12.遭遇
「まあ、これのせいでな。やっぱり筋力強化じゃないかって言う奴等が出てきて、魔術学校とかに居る魔術師は軽量化って名前を使った方が習得率が良いって反論して……」
そのような事を語り続け、クレフはふと、スゥの目が点になっているのに気付いた。
「あ、わ……悪い。こんな話、面白くねえよな」
クレフが言うと、スゥは苦笑しながらこっくりとうなずく。
やっぱりなあ、とクレフは肩を落とした。しかしスゥもはっきり言うようになったものだ。
そんな事を考えていると、スゥは笑いながら口を開いていた。
「そんなことありません、なんて相槌をうたなければいけないほど、よそよそしい間柄でもありませんし」
クレフはその言葉に少し嬉しくなりながらも、やはりつまらなかったのは変わらないのだな、と。複雑な表情を浮かべていた。
「それで、スゥはどんな魔術が使いたいんだ?」
「魔力剣でお願いします」
ほぼ即答。まあ、そうだろうと思っていた。
「よし、じゃあやってみるか。魔力剣は主に光波と無影剣の二種だ」
他にもあるが、この二つの亜種と言ってしまっていいレベルの違いしかない。
光波はカーラが使ったように即席の武器として使う事も出来るが、基本的には既に持っている武器に纏わせるものだ。そのまま斬りつけたり、魔力刃として射出したりする。
無影剣は不可視の刃で、暗殺者などが主に使う。刀身を投げつける事も出来るが、基本的に無手で使いその場で消せる即席の武器である。
なお、クレフは無影剣の方しか使えなかった。
「クレフ様が使うのは無影剣の方なのですよね。ならば、そちらで」
スゥはそう言うが、クレフはそれにやや難色を示す。
「うぅん……不可視の刃だからな。ちょっとイメージがやり辛いと思うんだよな」
そう言いながらちらりとスゥの方を見るが、どうも翻意は望めないらしい。
「わかった。じゃあ、これを持ってくれ」
クレフが取り出したのは焚き火で使う際に残った小さな板切れである。
「板……ですか」
「ああ。刀身は見えないからな、刃がそこにあれば斬れる筈のものを持って、それが焼き切れるところをイメージするんだ」
呪文を唱えながらイメージを纏め、板を手で撫でる。これを繰り返す。
そう言うとスゥは早速それに取り掛かり始めた。
さて、どのくらい掛かるだろう。スゥが眠れなくなってしまわなければいいのだが。
ところでクレフが光波を使えない理由は、逆だった。
光波は刃が見えてしまうからだ。手の中には刀身と繋がった青い光の柄がある。
クレフにはどうしても、その柄が刀身とは違って熱を持っていないものだとはイメージ出来なかったのだ。最初試した時にはひどい火傷を負った。
さて、それから探知結界を張り、野営地の回りをうるさくない程度に歩き回るなどして見張り番の一時間半が過ぎる頃。スゥは真っ二つに焼き切れた板を持って、クレフの所へ駆け寄って来たのだった。
「小規模なキャンプ……っすねえ」
レイリアは望遠の魔術を用いて、寝転がっている数人の男女を見ていた。
装備はあまり良くない。荒野をナメているとしか思えない軽装。テントもなく毛布もなくマントだけで寝転がって、食料や水などもろくに持ってきているとは思えなかった。
見張りは一人。やけにスタイルのいい女性だが、比較するものがないのでどのくらいの背丈なのかは分からない。辛うじて判別出来るのは黒い肌と銀の髪、もしや黒き民か。そして黒い長剣を腰に差しているようなのが見て取れる。
「でもま、あれじゃ襲ってもしょうがないっすかねえ。一応カトランは呼ぶっすけども」
こそこそとレイリアは岩場へと戻ってゆく。そしてカトランを連れて再び同じ地点へと帰ってきてみれば、少しだけ状況は変化していた。
野営は終わったのか全員が起き出し始めている。
5人の人影が並び、その身長差が明らかとなって、レイリアは先程見ていた女性がだいぶ、でかい事に気付いていた。
「……てかあれ、カーラ様じゃないっすか?」
レイリアがそう呟くのが早いか、カトランは駆け出していた。
「うおおおおおおおカーラ殿おおおおおおお!」
駆け寄ってくる虎顔の獣人。その表情は虎なのでやはりわかりにくい。
「お待ち申しておりましたああああああああ!」
「ふん」
カーラは一歩進み出ると、虎顔の獣人に蹴りを入れる。
ごろごろと転がる獣人の脇へと回り、胸甲に守られていない脇腹へと更に蹴りをくれようとした所で、全員が止めに入る。
「何してんのさカーラッ! このヒトを探しに来たんじゃないのかい!?」
「……は、しまった。つい反射的に」
「反射的にと言うほど時間がなかった訳ではないと思うのだが」
恐ろしいものを見る目でカーラを見るツヴェルケル。カーラはそれに反論する。
「しかし、コイツは私を誘っていただろう」
「……まあ、やるべきだと思った事については分からないでもないが」
地面に転がりうう、と唸る虎顔の獣人。
その周りにはようやく、レイリアやパメラ、そしてメディアが駆け寄って来ていた。
「メディア……? 君までもが、どうして」
クレフは彼女の姿に気付いていた。
メディアは彼と目が合わせられないと言うように眼差しを伏せる。
「まさか、何か責めを負ったのか」
「いいえ。ですが……異界に消えた勇者は探さねばならないと、教会が」
「……そう、か……」
衝撃を受けたように呟くクレフ。
その顔には理解と悲しみが多くを占める、複雑な表情が浮かんでいる。
それをちらりと伺いながら、メディアは心の中に黒いものが揺らめくのを感じていた。
そう、気付いたのですね。私があなたを殺しに来たことに。
そして私が、その使命を半ば諦めかけていることにも。
気付かなければ、あなたを侮蔑できたのに。
謝罪の言葉でも言ってくれれば、自分の惨めさに怒れたのに。
ありがとう、などと口にしたならば。
ああ――そうしたら本当に狂ってしまえたかもしれないのに。
そのいずれも、あなたは私に許してくれない。
私は――。
「クレフゥッ!」
突然響いた声と、それに乗せられた殺意に、メディアは自分の中に燻りつつあった黒いものが吹き消されるのを感じていた。
それどころではなかったのだ。今一瞬だけ、考える事を忘れられた。
死の恐怖によって。
アーベルは周囲に何かが広がってゆくのを感じている。
「探知――!? そんなものに、こんな出力をかけて!?」
発信源は明らかだった。というか見えている。
黒いローブと顔から伸びる包帯をはためかせて。
「見えない――けれど、だからこそ。あの時の光景はずっと見えているわ」
戻ってきた魔力流から周囲に居る人間達の大きさを概ね把握する。
身長と体格。近いものはいるけれどそちらは剣を所持している。彼ではない。
見つけたわ……。
ゲッシュは加粒子槍を放っていた。
白い光の槍は放電しながら真っ直ぐにクレフへと突き進む。
クレフとアーベル、カーラの展開する対魔力障壁。そしてメディアが咄嗟に張った防御幕によって、ようやくそれは押し止められる。
暴走したかのような魔力だった。恐らくそれはその通りだったのだろう。放ったゲッシュの腕は通常考えられない、自分の魔術による反動での損傷により赤く焼けていたのだから。
「ニーア!?」
クレフのあげる悲鳴じみた叫び。それと同時に、倒れていたカトランは跳ね上がり、駆けていた。




