表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/36

1、ゴミじゃない!

以前のように毎日投稿できるような時間も体力も無いので、少しずつのんびり書いて行きたいと思います。もしよろしければ、文章トレーニングにお付き合いください。



1、


悪魔が間違って人間に召喚される。それはよくある話だ。だいたいの場合、誰かが古い倉庫や図書館などで本を見つけ、興味や好奇心で召喚する。それが一連の流れだろう。


しかし、この小娘は違った。


「お前は正気か?小娘」


その娘はあろう事か、召喚魔方陣の書かれた古い書物を資源ごみとしてここに置き去ろうとしていた。


「え?でもこれ古紙で……あれ?これ、もしかして、汚すぎてリサイクルできない!?しまった!燃えるゴミだった!」

「き、汚……!?分別の問題ではない!」


危うくゴミとして焼かれる所だった!危ない!ここは自主的に出て来て正解だった。


「私は、決してゴミの分別に難癖をつけている訳ではない。私は仕方がなく、ここ重要。悪まで仕方なく、自分の身を守るためにやむを得ず、召喚されてやったのだ」


悪魔は召喚された場合、いかなる事もその主人に従わなければならない。私の場合、前の持ち主に対価を先に支払われ、必要になったら手を貸すように命ぜられた。だから、今の主人の命はどんな事でも従わなければならない、そういう契約だ。


そう娘にも説明した。


しかし、何だ?その呆けたアホ面は?


「はぁ……」


たかが悪魔を見たぐらいで、そんな奇特な物を見るような目をするか?信じられん。


「真白のやつ……何も話していないのか……」

「真白……?」


木原 真白。それが前の持ち主の名だ。そして真白は、持ち主をこの娘に指定し一年前にこの世を去った。


この娘の名は木原 朱莉(あかり)。朱莉は真白の娘だ。


1年前に母親の真白を亡くした木原家は、長女の(すみれ)は高校卒業後、介護施設で働き始めた。次女の朱莉は高校に通いながら、長男の緑と三女の桃花の世話をしていた。


そんなある朝の事…………


朱莉は肩を落として体温計を棚にしまった。


「あ~また欠席……出席日数がぁ……」

「桃、また熱?私仕事休もうか?」

「スミちゃん、もうそんなに休めないでしょ?大丈夫。先生と相談してみるから」


末っ子の桃花の急な発熱に、木原家は困り果てていた。彼女達には、こんな時に幼児を預かってもらえる知り合いも、シッターを雇う金銭的余裕も無かった。


結局その日は高校生の次女が休んで看病していた。菫と緑を送り出した朱莉は、エプロン姿で紙類をまとめ縛り始めた。


「はぁ……課題提出で先生なんとかしてくれないかなぁ……とりあえず桃が寝てるうちにこれ捨てて来ちゃおう」


縛り上げた紙の束を持ち、近所のゴミ捨て場にそれを置いた。すると紙を縛っていた紐がほどけ、紙が道路に散乱した。それを1枚1枚拾いながら、朱莉は呟いた。


「あ~!もう、嫌になっちゃう……」


春の暖かな風が桜の花びらを吹雪のように舞い上がらせた。


「あーあ……こんな時、お母さんがいてくれたらなぁ……」


朱莉は少しその花びらを見つめた後、再び集めた紙の束を紐で結ぼうとしていた。


「やめよう。そんな事言っても何にもならない」


しかし、紙の束の紐はなかなか縛る事はできず、朱莉は紐を縛るのを諦めて立ち上がった。そして、その場を立ち去ろうとした。


「ちょっと待てぇっっっ!!」


私が思わず声を上げると、朱莉は声の在処を探した。


「お前は正気か?小娘」

「えぇっ!やっぱりこれ縛らなきゃダメですか!?」

「そうゆう話ではない!」


朱莉は慌てて紙の束を縛り直そうとした。


「え?でもこれは古紙で……あれ?これもしかし汚すぎてリサイクルできない?しまった!燃えるゴミだった!?」

「き、汚……!?分別の問題ではない!」


朱莉が紐を縛る前に何とか出なければ!私は紙の束をかき分け、地面と紙の隙間から這うように出てた。


「ギャーーー!で、出たーーーー!!」

「出た?そんなもの見ればわかるだろう?幽霊じゃあるまいし」

「えぇえええええ!!幽霊じゃないの!?」


幽霊な訳があるか!この由緒正しき悪魔を前に、そこら辺に漂う幽霊などと同じにするなど失礼な奴だ。


私は服についた汚れを払い落とし、立ち上がった。


「我が名はイリス」


そう名乗ると……


朱莉は私に向かって手を合わせていた。


「ナンマンダブ~!ナンマンダブ~!」


何だその反応は?どこぞのハバアか?


「私は何もできません。諦めて成仏してください」

「だから幽霊ではないと言っているだろうが!」


こいつはまだ私が幽霊だと信じて疑わないらしい。


「これは大事な魔方陣の書かれた本だ。それを捨てるとは何事だ!」

「え……だってボロボロだったし……」


こんなにも重厚な外装の本をいとも簡単に捨てるか普通?


「お前の望みは何だ?」

「はぃい?」

「対価は先に受け取った。お前の望みは何だと聞いている」


私は悪魔だ。如何なる望みを叶えられる。


「望みは……望み……」

「ただし、人間を生き返らせる事はできない」


迷っていた朱莉は私のその一言を聞くと、一瞬固まった。そして、ため息をついて言った。


「……どうか元の世界へお帰りください」

「だーかーらー!幽霊ではないと言っているだろうが!!」


朱莉に真白から先に対価を受け取った旨を説明した。しかしその説明も上の空で、朱莉はアホ面で呆けていた。


「はぁ……」

「真白のやつ……何も話してないのか……」

「真白……?」


真白の名前を出すと、朱莉はその名前に反応した。


「それってもしかして……お母さんが頼んでおいてくれたシッターさんか何か?」

「シッター?いや、だから悪魔だと……」

「はぁ……悪魔……」


なんだ?その腑に落ちない顔は?私が信じられないか?まぁ、真白には使い魔としては全く召喚されなかった。こいつらが知らないのも無理も無いだろう。


「椿様の元へ行きましょう」

「椿様?」


まさか椿様の存在も知らないのか?


「椿様はお前達の曾祖母だ。おばあ様と言えばわかるか?」

「おばあ様の所?おばあ様を知ってるの?」


椿様ならこの状況をなんとか納めてくれるはずだ。それから私は、召喚の書を丁寧に拾って朱莉に持たせた。


「これは椿様がお前達の母親に託した物だ。粗末に扱うな」


あれから何年経っただろうか……


真白と初めて会った日。あれかは何年前の事だかは定かではないが、あの時の事は今でも覚えている。あれは、真白が椿様に結婚の報告と挨拶に来た時だった。


あの日、椿様は真白にこの召喚の書を手渡して私に言った。


「イリス、これからこの本の持ち主はこの子になった。仕えておやり」


椿様の言葉に、真白は戸惑いを隠せずにいた。そして私の姿をまじまじとみつめると、不思議そうに私の自己紹介を聞いた。


「椿様の命により、今からあなた様の使い魔となりました。イリスと申します。以後、何なりとお申し付けください」


私にとって持ち主が変わる事は何度もあった。木原家に来てからは、代々この家の嫁に仕えた。


悪魔として対価を得て、悪魔として主に仕えた。


今度もまた、私は悪魔として真白の娘である朱莉に仕える事となった。悪まで使い魔としてだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ