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扉を開く理由



「わかったよ。もう部屋にこもったりしないから」


 僕は決心して、そう宣言した。照れ臭くて仲間の顔を直視できない。


「母さん! シャワー浴びるから、着替え出してくれる!」


 それだけ言うのも精一杯だった。喉がカラカラだ。


 僕は歓声をあげる友人たちから逃げるように、キッチンの方に歩いて行った。冷蔵庫のフレンチドアを開き、麦茶を取り出して、また閉める。とそこに、マリアが立っていた。


「タイチ、ありがとう」


 マリアは少しだけ泣いていた。


 僕はマリアの方を見ずに、コップ一杯の麦茶を一気に飲み干した。ひと息ついてから、小さな声でマリアにだけ言う。


「僕こそ、ありがとう。馬鹿だった。子供みたいに、駄々こねてた」


「そんな事ないよ! 傷つけたのは確かだから」


 しばらくの無言のあと、僕はあらためてマリアに向き直った。


「あの……こんな子供(ガキ)みたいな僕の言うことなんて、信用できないよね。でも……さっき、最後に言ったことは嘘じゃないから」


「え?」


「最後の、返事だよ。僕は本気だった……本気でマリアを守りたかったんだ」


「タイチ……」


 僕がその扉を閉じたのには、理由があった。


 大事な友だちに裏切られたと思った。もう二度と喋るもんかと(かたく)なに信じてた。


 でもそれは単なる誤解だった。耳も心も閉ざして、勝手に結論を決めて、暗闇に逃げ込んでいたんだ。


 そして今はもう、みんなとの間に誤解はない。だから僕が引きこもりを続ける理由も、死神と共に消え失せた。


 再び扉を開くのに、理由は要らないんだ。


 必要なのは、恥ずかしさを耐える準備と、言葉を返す少しの勇気。


 ただ、それだけ。


(僕が引きこもりを始めたのには理由がある   おわり)


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