表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/36

3、辛い!

3、



私は純粋なる悪魔、イリス。過去の過ちで呪いをかけられ、人間に仕える使い魔となった。


この私に人間ごときに召喚され、人間の使い魔になるなど……以前は考えられなかった。しかし、今では慣れて来た。代替わりも何度も経験してきた。


朱莉で何代目になるだろうか?すぐに持ち主が替わったり、替わってすぐに死んだ者もいる。


「お~い!リス~!」

「リスではない!」


しかし、使い魔のこの私がシッターとは……


「タ~ッチ!イリスの鬼~!」


シッターなど……そんな屈辱的な事が……


「りっちゃん、鬼だよ?」

「鬼では無い!悪魔だ!」


あってたまるか!!


私は全力で子供を追いかけた。


私は走るのが苦手だ。いや、嫌いだ。死ぬほど嫌いだ。実際悪魔だから死ぬ事はないが……これも主の命令だ。契約だ。仕方がない。


ならば主の許しが出るまで、全力で走り続けるのみだ!


「リス、足おっそ!」

「リスではない!イリスだ!」


全力で走っても、緑に全く追いつかない。木原姉弟の唯一の男児。木原 緑……こいつ、もしや普通の人間ではないのでは!?素早い身のこなしで、猿のようにあちこちよじ登る。もはや猿だ。


「追い付いてみろよ!リス~!」

「うるさい猿!」


かれこれ一時間ほど経つが、いまだに公園で走らされている。元凶はこのクソガキ、緑の『鬼ごっこをやろう』という提案からだった。おとなしくそこら辺の砂でもいじっていればいいものの、鬼ごっこなどやりたがった。


緑はたまにおちょくりながら、わざと鬼になりに来て私を追い回す。緑、お前こそが本物の鬼畜だ。


「リスはすぐ鬼になるから、なんかすっげ~つまんね~」

「リスではない!イリス!鬼では無く悪魔だと言っているだろうが!」

「りっちゃん、大丈夫?」


すると、隣で桃花が私の顔を見上げていた。


こんな幼児に心配されるなど……私も落ちぶれたものだ……この鬼になりきるゲーム、なかなか奥が深い。知力と体力を使い……


すると、桃花が私にその小さな手のひらを膝に押し付けて来た。


「タ~ッチ!今度は桃が鬼になるね!りっちゃんの代わりに桃がお兄ちゃんを捕まえてあげる!」


まさか……幼児に気を使われるとは!!その深い慈悲!この小娘、悪魔である私に対し対しなんという辱しめ!!


「あー!あーちゃん!」


そこへ、朱莉が迎えに来た。


「みんな、夕ご飯できたよ~。そろそろ帰っておいで~!」


ようやく終わりか?やっと帰れる!!


「朱莉、今日カレー?カレーか?」

「はぁ?緑、一昨日カレー食べたでしょ?昨日も給食に出たし」


緑はカレーバカだ。カレーなどという悪食……あんなものよく好んで食べるものだ。


「リスも食べるよな?」

「カレー以外なら」


そもそも、朱莉の料理が下手なのがいけない。あの時もそうだ。


あれは初めて召喚された日の晩の出来事だった。


私は家族の晩餐に招待された。そこにだされたのはカレーだった。ダイニングテーブルに座らされ、何故か全員にスプーンを運ぶ姿を見守られた。


私は周りに視線を注がれる中、最初の一口を口に入れた。


「かっらっ!!」

「えぇっ!!」


全員が私を見て驚愕していた。


すると、長女の菫が朱莉に耳打ちしていた。


「意外……悪魔とかって言って粋がってるからてっきり……」

「菫!私は粋がってる訳ではない!」

「いきなり呼び捨て!?」


菫とは子供の頃に何度か面識があった。しかし菫は私の事などすっかり忘れていた。


朱莉がカレーを取り替えてくれた。私が手をつけようか迷っていると、葵が言った。


「イリス、今度は大丈夫だよ。こっちは子供用の甘口のカレーだから」

「何だよ、こいつ見た目オヤジなのに舌が子供じゃん~」

「緑、人は見た目じゃないんだよ」


いや葵、私は人でも無いんだが……それはお前は十分に理解しているだろう?


葵は私の事を新しい家族だと言って紹介した。私は人になった覚えも家族になった覚えもない。


「私は契約を守るだけだ」

「けーやく?って?」

「お前達の母親から、朱莉に引き継がれた」


私は改めて、契約の説明をした。


「つまりは、ねーちゃんの使いっぱ?って事?」

「使い魔だ!」


こいつは言葉使いがなってない。緑にはしつけが必要だな。


「桃花~シッターさんだよ~」

「菫!だから、私は使い魔だと言っているだろう!」


菫は相変わらずだな。図体は大きくなっても中身は昔と少しも変わらない。天然というよりアホだ。


「お手伝いさんの方がわかりやすいんじゃない?」

「だ、か、ら、使い魔!お前達人の話を聞いているか?」


朱莉は私の話は完全に無視だな。これが主だと思うと、先が思いやられる……。こんな扱いを受けるなど、聞いて無いぞ?真白!!


「でもね、この人が桃花をおばあ様の家まで運んでくれて助かったの」

「そうだったんだね。ありがとうイリス」


葵は柔らかな笑顔で私にお礼を言った。私にお礼を言うのはお前くらいなものだ。相変わらず鈍重な奴だ。


「さ、ご飯食べよ!」

「いただきま~す!」

「りっちゃんも食べよ?」


りっちゃん……?それはもしや……私の事か?


「りっちゃんに桃のウサギちゃんのスプーン貸してあげる!」


桃花は私にウサギのスプーンを手渡して来た。


何だ?……お前、その聖なる瞳で私を浄化し滅ぼすつもりか?私がスプーンを受けとると、天使のような笑顔でこっちを見ていた。


「どんなスプーンで食べても味は同じだ」


そう言ってウサギのスプーンを乱雑にカレーに突っ込んで一口食べた。


「りっちゃん、美味しい?」

「不味い」

「えぇえええええ~!こんなにうまいのに!お代わり!」


緑はカレーを食べ終えると、お代わりをしていた。


「さっきより……マシだ。しかし、やはり辛い」

「え……まだ辛いの!?」

「これ以上甘かったらもはやカレーじゃないよね?」


葵や菫が初めてなら仕方がないと言っていたが、本当はカレーは初めてじゃなかった。


あいつが食べたがったんだ。


真白が……家族を懐かしんで、甘い甘いカレーが食べたいと言っていた。


あの時はどこにも甘いカレーは無くて、仕方がなく辛口と書かれたカレーの缶詰めを差し出した。


「え?缶のまま……?お皿にうつしたりしない?」

「皿など無い」

「あーまぁ、お皿に入れたからって味は変わらないよね!」


そうだ。皿に入れたところで、どうせそのカレーは甘くはならない。


「辛い……辛いってさ、ツラいと同じ字だよね……」


真白は一口食べると、それ以上口にする事はなかった。


「でも……イリス、カレー、見つけて来てくれてありがとう」


その後、残されたカレーがどんなものかと一口食べてみると……


涙が出るほど辛かった。


それに比べれば、このカレーは恐ろしく甘い。


「これが……家族のカレーの味か……」


再び食べたカレーの味は、あの時よりかなり甘かった。甘すぎて……


甘いのか辛いのか……よくわからない味だった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ