第4話
しばらく書いてなくて色々設定を忘れる。
少女は森を駆けた。
家で苦しむ弟を思うと、その足取りは早まった。
森の全てが小さな少女を、小さな命を、美味な肉の匂いを狙っていた。
少女はその気配に勘付いていたが、足取りを止めない。
自分のことなど何も考えていなかった。
「あった!」
薬草が見つかるのに時間はかからなかった。
まるでそちらから採られに来るように、ポツンと薬草はそこに生えていた。
薬草を採取しようとするミイナの手が止まる。
背後、いや周囲全体に幾つかの恐ろしい殺気。
それはありとあらゆる角度から突き刺してくる針のよう。
「何かいる……?」
魔物達は少女の目の前に姿を現す。
全身が血に濡れた紺色の毛。充血した赤い瞳。歯は削れ、刃物のように鋭く尖っている。
大きな狼の姿。
よだれを垂らしながら目の前で生きるその肉を喰らうことだけを考えている。
三匹の狼が囲うようにしてミイナを睨みつけていた。
「お母さんに聞いたことがある、ハーブウルフ……」
薬草の群生地に巣を作り、集まってきた草食生物を待ち構えて狩り殺す狼の魔物。
この森のカーストの頂点であり、非常に獰猛なその性格から村でも恐れられていた。
「これはあなた達の薬草なのね。……でもテトが待ってるの、だから少し分けて欲しいの」
魔物に言葉は通じない。感情を持つわけもない。
それを理解しながらも、ミイナは語りかけた。
自分の危険を考えての行動ではなかった。
弟の元へ一刻も早く帰ることに、命を懸けていた。
語りかけに反し、ハーブウルフ達はゆっくりと距離を詰めてくる。
餌。肉。空腹。
それで支配された脳内。
特に体の大きい一匹が、ミイナに近付いてきた。
体には無数の傷がある。これは獣などに付けられたものではなく、人間の手によって、深く深く斬りつけられているものだと分かった。
「昔は人間と一緒に暮らしていたのに、魔王が現れたとき、魔物は敵だって人間の手で森に追い出された……お母さんが教えてくれたの」
「ごめんなさい、ごめんなさい。こうなっているのは人間のせいなんだね。ごめんなさい。酷いことをいっぱい、されたね」
大きなハーブウルフは、歩みを止めた。
餌が泣いているのは、その流している涙は、恐怖ではなかった。
狼は思い出していた。
人間と暮らしていた、はるか昔の記憶を。
人間の裏切りへの憎悪で、見えなくなっていた感情を。
「少しだけ、譲ってほしいの、少しでいいから……」