愛されてるってことなんだけども
「紫帆おまたせ。」
「待ってないですよ。お疲れ様です。」
カフェテリアを閉める頃には生徒は居なくなり軽く片付けをしていれば、数時間前に見た顔がひょっこりとカウンターの向こうから顔を覗かせる。そのまま座った貴史さんにコーヒーを、自分用に紅茶(今日飲みすぎな気がする)を用意して隣に座る。
「今日は篠崎さんも一緒に帰るの?」
「いや、交流会の打ち合わせで向こうの理事長とご飯食べてくるから先に帰っててだって。」
姉妹校の新しい理事長は清蘭の教頭をやっていた人だ。私が学生の頃から定例会で顔を合わすことが多くて仲良くなったようで。交流会の話が出たのもそれが要因の一つでもあるんだろうなと。つまり、篠崎さんが教頭と仲良くならず、こちらの理事長にならなければ続編そのものが始まることはなかったと考えて恨めしくもあるのだが。まぁ、それがフラグだったなんて当時は知りもしないからどうしようもないのだけど。
「そういえば、さっきテラス来る途中に彼を見たけど、紫帆に会いに来てたの?」
「彼?」
「ほら、国立君。」
そういえば貴史さんが来た時には彼は既に帰っていたけど、外ですれ違っていたのか。
偶然だったことと結花ちゃんとのやり取りを話せば、とても楽しそうに笑っている。犬猿の仲な彼女が困る出来事は愉快なようだ。
「いいじゃないですか、そのままくっついてしまえば。それで彼に束縛されて僕と紫帆の時間を邪魔出来ないようになればいい。」
「そこまで国立君って独占欲あるとは思えませんけど。」
ゲーム時代の彼の設定にそんなような記入はなかったし、学生時代もそんな片鱗は見られなかったと思うのだが。
空になったマグカップ(実は私達専用の完全な私物)を片付けてカフェの戸締りをする。教員用の駐車場は此処から少し距離があるので、並んで歩けば荷物を奪われた。むむ、流石紳士。
「交流会、本当に行っても良いんですか?」
「勿論。僕より篠崎さんが連れて行く気満々だね。向こうでの人件費削減で。」
「なるほど。ご飯作れこの野郎ってことですね。」
勿論私一人で作ることはないだろうけど、お手伝いさんが足りないのかな?
この交流会が前半のメインなはずだし、確実にイベントはあるので参加出来るのは状況も把握しやすくて助かる。教師と立ち位置が違うから自由な時間もそれなりに確保できるだろうし、ヒロイン達の監視も問題なさそうだ。
まぁ、一つ懸念材料があるとすれば。
「なかなか旅行とか行けないからね。二人きりじゃないのが凄く腹立たしいけど、楽しみだ。」
独占欲強めな婚約者様が私の動きを監視しかねないことかな。
貴史さん、学校行事なんだから二人きりじゃないことに文句言わないでください。




