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SC&C探偵事務所  作者: 上月晶
1.失ったものへのスタンス
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3.不死の魔王

「本当に闘り合おうというのかえ? お互い死ねぬ身じゃというのに、無益な事よの……」

 東側の『大魔王』が口を開いた。ひどくわざとらしい口調で。

 その姿はどう見ても10歳前後の少女にしか見えない。

 黒に近い緑色の髪、緑の瞳、そして褐色の肌を持つ少女。その顔立ちは幼くはあるが妖精のように整っている。どこか、黒き民と似たような顔にも思えた。


「そうだな。だが……出遭ってしまった以上、ただ素通りは出来ない」

 西側の『大魔王』が応じる。

 その姿はただの人間。しかも、ある種の存在に人が思い描く要素を全て詰め込まれたようだった。

 若い男性。燃えるような赤い髪。均整の取れた肉体。男性的に整った顔立ち。

 身に纏うのは青みがかった銀――神造合金オリハルコンの鎧であり、肩には一本の片手半剣バスタードソードを鞘に収めて提げている。

 即ち英雄ヒーロー


「そうじゃの……」

 東の少女は周囲に集まる互いの配下ギャラリーを眺めてそう呟いていた。

 確かに、これだけの人目があれば、ただ挨拶をして通り過ぎるという訳にはいくまい。

「ほんに、グランゾは惜しい事をした。あやつがあの防衛力によって吾等を隔離しておったからこそ、こうしてそなたとツラを合わせずに済んでいたものを」

「だが……所詮彼はただの魔王だ。光輝のシェルディアと月のプレディケ、二柱の精霊神が選んだ不死の魔王である俺達が、いずれこうして出遭うことは必然だった」

 英雄は片手半剣を引き抜く。


霊王レイスキングノエニム、少しばかり付き合ってもらう」

「英雄王ツヴェルケル。……ふ、くだらぬ名よ」

 互いに名を呼ばわる。大した感慨もなく。

 最後に言葉を交わしたのはどれだけ前だったか覚えていないが、どうでもいいことだ。


「ここには調停者ツェニアは居ない。全ては遠い記憶の彼方だ。俺達の命を終わらせられるものは何も無い。それでも――始めよう。俺達の存在同様、有害無益な戦いを」

「ふ――」

 ノエニムは薄く笑って答えたが。

 実際のところそのはらわたは煮えくり返っていた。


 んぁあもう、ほんっとにこやつは……この顔から言動、何から何まで光輝シェルディアが好みそうな男よ。

 なーにが『俺達の存在同様、有害無益な戦いを始めよう』じゃ、このたこすけが。さぶいぼがでるわっ!

 なによりこやつが勝手に喋るのを許しておったら、話に直接関係ない用語がページに溢れてしまうではないか。

 ファルシのルシがコクーンでパージじゃっ!


 さて。

 二人だけならば適当におちょくり倒して済ませる所だが、確かに双方これだけの部下に囲まれていてはそういう訳にも行くまい。それなりなショーは見せてやらねばならなかった。

 どうすべきか――とノエニムは解析アナライズを起動する。

 これは魔術ではない。世界を渡る者である彼女のみが許されている能力だ。


 ツヴェルケルの周囲に青いウィンドウが開いてゆく。

 特に興味のない情報は省き、戦闘パラメータのうち固有のもののみを表示させる。


 ――――――――

 識別名称:ツヴェルケル 称号:ドラゴンスレイヤー/不死の魔王

 真名:閲覧権限無し

 レベル:120 [世界設定における最大値]

 ヒットポイント:閲覧権限無し

 マジックパワー:255/255


 スキル [固有のもののみ表示]

 ・適応装甲

 あらゆる攻撃手段に対し、被弾ごとに段階的に耐性を獲得する。

 半減→無効→反射→吸収と移行し、戦闘終了により耐性はリセットされる。

 ・死ねない

 一種の呪い。

 ――――――――


 いつ見ても頭のおかしい能力よ、とノエニムは溜息を吐いた。

 この二つの組み合わせはいかんじゃろ。生命力に閲覧制限がかかっているのも臭い。

 強引に制限を解けば光輝シェルディアが神罰を飛ばしてくるのは確定なので見ないが、何が書いてあるのかは大体の予想がつく――未設定――そんなところだろう。


 シェルディアが人間に能力を与えるなんて事は殆ど無いが、それだけにやる時は極端だ。

 同じ不死であるとはいえ、プレディケの使徒であるノエニムはだいぶ不利である。

 だが、今回は面白い趣向を思いついた、とノエニムは微笑わらってみせる。


「では……ゆくぞ」

 片手半剣バスタードソードを担ぐようにして構えるツヴェルケル。

 その刀身に精霊が吸い寄せられ、徐々に虹色に光り輝いてゆく。

「シェルディア――この俺に力を!」

 叫ぶと同時に横一線に剣を振り抜く。射出された光は二つの山をも繋ぐ程の長大な魔力刃となって、ノエニムとその背後に並ぶ配下達へと迫った。

「阿呆なヤツよ……精霊神の名を讃えて魔力を使ったら、何も言わんより多くの魔力を消費するだけじゃと言うのに。機嫌取り以外になんも意味が無いのじゃぞそれ」

 言いつつ、防御陣を展開する。見た目の割に火力は無い技なので、まあそこそこで充分と。しかし後ろの部下には流さぬよう、それでいて端っこは多少残すような範囲で陣を調整する。

 左右のどこか遠くで上がる爆発。

 部下達の上げるどよめきと、注がれる敬意の眼差しが心地よい。


「ではこちらは……と云うても、多少時間がかかるがの?」

 ノエニムは巨大な魔法陣を展開してみせる。描かれる魔術式と魔力文字を、それぞれの異界で魔導に精通した筈の魔王やその配下達が誰一人として読めずに騒ぎ始めた。

「く――!」

 ツヴェルケルは間合いを詰めようとするが、ノエニムは大魔法の準備を進めつつも小規模な攻撃魔法を次々と連射し、足止めをかける。

 彼がようやく斬りかかれる程度の距離まで接近した頃には大魔法は完成しつつあり、精霊たちも戸惑いながらも舞い踊って、魔法陣の周囲から虹色の光を立ち上らせていた。


「少し、遅かったようじゃの?」

 ノエニムがそう声を掛けると、ツヴェルケルは剣を引いて防御の構えを取る。

 それを予想通りと笑いながら、ノエニムは完成した魔術を放っていた。


 月の揺り篭ムーン・クレイドルが発動する。

 一瞬、何も起こらない事を訝しんだ後、しまったとばかりに表情を強張らせるツヴェルケル。

 彼は膨れ上がった白光と共に消失した。どこにも、彼の姿は存在しなかった。


「大魔王様が……消えた」

「英雄王が、ツヴェルケル様が……消失させられた」

 呆然とそれを眺める配下達の前で、ノエニムは両手を振り上げて快哉を叫ぶ。

「いぃぃよぉっし一丁上がりぃ!! ……あやつは防御に自信があるだけにのぅ、なんか良く分からんもんでもとりあえず喰らって耐えようとしてしまうのが悪いクセよ。

 ああ、別に不安がらんでも良いぞそなたら。今の技には全員覚えがあるじゃろ? あれはそなたらをこの世界へと追放した勇者の異界封印剣、そのベースとなる精霊魔法よ。転送先は変わっておらんのでこの世界の何処かにヤツは送られただけじゃ。つまりちこっとだけ時間稼ぎをするだけの代物に過ぎぬが……今の状況じゃとなかなか面白いじゃろう?

 ほれ、吾が気持ち良ぅなっとる間にさっさと巣穴へ帰るが良い。それともまだやるつもりかのぅ?」



「…………」

 クレフとザウロンが契約条件、期間や費用についての話し合いをしている最中。

 燃えるような赤い髪を持った男は剣を構えたまま、突然テーブルの上に出現していた。

 誰一人として動く事も、声を出す事も出来ない状態が数秒続いた後――。

「……済まない」

 現れた男は暗い声で、そう謝罪の言葉を述べていた。

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