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SC&C探偵事務所  作者: 上月晶
3.
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エピローグ

「ええい……誰だか知らぬが、余計な魔術ものを広めてくれおって……!」

 グランゾは忌々しげに呟いていた。

 次々と撃ち込まれてくる加速砲アクセラレイトカノンが彼の装甲を削ってゆく。

 物理攻撃であり、砲弾自体は小さいものの超高速で飛来するそれは呪力フィールドでも着弾までに破壊する事が出来ず、僅かとはいえグランゾに損害を与える事に成功していたのだ。


 彼の前には扇状に広がったメーネの軍勢が居る。

 メーネ自身はもはや前線には出ない。以前のような一騎打ちはもはや行われない。しかし、こんな雑魚ども相手に自分が押されているという事実を、グランゾには認める事がどうしても出来なかった。


 一挙に轢き潰してくれる。そう考えて背中の翼を展開する。

 呪力スラスターが悲鳴のような音色をあげ、彼の身体を高速で押し出してゆく。

 しかしそれに伴い加速砲アクセラレイトカノンの損害は増え、また命中精度も上がっていた。


 砲を形成しなければならない性質上、加速砲アクセラレイトカノンは通常の魔術のような視線による照準が出来ない。砲自体を相手に向けなければならない。

 よって精度に若干の問題が存在した訳だが、距離が詰まれば命中も容易くなる道理だった。


「ちぃっ……!」

 片方の呪力フィールド発生器を破壊され舌打ちをするグランゾ。

 フィールドの裂け目から相手に並ぶ砲が覗き、直撃弾を受けるかと左腕を防御に回す。

 しかし、覚悟したその衝撃は訪れなかった。


「そなた、防御は機体の機能に頼りすぎじゃのう。魔法拡大できるのに障壁の一つも張らんのか」

 グランゾの割れた呪力フィールドをカバーするように立つノエニム。

 グランゾは、その姿を見て我が目を疑う。

「貴様……何故、我を助ける」

「はぁ? 前に言ったじゃろ。そなたとは協力関係を結ぶ事ができるやもしれんと」

 状況が変わった今、グランゾも心変わりしているのではないかと。

 そう思ってやって来たのだと、ノエニムは笑いながら言ってみせる。


「状況……か」

 確かに状況は変わった。今やグランゾの防御力は絶対ではない。

 しかしそんな自分に味方する意味も無いのではないかとグランゾは訝ってみせる。

「何故メーネに付かぬ」

 そう言ったグランゾに、ノエニムは馬鹿馬鹿しいとそれを一蹴していた。

「あっちにおるのはメーネ信者のみよ。統治を任されたところで、吾にとっては何の旨味もない者達じゃぞ?」


「そうか、そう言えば……そうだったな」

 グランゾは笑い、そしてメーネの軍と距離を開く。

「長距離砲撃戦ならば未だこちらに分がある。やるぞ、ノエニム」

「応よ!」




「優勢ですね……あのグランゾ相手に」

 魔族の男はメーネの傍らに立ち、そう言っていた。

「そうね……この魔術を広めるよう言ってくれた黒き民の男……彼には感謝しなくては」

 メーネは静かに、呟くように答える。


 彼女の首の後ろと、そして胸元には指揮用の魔法陣が多重展開していた。

 彼女はもはや前線には出ない。こうして、後方で戦場全ての状況を把握しながら指示を出し続けるだけだ。自分の役目もめっきり少なくなってしまったと、魔族の男は考えていた。


「……そういえば……」

 ふと、メーネが口を開き、男はその言葉に耳を傾ける。

「グランゾの中身、少年だったのね。……出来れば無傷で捕えられないかしら」

「は?」

 一瞬彼女が何を言っているのかわからず、素っ頓狂な声を出す男。

「あ、いえ……何でもありません。忘れて下さい……」

 そう言って再び指揮へと戻ろうとするメーネに、男は声をあげて吹き出してしまっていた。

 そして、言う。

「いいえ……そちらの方がメーネ様らしいのではないかと。少なくともかつてのメーネ様はそうでした」


 蘇生されてからのメーネは、呪われていた間の記憶を大部分失ってしまっている。

 それで状況を聞いてすぐにあの戦いに参加したというのが驚くべきことだったが。

 戦いが終わった後、それに気付いた彼女の配下たちは深く安堵すると共に、なにやらひどく寂しいような、そんな気持ちになってしまっていたのだった。


 彼女は彼らが期待する以上の存在となった。

 彼女を守ってきた自分達の行いは正しかったのだと心底から思えた。

 それでも、である。メーネの衝動的な奇行をも、今から考えれば自分達は愛していたのではないかと。


「……こんな事をしじゅう言っていたとしたら、相当なものね……」

 メーネはそう言って苦笑する。だが、男の態度から自分が若干はそういった所を期待されているのに気付いたのだろう。

「無理をしない範囲で、私が先程言ったこと、考えておいてくれる?」

「……はっ!」

 微笑みながらメーネは言い、男もまた笑みながら応え、部下にその言葉を伝えに行った。






 ニーアは封印街を歩いている。

 買い込んだいろいろなものを詰めた紙袋を両手に抱え、クレフたちの事務所前を通過する。

 彼女が通り過ぎたそのすぐ後で、扉は内部から開かれていた。

「それじゃあクレフ、また次の返済日にね!」

「こら、待てサリィ! 本当に顔を出しただけじゃないかお前っ! 金を返させろ!」

 飛び出した悪魔娘が翼を広げて飛び去ってゆき、続いて飛び出てきたクレフとスゥがあたりを見回して、ニーアの後ろ姿を見てしばし固まる。

「あれ、って……」

「本当に、帰ってきてたんですね……」

 そんな言葉を交わすクレフとスゥ。

 彼らはもう、サリィを追いかけていた事など忘れてしまったかのようだった。


 ニーアは封印街を歩いている。

 アーベルの店のテラスで軽い食事を済ませ、店の中を覗き込み、カウンター内でグラスを磨くアーベルの前でカーラがまた昼間から酒を飲んでいるのを見、支払いを済ませ去ってゆく。

「ねえカーラ、事務所の方はちゃんとお客来てるわけ?」

「そこそこにはな。月に1~2度、人探しの依頼がやって来る」

 捜索の期間は概ね1週間程度、人員はクレフとカーラ、たまにスゥしか居ないため依頼人がやって来る頻度としてはこれで問題ないのだが、暇である事には変わりない。

「いつ見てもここに居るような気がするもんねえ。事務所に居なくていいのかい?」

「いいのだ。今日はスゥが休みの日なのだから、私とても遠慮という言葉くらいは知っている」

「……言葉の、意味の方は知ってたっけ? いででででっ」

 軽く触れられただけで左腕を突っ張らせ、呻き声をあげるアーベル。

 彼はふと窓の外を見、ぎょっと目を見開いていた。

「どうしたのだ」

「あ、いや……今、ちょっと外にさ」


 ニーアは封印街を歩いている。

 ザウロンの工房前を通りかかり、ちらりと中を眺める彼女に、気付いたカトランが片手をあげる。

「あんな事を言って、それから三ヶ月。随分と時間がかかりましたな」

 軽い会釈を返しただけで行ってしまったニーアを見送り、カトランはそう呟いていた。


 ニーアは封印街を歩いている。

 かつてヴァンパイアが経営しており、少し前にはレイリアが店主に収まっており、今ではメディアとクライスが引き継いだ雑貨店を眺め、箒などを買い求めてゆく。


 そして、ニーアはかつて自分が居た場所、宿のような部屋数の多い建物へと戻ってきていた。

 約1年といったところか。それだけの間で随分と埃っぽくなってしまった内部を見て回り、とりあえず自室だけを彼女は軽く掃除する。

 そしてクローゼットを覗いて新しい衣服を身につけると、宿全体の本格的な清掃にかかった。

 一日ではどうにもならない。一週間は見なければいけないか、そんな事を思いながら一応は客間の一つを綺麗にし、今日の仕事を切り上げるニーア。

 そして休もうと思った矢先、建物のドアは荒々しく叩かれていた。


「どうなさいました?」

 ドアを開きそう問いかけると、その戸口には瀕死の男を抱いた鎧姿の女性が蹲っている。

 なにか、何処かで似たような光景を見たような。そんな事を考えながらニーアがその二人を見下ろしていると、女性の方は切羽詰まった声をニーアにむけて叩きつけた。

「お願いします、誰か……癒し手を呼んでいただけませんか!?」

「ああ……それならば、良い場所を訪れましたね」

 ニーアはそう言ってその場に跪き、男の身体に復元レストアの魔術を使う。

 男の傷はだいぶ深いものであったため完治したとは言えないが、少なくとも死の淵にある状態からは脱し、男の息が安らかなものになる。

 何度も礼を述べる女性と共に男を支え、昼間綺麗にした客間へと運び込んで、ニーアは言った。

「それにしても、何故……あんなことに」

「それ、は……」

 女性は言いよどんだ。ニーアは恐らく、あの傷はこの女性がつけたのだろうと思っていた。

 さて、どちらが勇者でどちらが魔王なのかはわからないが。それとも第三者がそうなのか?


「まあ、言いにくい事もあるでしょうね。ここを訪れるような人間は、大体そんなものを抱えたひとばかり」

 ニーアは言いながら立ち上がる。

「この"世界"へ来るのは初めてなのでしょう?」

 そう言ったニーアの言葉に、女性は躊躇いながらもうなずいていた。

 そんな女性にニーアは穏やかな笑みを向けてみせる。


「では、あらためて……封印街へようこそ」

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