第1話
ここは、緑豊かな村『リーフリア』。
魔物の出没も少ないこの村では、農業を営む人々や、引退した冒険者などが多く住んでいた。
平和を絵に描いたようなこの村で、ある日事件が起こる。
「ねぇ、お母さん。テトの様子がおかしいの、何か変な模様があるの」
少女はミイナ。
元冒険者の父と、魔法学に詳しい母の元に生まれた。
幼いながらも、元気で優しい性格。
ブロンズの艶やかな髪、母に似て整った容姿は村でも有名だった。
「うぅ……」
弟のテト。
まだ発語がままならない歳で、黄緑色の髪色が特徴的。
いつも姉のミイナに引っ張られている。
オッドアイで、赤と青の小さな瞳をしている。
「……これは、とっても難しい病気だわ。特殊な薬が必要なの。ねえ、ミイナ?村の誰にもこの模様を見せちゃだめよ」
母のフェリィ。
容姿端麗で、魔法や薬学に長けている。
現役の時代は王国屈指の魔道士だったとか、医学者だったとか、色々な噂が絶えない。
優しい性格から、村でも”頼れるお母さん”として多くの人に囲まれていた。
「分かった、でもずっと苦しそうだよ?」
「そうね、でも今は治せないの。ミイナが傍にいてあげてね」
「うん、そうする」
ミイナはテトの手を握り、自分の部屋へと帰っていった。
最近は絵本を読むことに夢中なミイナは、きっと今日も読み聞かせをしに行ったのだろう。
母のフェリィは、その隙をみて、慌てて父親の元へ走った。
父のターカ。
元冒険者で、王国の近衛兵を務めていた。
魔法はからっきしだが、力と剣の技に長けている。
現在は大工の仕事をしている。
雑に切られた真っ黒の髪は、自分のこだわりだと言う。
仕事が休みだった父は、リビングのチェアに腰掛け、趣味のトレーニングをしていた。
「どうした、そんなに慌てて」
「テトが、魔毒病にかかったようなの……」
「魔毒病!? それは確かなのか、そんな病気もうこの世に……」
「何度も見てきたから間違い無いわ。王国の医者に診せなきゃ」
「魔毒病を治すことなんてできるわけ……」
「うるさい! だったら見殺しにしろって言うの!? 少しでも延命できるかもしれない、その環境がここの村には無いわ」
魔毒病は、古来から伝わる不治の病。
人間が魔族に何らかの形で体液を混ぜられると発症するとされている。
だが、詳しい原因も治療法も、未だ解明されていない。
1人が発症すると爆発的に伝染するとも言われていた。
「魔毒病なんて、どこで……」
「お願い、協力して……。早くしないとテトが死んでしまうの」
「王国に知り合いの医者がいる、そいつに取り合ってみるから、お前も一緒に王国に行く準備をしてくれ」
「分かったわ」
「ミイナには言ったのか?」
「言ってない、それに隠さなきゃ。魔毒病は伝染するの、村にバレたら大騒ぎになる」
そうして、ターカとフェリィは王国は向かう用意を始めた。
ミイナは苦しそうにするテトを心配そうに見つめながら、自室で本を漁っていた。
「お母さんは教えてくれなかったけど、何の病気なんだろう。ここにお母さんのくれた病気の本が……」
ミイナは分厚く、埃をかぶってしまった医学書を1ページずつ、丁寧に読み込んでいった。