終わりの村
村の入口まで来ると、門番が2人立っている。
バレると面倒くさそうなので、ミミにはフード付きのローブを着させていた。
「おい、止まれ!見ない顔だな。どこから来た」
「森で迷子になって、ここまで来ました」
「また森で迷子だと……お前達もあいつらの仲間か?」
あいつらって誰よ?
「いえ、私たちは2人だけだけど」
「では、お前達子供が2人で森を抜けて来たと言うことか?ありえん!」
「まぁ、一応冒険者なんで、それなりに戦えますから」
このゲームにも冒険者という職業がある。多分この世界にもあるはずだ。
「子供のお前らが冒険者だと?嘘をつくのはやめろ」
子供子供って!ミミは子供だけど、わたしは立派な大人だよ。
こんなに胸だって……おい!同情するような顔をするな!まだ成長期だから、これから育つし!
顔はちゃんと覚えたからね。
問題が解決したらモンスターの餌にしてやろうと心に誓う。
「人は見かけで判断しちゃダメって教わらなかったの?」
「なら、冒険者証を見せてもらうか」
困った。
流石にそれは持っていない。
ゲームの頃は、手続きが面倒だったのと、メリットを感じなかったので、登録していなかった。
「冒険者ならあるだろう?」
「えーと、来る途中にモンスターに襲われて、逃げる間に落としたみたいなの……」
「ますます怪しいな。悪いが今すぐに、村に入れてやることはできない。こっちに警備隊の詰所あるから、そこで話しを聞こうか」
うーん、時間もあまり無さそうだし、早く村長さんの所に行きたいのに、通してくれそうもない。
どうしようか悩んでいると、後ろにいたミミが門番の前に出てくる。
「まいお姉ちゃん、ごめんなさい」
ミミがフードを取り顔を出す。
「お前は確か……孤児院の所のミミか!お前は神社に行ったはずではないか。なぜここにいるんだ!」
「ごめんなさい。今ここで説明してる時間はないので、村長様の所で話します。まいお姉ちゃんと一緒に村に入れてくれませんか」
「俺では判断ができん!レバン!村長の所に行って確認を取ってこい」
「はっ!」
もう1人の門番が村の中に走って行った。
「まいお姉ちゃん、せっかくローブ貸してくれたのに無駄になってごめんなさい」
「全然大丈夫だよ。あのままじゃ村には入れそうになかったし、仕方ないね」
予定とは違って、早速ミミの事はバレてしまったけど、どうせ遅かれ早かれ分かることだ。
少しすると村長さんの所に行っていた門番が帰ってきた。
「村長からの確認が取れた。今からお前達を村長の所に連行する。お前はフードを被っていろ」
村長さんの所に行けるみたいだし、結果オーライだね。
「はい!分かりました。話しを聞いてくれてありがとうございます」
「かまわない。行くぞ!2人共離れずについてこい」
村の中を歩いていると、よそ者が珍しいのか、わたし達に視線が集まる。
「またよそ者だぞ」
「どうせ前の奴の仲間だろう」
「こんな時期に村になにしに来たんだ」
聞こえてくる声の内容は気になるが、それよりも村全体がなぜか気が張りつめたように空気が重い。
「この時期になると、毎年そうなんです」
周りを見ているとミミがそう説明してくれる。
まあ、近い内に魔物が襲ってくるんだから仕方ないのかな。
「このやろー!よそ者がいきがってんじゃねぇ!」
わたしの事かと思い、声のする方に目を向けると4人組だろうと思われるチンピラっぽい奴が、子供連れのおじいさんの胸ぐらを掴んでいた。
わたしの事ではなかったらしい。
「なんかケンカしてるっぽいけど、止めなくていいの?」
「クッ!仕方ない!少しここで待っていろ」
待ってろと言われたが、少し気になるのでついて行く。
「おい!何をしている!止めないか!」
「チッ!警備隊だ!面倒になる前に行くぞ」
4人のチンピラの中で顔に縦傷があり大男がリーダーだったのか、リーダーの声で他のチンピラも一緒に逃げていった。
「お前達は確か……まあいい、また問題を起こすようなら村から出て行ってもらうからな」
「ちょ、ちょっと!私達は悪くな」
「お嬢様」
おじいさんの背後にいた少女が言い終える途中で、おじいさんに止められる。
お嬢様?この世界で言えば貴族様なのかな。
確かによく見てみると服が上品でこの村の住人達とは全然違っていた。
おじいさんの服は確か、燕尾服って言うんじゃなかったっけ。高級なスーツっぽい感じ。
少女のことを『お嬢様』って呼んでたし執事的な感じかな。
「警備隊長様、この度はお手数をお掛けして申し訳ございませんでした」
おじいさん改め、ダンディーな執事が門番に謝罪している後ろで、お嬢様が不服そうに頬を膨らまして、執事の背中を叩いている。
どうやらこの門番は、警備隊の隊長らしい。
「分かれば良い。俺達は先を急ぐので、ここで失礼する」
「お時間を取ってしまい申し訳ありませんでした。私達も宿に帰る所なので失礼しますーーお嬢様どうされましたか?」
お嬢様がフードを被っているミミを凝視している。
「そこのフードを被った方どこかで……」
「おい!お前達時間がないんだ。行くぞ!」
バレたら面倒なのでミミの手を繋ぎ早々に歩き出した。
「向こうは気づいてたっぽいけど、さっきのお嬢様を知ってるの?」
「んーん、知らない。でも、まいお姉ちゃんと同じで、あの人達も迷子になって1ヶ月前、この村に来たって聞いたよ」
なるほど、隊長さんが、わたし達に対してあんな事を言ってたのは、そのせいだったのか。
それにしてもこの村の住民達は外から来た人に対して邪険にしすぎだ。
「他の村や街から、この村に人が来る事はないの?」
「ミミは孤児院からも村からも、あまり出たことが無いから、詳しいことは分からない。でも院長先生が、この村は森に囲まれていて滅多に人が入って来れないって言ってたよ」
「確かにどこを歩いても木しかなかったね」
「うん。でも、その森のお陰で村は安全だって言ってたよ」
安全なのかは疑問だが、詳しい事は村長さんにでも聞いてみよう。
「2人共着いたぞ!ここが村長の家だ」
目の前には他の家に比べると大きいが、ボロボロな感じは他の住民の家とそう変わりない。
「俺も一緒に行くが失礼のないように」
「わかってる」
「はい!」
不安な表情をしてるミミに『大丈夫だよ』と声をかけると、可愛い笑顔が返ってくる。
どうやって信じてもらうかは特に考えてない。
わたしはミミの笑顔を守るために、なんとしても信じてもらうだけだ。
「大舟に乗ったつもりで、わたしに任せてね」
「うん。よく分からないけど、よろしくお願いします」
わたしとミミは隊長さんの背中を追って家に入って行った。
まい「毎日暑いけど、がんばりましょー」