case 06 無知との遭遇
誠の目に映ったのは、鶏冠野郎へ飛んでいく、礼人の背中。
礼人の両袖は千切れ飛び、露出する肩から両手まで、機械質の緋色の装甲に覆っていた。
緋色の装甲の両肘部分からは、ジェットエンジンのスラスターの様な機構が後ろに向かって飛び出し、そこから溢れる炎が、礼人を一直線に加速させる。
チビ君に向き合う鶏冠野郎。その項から伸びるムカデの根元に、礼人は、強烈な手刀を水平にたたきつけた。
その威力は、ムカデを背負った鶏冠野郎を横方向に弾き飛ばし、地面に転がすほど凄まじい。
礼人の肘から飛び出ていたスラスターから、炎が途切れる。礼人は、両足で地面を滑り、チビ君の前で停止した。
「付け根から切断するつもり…だったんですけど。なかなかどうして、頑丈ですね。その悪趣味な虫」
礼人は、手刀に使った自分の右手首を左手で掴み、右手を握ったり、開いたりを繰り返して、感触を確かめる。
礼人の肘についていたスラスターが装甲に格納された。
その間に、転がっていた鶏冠が、四肢で地面にしがみ付くと、ゆっくり立ち上がる。
礼人が狙った、というムカデの付け根の骨格も、ムカデ本体も健在のようだ。
「ほおぉ……やるじゃねえか、女……」
どうやら、鶏冠野郎は一瞥して礼人を女だと思ったらしい。
だが、その言葉は、礼人のプライドをひどく傷つけた。
「僕は男です。クソトサカ君!」
愛らしく美しい礼人の瞳に、怒りの色が浮かぶ。
それでも、彼の崇高で気高い御尊顔が貶められることはなく。寧ろ、凛々しくも情熱的な造形に昇華していた。(誠談)
その一方、誠ときたら、ス〇ール〇イズのアレよろしく、アホみたいに口を開けて、見ているだけだった。
この様子だと、現状の半分も理解していまい。ちなみに、彼のお頸は無傷。
同じとき、山吹色の髪の少女のそばに、人影が忍び寄る。それは、長い黒髪の人物。
ミッチャンと思わしき長髪の人物であった。
マスクで口を覆っていて、聞き取りづらいが、山吹色の少女に、怪我の有無を聞いている。
聞かれた少女は、笑顔で「大丈夫!」と答えていた。
チビ君は、当事者とは思えないほど、冷静に周りを見て、そして、おもむろにズボンのポケットから、誠が持っているモノと同じ端末を取りだし、画面を操作すると、耳元に添える。
連絡が入ったのか、チビ君は「…うん、大丈夫……分かった」と誰かに応答していた。
鶏冠野郎は、項に手を当てて、首を回しながら礼人に問う。
「そのガキのチビ仲間か?それとも、命知らずの出しゃばりか?」
「いいえ、僕は、この小さい子の知り合いでもなければ、命知らずでもありません」
チビ君は、端末を握り締めると、冷静な顔が一変、怒りに変わる。
少女がすかさず、チビ君の傍に近づき、その肩に触れて「大丈夫……小さいことは、悪じゃないよ!」と親指を上げて、チビ君のハートにとどめを刺した。
撃沈したチビ君は、その場でうなだれる。
それに構わず、礼人と鶏冠が睨み合う。
「この場を引くなら、追いかけませんが?」
礼人が提案すると、鶏冠野郎は鼻で笑った。
「てめぇこそ逃げたらどうだ?…でないと、殺すぞ…雌豚野郎」
交渉決裂。二人は身構える。
礼人は鶏冠野郎に対し、体を横にし、拳を構える。
鶏冠野郎は、前屈姿勢で重心を下す。ちょうど頭の高さが、礼人のお腹と同じくらいになる。
背中のムカデは頭を持ち上げて、礼人をねめつける。
「名前、あるんでしょ。やられる前に名乗ったらどうです?」
「三下のオカマに教える程、俺の名は安くねぇッ!」
鶏冠が低い姿勢のまま、大地を蹴りつけ、礼人に飛び掛かる。一瞬で互いの距離が縮まる。
鋼の拳と鋭い牙が激突する、まさにその時。
「ちょぉぉおおっとまぁあったぁぁあああ!」少女の号令が響くと、礼人と鶏冠野郎の間に、回転しながら飛んできた物体が割り込み、地面に食い込む。
鶏冠野郎と礼人は、踏み止まり、決闘に水を差したものを睨む。
飛んできた物体の正体は鉄板、或は、何かの外壁のように見える。
細部を確認すると、鉄の梁で補強された四角形に近い鉄板で、大きさは、一メートルほど。
礼人も鶏冠野郎も一歩引くと、同じ方を振り向いた。
二人の視線の先に居たのは、山吹色の髪の少女で、彼女の皮手袋をはめた左手は、梁で補強された菱形に近い鉄板を支えていた。
少女は、深く呼吸してから「仲良くしなさいよ!」と叫ぶ。
鶏冠野郎も礼人も、茫然とし、その場にいた他の人たちも、呆気にとられた。
少女は、腰に手を当てて、話を続ける。
「私は最初、弱い者いじめはやめろ、と言いました。でも、喧嘩をしなさい、とは、言ってません!」
鶏冠の目が、かっ、と見開かれた。
「うるせぇっ!クソアマ!引っ込んでろ!」
「残念ながら、私は尼でも、海女さんでもあ・り・ま・せ・ん!」
いまいちかみ合わない会話は、さらに鶏冠を苛立たせる。礼人もそれを察知して、少女に「離れて!」と伝える。だが、少女は強情であった。
「いやだよ!この人を懲らしめないと、気が済まない!」
それは駄々をこねているように聞こえて、礼人も少し呆れる。
ミッチャンも少女に向かって「いいから、離れようよ!」と説得する。
鶏冠野郎は、鼻で笑う。
「懲らしめるだぁあ?ふっ、どうやって懲らしめるんだ?まさか、その鉄板でか?」
見たところ、少女に鶏冠野郎とやり合うだけの度胸はあっても、術も技も力もなさそうに見えた。だが、少女は笑みを作る。
「ふふふ、私の真の力、見せてやる!とりゃぁぁぁあああ!」
少女は、掛け声と同時に、地面に両手をつける。その瞬間、彼女の手と地面の間が、にわかに青白く光る。そして、彼女の掌より発する光が沸騰したように波打ち、そこから、鉄の塊が溢れ出した。
塊は、先ほど見た鉄板のようなものばかり、何かの壁や、配線が飛び出たもの、大型の機械部品。
それらのガラクタは、積もり積もって山となり、いつの間にか、少女は、ガラクタ山の頂に居た。
「わっはっはっはっ!」と軽快な笑い声を響かせる少女は、地上から十メートルほどの高い場所で、腕を組みながら、眼下を覗く。
「どうだ!参ったか!」などと少女は言うが、何をどう参ればいいのかわからない。
礼人も鶏冠野郎もミッチャンも誠も、唖然として見上げるばかりだった。
鶏冠野郎の目に映ったのは、虚勢を張る小娘の姿。今は高所に居座るが、何の脅威にもならない。
少女自身、ガラクタの山に鎮座したのは、考えての行動、ではなかったようで、不安定な足場で四つん這いになり、己の重心を支えるので精一杯のように見えた。
鶏冠野郎は鼻で笑って、礼人に向き直る。
鶏冠野郎にとって、今一番危険な相手は、間違いなく、その両腕を攻撃的な形に変容させた礼人だ。
周りの野次馬や、ましてや少女は、彼の認識では雑魚に過ぎない。
ただ一つ懸念していたのは、傍らで静観するチビ君。
その目つきは鋭く、状況をつぶさに観察していた。
鶏冠野郎は、まず目の前の女男(礼人)を片付けることを決意する。
その次は、おそらく、チビ(チビ君)とやり合うことになる。そんな予感がしていた。
その時、鶏冠野郎の眼前に飛来した拳をムカデの額が防ぐ。
鋼鉄と鋼鉄がぶつかり合い、火花が散る。
礼人の右拳をムカデは押しのける。すると今度は、鶏冠野郎が礼人の腹目掛けて、右足を勢いよく蹴り上げた。
礼人はそれを、一歩下がって避ける。が、上からムカデの牙が追撃する。その牙を、礼人は、鋼の両手で掴んで防ぐ。
鋭いムカデの牙は、鋼の手中で完全に動きを止められた。
だが、鶏冠野郎本体が姿勢を低くして、両腕を引き、礼人へ迫る。
鶏冠野郎が放った右拳が、がら空きの礼人の胴に高速で飛び込む。
礼人の二の腕を覆う装甲が開き、そこから、スラスターが前に向かって飛び出す。
鶏冠野郎の顔面に、熱風の激流が吹き付けると、当人は、腕で顔を隠し、後ろに引き下がる。
礼人はスラスターの噴射で、後方に向かう推進力を得ると、鶏冠とは逆方向に飛ぶ。
無論、ムカデの牙は掴んだまま。
鶏冠野郎は、両足に力を込めて、何とか後ろに下がろうとするが、礼人がそれを許さない。
少女が見下ろす中、礼人と鶏冠野郎は、胴体が最初より伸びたムカデを綱代わりにして、引き寄せ合う。
しかし、両者の引っ張り合いは、装置の力を借りた礼人に軍配が上がり、鶏冠野郎は、前のめりになりながら、何とか踏みとどまる。
そのまま鶏冠野郎が引きずられる、かに思えた時。後方に飛んでいた礼人が、その場で滞空し、動きを止める。
スラスターの噴霧は終わっていない。それに、礼人本人も、自分が後ろへ動かないことに当惑した。
彼の飛翔が止められた、その原因はムカデ。
背骨の様な胴体に並ぶ脚が地面に触れたとき、生え揃う鋭い爪を大地に食い込ませ、体を繋ぎ止め、引っ張られることを阻止した。
更にムカデは、身体を反り上げる。
髑髏の頭部は、礼人に掴まれて、固定されている。しかし、尾の先に結合した鶏冠野郎の体は、無理なく持ち上がり、そのまま空中に大きく振り上げられる。
鶏冠野郎は、礼人めがけて、かかと落としを入れる態勢に入る。
「礼人ッ!」誠が叫ぶ。
礼人は今、牙をつかんでいる。それを放せば、次は、ムカデの方が襲い掛かる。
鶏冠野郎は、ムカデに振り下ろされた勢いに自身の脚力を加算、更にその他の力学的エネルギーを集約した踵を礼人に振り下ろそうと迫る。その時
「やめろーッ!」少女は叫び、真下の二人に向かって手を伸ばした。
彼女が乗るガラクタの山が傾き、上から崩れて、全体が瓦解する。
数えきれない金属の瓦礫が空を見上げた礼人と鶏冠野郎に向かって降り注ぐ。
ムカデが体を捩じると、即座に鶏冠野郎が地上に降ろされる。
鶏冠野郎は、そのままムカデを引かせようとするが、ムカデの牙を礼人は手放さなかった。
(自分諸共、俺を生き埋めにするつもりか?!)
少女は、空中に投げ出され、その身を重力が引きずり込む。
そばにいたチビ君も、落ちてくる無数の瓦礫を見上げたが、そのポーカーフェイスは崩れない。
そして、瓦礫の雪崩の中に四人は飲み込まれた。
広がる砂煙の中から、けたたましい騒音が鳴り響く。
「ロッテッ!」ミッチャンが絶叫する。
「礼人ッ!」誠が眼前に広がる砂煙に叫ぶ。
だが、返事はない…かに思えた。
「ミッチャン!」
ミッチャンも誠も、真後ろを振り返る。
そこには、ロッテと呼ばれた、山吹色の髪の少女と礼人が、長髪の青年に抱えられていた。
青年は、引き締まった長身に黒い和服テイストの衣服を身に纏い、口に刀の刀身を食わえていた。
長髪の青年は、抱えていたロッテと礼人をその場にやさしく下す。
ミッチャンがロッテに、誠が礼人に駆け寄る。
ミッチャンはロッテの肩を掴み、怪我はないか、必死に問う。が、ロッテは煤けた顔で笑顔を作り「大丈夫!」と答えた。しかし、心配をかけたことを、悪く思っているらしい。その笑顔は、どこか気後れを感じた。
礼人も誠に向かって「大丈夫」と一言だけ言うと、両手のそれぞれに握りしめていた二本の刃を見る。
それは、あのムカデの牙であった。
長髪の青年は、両手を叩いてから、口から刀を外し、怒鳴った。
「正在ッ!なんでもっと早く止めなかった!」
返ってきた答えは「だいじょぶだったろ?」というチビ君の声だった。
誠と礼人、ミッチャンとロッテが、一斉に振り返ると、目に映った砂煙が次第に薄れ、地に満ちる瓦礫の真ん中に、人影が浮き上がる。
鶏冠野郎と思い、礼人が身構えたが、現れた人影の正体は、チビ君だった。
「にーちゃんが来たし、来なかったら、適当なところで止めてたよ」
砂煙が完全に消えると、円形に瓦礫が取り払われた真っ新な地面の真ん中に、チビ君改め正在が、無傷で立っていた。
長髪の青年は、腰の帯に差した鞘に刀を納めると言い返す。
「ふざけるな!怪我人が出なかったのは、運が良かったからだ。新入生を守れ!
ったく、後で爺さんに言っとくからな!あと、唯にも」
長髪の青年がそう言うと、正在は明らかに嫌な顔をする。
しまいに、合掌しながら「悪かった、だから何卒お慈悲を…」と平謝りしだした。
その直後、山積していた瓦礫が、音を立てながら盛り上がり、そこから、ムカデが飛び出す。
「ックソがぁぁぁああッ!」鶏冠野郎の叫び声が轟く。
ムカデがどけた瓦礫の下から、鶏冠野郎が立ち上がる。
立派だったモヒカンは、崩れて曲がり、頭から流れる血が頬を伝う。
鶏冠野郎は、怒りに染まった目で、周囲を睨みつけると、新たに人が加わったことに気付く。
鶏冠野郎は、理解した。
あの長髪の男が、あの混乱の只中に突如現れ、ムカデの牙を切り落としたことを
誠とミッチャンは、長髪の青年の前から撤退し、その後ろに回る
「誰だてめぇ!なんで俺の斬骸鬼の牙を折った!?」
長髪の青年は「ザン、ガイ、キ?」と呟いて首をかしげるが、すぐにムカデのことだと気づき、礼人を見ながら質問に答える。
「この少年を見つけた時、両手でしっかり牙を掴んでてさ…時間もなかったし、言葉を伝えるより、切った方が早い、と思って、切った。それだけだ」
ロッテは思い出す。
瓦礫と共に落下していたとき、いきなり、誰かに襟をつかまれて、放り投げられた。
すると、かわいくて、かっこいい腕をした少年と対面した。
礼人も思い出す。
少女が目の前に現れた後、長髪の男の人が現れた。その時には、すでに、ムカデの牙が切られていた。そして、男の人に体をつかまれて、いつの間にが、誠たちの後ろに居た。
思い出して、礼人は若干頬を赤らめると、長髪の青年に眼差しを向ける。
一方、鶏冠野郎は、長髪の青年の答えに納得できなかった。
ムカデも、暗い眼で自分の牙を奪った敵を睨む。
だが、長髪の青年は緩い笑みを浮かべながら、穏やか、というより、気の抜けた言葉で話し出す。
「まあ、ここはアトリ…矛を収めて、話し合おうじゃないか?その方が、お互い怪我せず済む」
その時、長髪の青年の顔面に金属の塊が飛来する。
礼人の目が見開かれると、長髪の青年は、飛んできた塊を片手で、やすやすと受け止め、長い黒髪が風圧でなびいた。
ムカデは、前脚四本で落ちている瓦礫を掴むと、全身を反り返らせる。そこから、一気に、身体を内側に丸め、その反動を利用し、瓦礫を投擲した。
放たれた瓦礫は、長髪の青年に向かって高速で迫る。だが、青年は持っていた瓦礫を手放し、左手を伸ばすと、自身の上半身くらい大きい瓦礫を簡単に受け止めた。
鶏冠野郎は、それを黙って見据える。
ムカデは、一辺が一メートルほどの鉄板の縁を全ての脚で挟むと、鶏冠野郎の左側で丸まった。
鶏冠野郎は、体を傾けて、左回りに、回転を始める。
一回りするたびに、遠心力が強まる鶏冠野郎。その回転が最高潮に達した時、ムカデは、体を思い切り伸ばして、鉄板を水平に投げつけた。
長髪の青年に高速回転する鉄板が迫る。礼人が長髪の青年の前に飛び出し、装甲に包まれた腕でガードの構えを見せた。
鶏冠野郎が回転を止め、礼人を見て、口角を釣り上げる。
そのとき、長髪の青年が礼人を右手で押し退けて、左手を前に突き出し、素手で、鉄板の衝撃を受け止めた。
周りの皆、目を見張る。鶏冠野郎も礼人も目を丸くする。
長髪の青年が鉄板を手を放すと、その場に、重い金属音が鳴り響く。
「無駄だ、こんなことをしても俺には効かないぞ?」
そう言って、長髪の青年は、嘆息する。
ロッテは青年を見つめ「忍者……」と目を輝かせた。
確かに、その装いや、力強い言動を見る限り、あながち間違いではなさそうだ。
だが、鶏冠には、目の前の長髪の男が、忍者だろうが、コスプレイヤーだろうが関係ない。
「だったら……これならどうだッ!」
吠える鶏冠野郎の体が、禍々しい黒い炎に包まれる。
それを見て、流石に、青年も眉を顰めた。
一帯の空気が、渦巻く炎に吸い込まれる。それに伴って吹き荒れる風に、周囲の人々は、腕で顔を隠し、悲鳴や、叫びや、狼狽の声を上げる。
「みせてやらぁあッ!俺の実力を、来栖 愛助の本当の姿をッ!」
渦巻く黒炎の中から、鶏冠野郎、改め、来栖 愛助の声が轟いた。
チビ君は熱風に曝されながらも、腕を組み憮然とした表情で炎を見つめる。
長髪の青年も動じることなく、生き物の様に暴れる火炎を睨んだ。
そして、膨張と収縮を繰り返した炎が、一気に消し飛ぶ。
荒れ狂う風が収まり、人々が顔を上げると、それまで炎の渦が捻じれていた地面が、円形に黒く燻ぶっていた。
焦げ付いた地面からは、陽炎と煙、そして火の粉が舞う。その中で、立ち上がったのは、鋼の蜈蚣だった。
完全なムカデ思わせる黒鉄の甲殻に覆われた長い胴体には、太い虫の脚が並び、先端にある鉤爪を蠢かせる。
頭部の髑髏の頭は肥大化し、口元の牙は、巨大な鋏へと生え変わる。
そして、本体である愛助の上半身に抱き着いていた腕の骨の装甲には、鋼の肉が張り付き、柔らかく女性的な曲線を再現する。
そんな逆さまの腕は、優しく愛助の胸元を抱擁した。
黒鉄が溶けて冷え固まった塊が愛助の頭を覆い隠す。
彼の両手両足には、黒鉄の骨が添え着けられて、両手の指先から鋭い鋼の爪を生やす。
背骨に沿って通る贋物の背骨からは、細長い尾が伸び、その先端は、鋭く尖っていた。
これが、髑髏のムカデ『斬骸鬼』の本性であり、愛助の力、であった。