサーバー「維新会」を運営していた。
また、「維新会」以外にも非公式のMASK支持者のグループが幾つか存在しており、自分はその一つであるネットコミュニティ「革命家」に参加してみることにした。
「はじめまして、新人さん。革命家にようこそ!」
「こんにちは、DAISUKEです。よろしくお願いします!」
「ようこそ、SAKURAです。よろしくね!」
サーバーに入ると、こんなメッセージがチャット式で何通か入ってきた。最初はもう少し荒々しい人達の集まりだと思っていたが、想定よりも柔らかい印象だ。
「RYUです。よろしくお願いします!このグループではどんなことをされているんですか?」
DAISUKE「僕が説明しますね。このグループではMASK達がSNSに挙げる投稿について考察や議論をして理解を深めたり、ミッションをどうクリアするのか作戦会議をしています。そういえば、次のミッションは二週間後なんですが、参加できそうですか?」
どうせ暇だし、参加してみるか。
RYU「分かりました、参加します!」
こんな調子で早速、僕はその「ミッション」とやらに参加することになった。「革命家」の人達の話によれば、ミッションの内容は、当日の前日まで明かされないらしい。自分達は一旦、過去の事例に基づいて、色々と対策を始めてみることにした。
今までは、MASKのSNSで出題されるパズル型の思考問題や与えられた状況の中でいかに論理的な思考を活かしてクリアするのかといったクイズ形式が多かったようだ。
DAISUKE「では、実際にやってみましょうか。えーっと、前回の問題は、【車の重さを重量計を使わずに図るには?】です。」
SAKURA「えー全然分からないよ。あっ、でも重量計さえ使わなければ、なんでも良いんだよね。」
RYU「なら、浮力100㎏のアドバルーンと浮力1キログラムのヘリウムバルーンを幾つか用意して、浮くまで取り付ける、なんてどうですか。」
DAISUKE「確かに、それならいけますね。後はなんだろう?じゃあ、でかいシーソーと一つ100㎏、10㎏、1㎏の重りを沢山用意して、釣り合う所を探すとかどうでしょう。」
RYU「コストは大きいですが、それも面白いですね。」
SAKURA「みんな凄い。私には思いつかないよ。」
そうこうしている内にミッション前日がやってきた。どうやらミッションの公開は動画メディアでライブ配信されるようだ。
S「皆んな、こんにちはー。S姉さんだよー!今日もスパチャありがとね。」
まずは、明るい声をした長い黒髪が特徴的な女性のバーチャルキャラクターが話し出した。彼女が話し出した瞬間、チャットは彼女のことばかりが呟かれている。どうやら相当人気があるようだ。
K「遊んでないで、さっさと発表するぞ、S。今回のミッションは謎解きだ。場所は桜岳のキャンプ場。そこに散らばっているワードカードを見つけて、最後の問いに答えるのが課題だ。」
「えー桜岳って遠すぎだよー」
「オンラインじゃないの?」
「いつもみたいに、クイズとかパズルが良かった。」
視聴者は当てが外れて、少し不満気なコメントが散見される。
K「ごめんな、皆んな。今回はオフラインのミッションだ。でも、近くにいて参加できそうな奴はぜひ、参加してみてくれ。じゃあ、当日会おう!」
DAISUKE「当てが外れましたね、桜岳ですか。僕は参加できそうですが、皆さんはどうですか?」
SAKURA「私は参加できるよ。」
RYU「僕も。」
「俺たちも参加できるぜー。」
「私も!」
「参加したいです。」
DAISUKE「じゃあ、全員で6人ですね。では、当日現場で会いましょう。」
久々に自分が興奮しているのに気付いた。
僕はこんな興奮を求めていたのかもしれない。しかし、何かに身も心も呑まれていくようなカルト的な恐怖も心のどこかで感じる。
だけど、「今はこの瞬間を全力で楽しみたい」、そんな気持ちで満たされていた。
僕達はこの時、これが大きなムーブメントの前触れだとは知らなかった。
次回 第二話「ミッション開始」