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SC&C探偵事務所  作者: 上月晶
2.残る傷跡へのスタンス
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6.第X次邪神大戦

 化物同士の戦いは、どうやら引き分けに終わったようだった。


 グランゾは魔力を使い切って対魔法フィールドを使用した防御のみに回り。

 メーネはフィールドを何度も龍鱗の義足で蹴りつけていたが、それをやぶれず。


 やがてグランゾは引き、興味が失せたと見えたメーネも追撃を選ばずそこを去った。


 デコイは柵の外周にへばり付きながら、それをずっと見ていたのだ。

「転送された場所。……ここが帰り道でもあるってのかな? あんなのが定期的にやり合ってるとしたら、そいつぁぞっとしねえ事だな……」

 誰一人ここへ送られた冒険者がもどってこないというのも、わかるというものだった。


 さて――と視線を柵の方へとうつす。

 外からざっと観察した限りでは、ここは採掘場か何か。少なくともその跡地であるようだ。

 それなりに大きく、多数の人の気配がする。

 共に来た冒険者達は全てここへと入ったのか。

 それで騒ぎが起きていないとすれば、当面危険はないか。

 そろそろ自分も潜り込んでみるべきかもしれない。デコイは入り口の方へと回り込んだ。


「よう」

 門扉の無い、ただの枠でしかない入り口に立つ衛兵へと声をかける。

「なんだ……あんた、今までずっと外に居たのか?」

 人間以外の何者にも見えない衛兵が呆れたような声をあげていた。


「まあ、な。……あんなもんがドンパチやってる中、目立つ場所には入りたくなかったのさ」

 デコイが言うと、衛兵は笑ってうなずいていた。

「確かに。だが、ここは安心していい。連中はこういった鉱山の支配権を争ってるのさ。無駄にこいつを壊すような事はしない」

 それならいいんだが、とデコイは声にはせずに心中につぶやいた。

「ここは何を掘ってる。というか、今でも掘ってるのか?」

 衛兵はにやりと笑って返していた。

「ま、怪しまれない程度にはな。察しの通り、ここは魔物の銀鉱山を俺達冒険者が制圧したもんだ」


「あっちの方角に――」

 衛兵はそう言って、東南東の方角を指差してみせる。

「魔族どもは街を作ってやがる。そこは奴等の根城だ、近づく事も出来ないが」

 連中はここへと定期的に物資を運んで来て、代わりに銀を持って行くのだと彼は言っていた。


 基本的に毎日正午にだが、届かないこともある。

 恐らく途中で、さっきやり合っていたような奴等に奪われるのだろう。

 また、それ以外にも奴等がここへ税を要求しに来る事もある。

 それに足る分だけを採掘し、あとは周辺の探索を行っているのだと衛兵は言う。

「なぁるほど……なかなか、いい拠点を手に入れたみてえじゃねえか」

 しかも転送場所から目と鼻の先とはね。

 都合が良い。都合が良すぎる話だ、とデコイは考える。

 こういう物は素直に受け取る気にはなれない。


「物資を持ってくる奴等はこっちが人間だと気付かねえのか?」

「ああ。さっき、途中で奪われてるんだろうって言ったろ? 奴等もそんなもんにまともな兵を使うのは嫌みたいでな……やって来るのは人の顔の区別すらも付かないクレイゴーレムさ」

「税を要求しに来る奴等は?」

「連中は流石に気付いてるが、そっちは街とは別口のようでな。銀を掘ってるのが人間だろうが魔物だろうが、別に気にしちゃいないようだ」

 なるほどね。

 何もかもがぴったりと合って、文句のつけようもない。

「で、あんたは最初の転送からか? 二回目か? 一ヶ月二ヶ月をここで過ごしてるってのか」


「いや、ここでは時間の経ち方がどうも向こうとは違うらしい。俺は最初の転送からだが、まだこっちに来てから一週間ほどだよ」

 ……なんだと?

「んじゃあ……向こうでの30日が、こっちじゃ3日だってのか?」

「大体そういう事になるかな。二度目の連中が来なけりゃ、気付かなかった。その場合、俺達は向こうでの一年近くをこの荒野でうろつく事になってたかもしれん」


「で、今日……帰れる日は、あの化物どもの戦いで見送りになった、と」

「そうだ。ま、3日おきならそう焦る話でもないしな」

 ふぅん……。


 デコイは顎の無精髭をさすりながら、何事かを考えた。

 そして衛兵に感謝を述べ、採掘場――冒険者達の拠点へと、踏み込んでゆく。

 どうにも。

 どうにも、気に食わない。そんな顔を浮かべながら。




「こまったことになった」

 薄暗い部屋でシェルディアはそう言っていた。無表情のまま。

「とんでもない事になってしまったのぅ」

 プレディケも同意するように言っていた。まあ、あまり深刻そうではなかったが。


「ひとがたくさんやってくる。あなたがあんなもの、つくるから」

 シェルディアはプレディケの方を相変わらず見ないが、責めるように言う。

 それにプレディケは溜息で応え、言葉を続けた。

「何度も言うようじゃがの、わらわはそなたの鏡じゃ」


「そなたが先に妙な物を作らねば、わらわに権利が出来る事もないのじゃぞ?」

「わたしはちゃんとかんがえてる」

 シェルディアは口をとがらせる。

「聖銃は持つべきひとがうまれたときからもってるし、その弾だって7発しかない」


 充分凶悪な代物だ、とプレディケはうんざりとした表情で考えていた。

 しかもあれは欠陥品である。とんでもない。


 この世界には、聖剣とは別に、聖銃と呼ばれるものが存在している。


 聖銃はそれを使うべき者の手に、生まれた時から握られている。銀弾7発を装填して。


 その力は、対象を異界へと封印するだけの聖剣とは全く異なるものだ。

 それは命中した対象を「なんとかしてしまう」のだ。


 なんとか。ひどくアバウトだが、そうとしか言いようがない。

 それは強大な敵を消し、閉ざされた道を開き、世界さえも超える。

 だが、その効果は決して予測出来ない。

 そして聖剣が適当に振っても効果を発揮するのに対し。

 きちんと狙いを定めなければ効果を現さない。

 その上で目標が撃つべき相手でなければろくなことが起きない。


 それは使い手を選び、標的を選び、使われる場所を選び時を選んだ。

 そうでありながらそれら全ては使い手にいっさい知らされない。

 こんな物を持たされた者は、まず確実に破滅すると言えた。


 使うべきでないものに使い、認められずに無駄打ちを繰り返し。

 さいごに残った一発の銀弾を撃てず、抱えたままさまようのだ。


 役立たずの欠陥品。よって、その存在を知る者は殆ど居ない。


 ハッピーエンドしか認めないと言ったシェルディアが、何故こんな欠陥品の存在を許すのか。

 それは彼女が、自分の見える場所で起きていることにしか興味を示さないからだ。


 最初から見る気のなかった番組がどのような結末を迎えようと、興味など持たない。

 それと同じように。

 それに、シェルディアはそれを欠陥品だとは思っていない。

 使い方をまちがえる方が悪い、そう思っていた。


 その銃は、それを持つ者の多くが初めに想像する、そんな銃ではないのだから。


「しかしじゃの。そなたの、その姿の時の口調はどうにかならぬものか」

 プレディケは呆れたように肩をすくめていた。

「そのふらっとな偽幼女喋りでなんか言われても、頭に入って来ぬ。やめてしまえそんなもの」


「……宣戦布告」

 シェルディアは初めてプレディケの方へとまともに顔を向け、そう言った。

「その言葉は許されない。撤回しても無理」

「そこまでのものかっ!」


「じゃあ逆に。わたしもあなたに言いたいことがある」

 シェルディアのフラットな目がプレディケを正面からとらえる。

「ギャップ狙いすぎて痛い。本当のばーさんでもしないような喋りして恥ずかしくないの」


 プレディケの動きがぎしり、と止まった。

「く……くく。そう言われては確かに、こちらも引っ込みがつかぬのぅ」


 立ち上がるシェルディア。その背後にはペンギンのオーラが浮かぶ。

 立ち上がるプレディケ。その背後にはポメラニアンのオーラが吼えていた。


「前回の戦争、理由はなんだったっけ」

 シェルディアの言葉にプレディケはこたえる。

「確か……男の子と女の子、どっちがちっちゃい方が可愛いか、じゃったの」

 シェルディアは遠い目をしていた。

「そうだった。あれは宗教戦争だった、妥協も回避も出来ない」


「今回は多分、それよりはましな理由」



 その日、アガート大陸全域でオーロラが観測され。

 人々はそれがおさまるまで、天変地異の前触れかと恐れおののいていた。

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