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5、達成!


5、



私がこの家に来て2週間が経とうとしていた。


木原家の1日の始まりは、朱莉のみんなを起こす声からだ。朱莉は長い髪を2つに結いながら、家族を起こして回った。


「みんな~!起きて~!早く起きないと遅刻するよ?」


私が身支度をしていると、毎日だいたい決まった時間に召喚の声が聞こえて来る。しかし、今日は少し違った。なかなか召喚して来ない。あれだけしっかりと召喚の呪文を教えたのに……


「桃!イリス召喚して!」

「はーい!」


おい、待て!まさかこの幼児に召喚させるつもりか?


「けいやくにもとじき」


もとじきってなんだ?


「われにちからをかしまたえ!」


桃花、そこは『貸しマタえ』ではなく『貸したまえ』だ。股へ貸してどうする!


「かしまたえ」


そんな……何もかもはしょりまくった呪文でこの私が出て来るとでも思うのか?


「あれ?あーちゃん!イリス出て来ないよ~?」


そう言って桃花は本をバシバシ叩いた。


召喚の書を叩くな!優しく扱え!そして敬え!


私を呼び出そうとしていたのは、ここ木原家の末っ子の桃花。そこへ寝癖だらけのボサボサ頭で現れたのは長男の緑だ。


「ねーちゃん!靴下無い!」

「えーと、取り込んだ洗濯かご見て!イリス!早く出て来て!」


呪文も無しに出て来いと言うのか?そんな都合のいい悪魔がいるとでも思っているのか?


「朱莉~?なんかキッチン焦げ臭いよ?」

「あ!お鍋!お姉ちゃん火止めて!もう緑!靴下くらい自分で探して!」

「あーちゃん、イリスまだ~?」


やれやれ…………仕方がない。今回だけだぞ?


今回だけは儀式無しで出てやろう。


「契約に基づき、いざその力を貸さ……」

「あ、もうそうゆうのいいから」

「な、何っ!?」


雑な扱いでこの私を呼び出したのは、次女の朱莉。今はこいつが私の雇い主だ。朱莉は桃花の髪を結っていた。


「イリス、緑の靴下探して!」

「この私に靴下探しなど……」

「何のために呼び出したと思ってるの?」


何のため?こいつらの世話だろう?そんな事は百も承知だ。承知はしているが納得はいっていない!しかしこれも悪魔の契約だ。しかたがない。


今ではだいぶ割りきれるようなった。だが……最初の頃は納得いかなかった。この私が子守りなどと……


眠気眼で目をこすりながらボーっとしている緑の代わりに、洗濯かごを漁った。


「だいたい靴下など昨日の夜に用意しておくものだろう?」

「イリスって口うるさいよな~」

「口うるさい?誰がうるさいのだ?誰のせいでうるさくなるのだ?え?」


私は靴下を持ったまま、家の中で緑を追いかけ走り回った。


「ギャ~!ブラックイリス覚醒~!」

「きゃ~!」


緑を追いかけるていと、いつの間にか桃花までも緑と一緒になって私から逃げ回っていた。すると、緑はキッチンに逃げ込み私を挑発してきた。


「脚長バッタになんか捕まらないもんね~♪」

「私を昆虫と一緒にするな!」


しばらくダイニングテーブルを囲んで立ち回りを繰り広げていると……


「コラーーーーー!!」


朱莉の雷が落ちた。


私と緑はリビングに正座をさせられ、朱莉に説教を受けた。


「朝のこのクソ忙しい時に何やってんの?」

「朱莉、女子がクソなどと……」

「うるさいな!」


朱莉はすぐ『うるさいな!』とキレる。短気は誰譲りだ?


しかし、人間界ごときに説教を受けるという有り様。こんな姿を爺様に見られたら何とお叱りを受けるか……


「イリス、聞いてるの?」


すると、桃花が朱莉に言った。


「りっちゃん正座の足痛いんじゃないの?」


桃花!ナイスフォロー!何という気遣いだ!それでもお前は5歳児か!?まるで天使だな!その聖なる眼差しで私を滅する気か!?


「だってイリスは脚長バッタだし」


まだ言うか?緑。


「うるさい!緑!さっさと朝ご飯食べなさい!」


朱莉は朝からイライラしていた。それはおそらくあの事が原因だろう。


今朝、朱莉は自分の部屋で支度をしていた。その途中、鞄の中に入っていた紙を見て深いため息をついていた。


「面談……行けないって先生に伝えなきゃ……」


ため息に続き、そう呟いていた。


私はその後こっそり召喚の書を抜け出し、その紙を見た。そこには、面談の日時が記されていた。


ここは私の出番だな。変化で葵に化けて、葵の代わりに面談とやらに行けばいい。


しかし……変化の持続時間に不安がある。まだ完全には魔力が戻っていない。


朱莉に私が行くと打診しようとすると、葵は姉の菫に相談していた。菫はちょうど出かける前で、玄関で靴を穿いていた。


「菫ちゃん、今日の夕方学校に来られ無い?よね?」

「どうしたの?え?まさか呼び出し?朱莉何やったの?」

「違うよ!あの……面談があるの」


端から葵に相談しないのは何故だ?


「なんだ……パパには?聞いてみた?」


朱莉は首を横に振った。


「朱莉、迷惑かけるからって相談しないのは違うからね?パパ~!朱莉が……」

「お姉ちゃん!待って!自分で言う!私から相談するから!」

「そっか。じゃあ、私そろそろ行くね!」


すると、葵が出かけようと玄関へやって来た。


「あれ?菫は?呼んでたよね?」

「もう行ったよ!パパも行ってらっしゃい!」

「うん、行って来る」


朱莉はそのまま玄関で葵を見送った。


「緑!早く出ないと遅刻だよ~?桃!私達もそろそろ出よう!」


私は朱莉の背後に立った。


「相談しなかったのは何故だ?」

「別に……今はまだいいと思っただけ」


そう言って朱莉は少し下を向いた。


「今はまだいいなんて思っていたら一生できない」


私の発言に、朱莉は顔を上げこちらを睨み付けた。


「何だ?葵に知られたくない事でもあるのか?」

「はぁ?」

「早弁か?早弁したのか?あ、サボりだな?授業をサボったのか!不良だな!不良なのが葵にバレたくないんだな?」


すると、朱莉はひどく冷たい顔を向け舌打ちをした。


「チッ」


し、舌打ち!?そこは可愛らしくポカポカ叩きだろ?


「舌打ちなど可愛らしくない」

「最っ低!」


朱莉は拳を握りしめ、その拳を振り上げて言った。


「今すぐ帰って!本の中に入って!」

「それはできない。もう家を出る時間だ」


すると、準備を終えた桃花が玄関へやって来た。


「りっちゃん!行こ~!」

「…………」


朱莉は何も言わずリビングへ戻って行った。


「?あーちゃんどうしたの?」

「気にするな。いつもの癇癪だ」

「カンシャ?ありがとう?」

「癇癪。盗んだバイクで走ったのがバレて……痛!」


後頭部に朱莉の鞄が飛んできた。


「桃花に嘘を教えないで!」


だからと言って物を投げるのは悪い行いだ。非行だ!


「桃花、朱莉のように非行に走ってはいけないぞ」

「ヒコー?ヒコーキ?ヒコーキは走らないよ?飛ぶんだよ」

「何の話だ?」


桃花が会話に入って来ると混沌とする。


「桃花に変な事教えたら、本、燃やす!!」


非行の次は脅迫か!?


私と桃花が先に外に出て、その後に朱莉が玄関を出た。そして、朱莉は乱暴にドアを閉めると鍵をかけると、一度こっちを睨み付け先を急いだ。


「あーちゃん怖かったね。りっちゃんは悪魔だから怖くないの?」

「怖いというより、安心だ」


無表情な朱莉が怒った。これで、また1つ命令を達成できた。


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