棒立ちの彼女
今日は、いつもより早く仕事が終わった。この時間なら同棲中の彼女も、まだ帰って来ていないだろう。玄関のドアを開けると電気が付いている。しかし彼女の靴はない、コンビニにでも行っているのだろうか。
「ただいま」
居間のトビラを開けながら言う。誰もいないのだから当然返事はない。喉が乾いたお茶でも飲もう。キッチンの方を向くと
「っ!なんだいたのか。返事してくれよ」
彼女がキッチンに立っていた。背中をこちらに向けているので顔は、見えない。話掛けているのに返答がない、何か怒らせる様な事をしただろうか……
「なぁ、黙ってないで何か言ってくれよ」
着信音が鳴り響く。俺は、少し驚きながらもスマホを取り出し画面を見る。画面には、彼女の名前が表示されている。ばっ!とキッチンを見る。キッチンに立っている何かは、微動だにしてない。ただ俺に背中を向けて立っている。目戦を外さない様にしつつ電話に出る。
「ねぇ、今買い物してるんだけど夜ご飯なにがいい?」
スマホから彼女の声が聞こえる。目線を外さない様にしていたのにキッチンに立っていた何かは、消えていた。すると直ぐに聞こえた。耳元でハッキリと
「ちっ」
と言う舌打ちが。俺は、脇目もふらずに玄関に向かって走り出した。