プロローグ
三月にしては、ずいぶんひどい雨の日だった。
日没後の空に浮かぶ重たい灰色の雲が月明かりを遮り、春の風に吹かれて横殴りに降る冷たい冬の雨が住宅街を凍えさせている。
肌に叩きつける雨の中、彼女は傘もささずに一人で歩いていた。
彼女は進行方向を呆然と見つめているが、その瞳は何も映していない。虚ろな目をした今の彼女に意思と呼べるものは無く、自分がどこに向かっているのか、どこを歩いているのか、それどころか、今自分が歩いていることすら認識していない。
おぼつかない足取りで、彼女は、ただ無意識のうちに“そこ”へと歩いていた。
「――あれ、ここって……」
突如、彼女はその場に立ち止まった。――或いは、ずっと前からそこに立っていたのかもしれない。
我に返った彼女が顔を上げると、目の前には二階建てアパートの外階段があった。
「……そっか。バカだな、私」
そう呟いて力なく笑い、彼女は階段を上り始めた。
弱々しくも確かな意思を宿した、そんな瞳で――。
大体こんなテンション――あるいはもう少し元気な感じのお話です。
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ちなみに、個人的には右端がオススメです。