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生命の神様  作者: 仁藤世音
0章 スタート・ユア・ソウル
4/6

見て覚えるが初歩である

 トトンクロムが空間に出現させた扉を通ると、そこは落ち葉の茶色い景色が広がる森の中。枝からはほとんど葉が落ちている。風情があっていい眺めだ。それに悔しいけれど、綺麗な赤い髪をなびかせるトトンクロムが実によく映える。


 それにしてもこの扉、某どこへでも行けてしまうドアを思い出すな。著作物の記憶まであるのに、なんで生前の思い出関連の記憶はないんだかな。


トトンクロムは森の中でキョロキョロ辺りを見回している。

「この辺なんだけどな。はぁめんどくさい」

「あの、ここはどこですか? 植物学者ならこの木とか見りゃ分かるんでしょうけど、僕にはわかりんせん。ロシアですか? カナダとか?」

トトンクロムは口を開きかけて、閉じた。いつの間にやらキャンプとかで見るようなゆったりチェアに腰かけている。その便利な堕落しそうな力は是非とも僕も使いたいところだ。マニュアルに書いてあるかな? ペラペラめくってみる。が、途端に読む気が失せて閉じた。


 だって、森の中で棒立ちで、マニュアルを読むなんて、なぁ?


「あ、あれか。わかりずらっ」

と、トトンクロムが唐突に立ち上がって歩き出すので追いかける。あれ、おーいおい、聞えるはずの落ち葉を踏むクシャって音が聞こえないぞ? なるほど、この体は幽霊寄りなのか。


 トトンクロムが見下ろす先には猟銃を構えた男がうまいこと隠れていた。この男が目的らしい、というわけか。

何の?

 どうやら男もこちらには気づいていないようだ。まず、明らかに見えてない。

「白河はこれから私がすることを見ていればいいです、見ていれば。騒いだりしないでね、うるさいから」

「はいはい」


 トトンクロムは先端に大きな水晶玉のようなものがあつらえてある、灰色の金属っぽい杖を取り出し手に取った。そして、


その杖の先端を男に深々と差した。男はうっと目を見開き、力なく構えていた銃を落とした。血などは一切出ていないが、死んだらしいと直感で判断した。

          まさに絶句というやつだ、騒ぎようもない。

 お仕事は暗殺です! ってか。ブラックジョークは嫌いじゃないんだけどもね、これは中々こう、来るものがある。

しかし、それで終わっていなかったようだ。男がぼうっと淡く白く光り、その光は突き刺された杖を伝って水晶に吸い込まれた。


トトンクロムが杖を抜き、僕へ向き直る。

「というわけです」

ほう? 言葉足らずなのはわざとなのか? しっかり確認をとっていかないといけない。

「暗殺ですか。そういえばメルセデスさんが生命の神様とか言ってましたね。トトンクロムの、というか僕らの仕事はいわゆる死神ってやつですか?」

「その要素はあるけど、正解からは遠いかな。まぁ見てれば良いので、次いきます」

と、また扉を出してどこかに移動する。


 今度は、海上だ。海の上に立ってる! あぁなぜだろう? 海というものを初めて見た! そんな気がするヨ!

 そして広い海原には、流木に摑まったままがっくりと首をうなだれている青年がいた。おろろ?と眺めてみる。まさしく虫の息だ。


「これは、もしや遭難?」

「そうなんです」

えぇ……。

面白くもないギャグを唐突に言われるの心底困る……。大体あんたそういうキャラと違くない?しかし僕という男は紳士なのだ。ハハハと、愛想笑いを返してやった。


しかし睨まれた。

「何笑ってるの? 遭難してる人を見て笑うなんて、白河あんた大丈夫?」

「あ、いや、予想外のことが起きすぎてなぜか自然と笑いが出てしまったんだすよ」

「だすよって……。まぁいいけど、これが仕事の後半パートだからよく見といてね」

               危なかったぁあ。

 あやうく精神異常者の烙印を押されるとこだった。トトンクロムってば敬語とnot敬語を不規則に織り交ぜて使うもんだから起きた、そうこれは事故だ。もう大人しく見てよう。

 トトンクロムはまたさっきの杖を取り出し、また同じように背中からブスリと突き刺した。水晶にため込まれた白く淡い光が今度は青年に流れ込んだ。すると青年はゴホゴホと咳をしだして、うーん、と辺りを見回した。逆……逆……。


「これは……?」と言うや否や、僕らは元居たシックな部屋に帰ってきていた。


トトンクロムはソファにどっかり寝そべり、僕は質素な木の丸椅子に座っていた。


格差社会、万歳。


「つまりこういうことです」と、ソファの手を置くところを枕にしながらトトンクロムが話し出した。

「まず、あの猟師の男。杖であれの命、というか魂を抜き取った。あれは一応免許こそ持っていますが、尤もらしい理由をつけては残り少ない希少生物を殺す害悪な存在でした。人間の法律はやつの味方だったけど、殺される生き物たちにとっては死活問題なわけです」


「だから魂を獲ったと?」


「うーん、まぁそう。正確に言えば、地上の生態系を担当してるプレモイラっていう神人に直訴されたからなんだけどね。確か『動物たちが人の言葉を話せないのをいいことに勝手に動物の生活圏を侵害しておきながら、この暴挙はもう我慢ならない!』とか言ってたかな」

他にも色んな神人とやらがいるのか。


そしてこの仕事は……


「で、あの漂流してた男の子だけど。あれは私がピックアップした人間よ。本来なら魂奪われる側の人間のピックアップも私たちの仕事だけど。で、あの杖に回収した魂を、あの子に流し込んだ。あれで生命力が完全に回復するし、あとは救助されてめでたく生還。あの子は普段から正義感の強い人間で困ってる人を見るとほっとけないし、物怖じしないたちでいじめっ子をやっつけたりもしていた。そういう人間って実際には少ないし、あの実直さは幸福を作り出す。でも離岸流に流されてしまった、それもうっかり。うっかりで死なすには惜しいからね」

僕はポンと手を叩いた。得心得たり、河流れ(-48点)

「徳を積んでいたから、ってやつですか?」

「ま、そういうこと。魂の数のバランスは取らなきゃいけない決まりだからさ、1人殺せば1人蘇生させる必要がある。そしてそれを人間社会の理不尽を調整するために行うのが私たちに与えられた仕事。居なかった?白河の周りにも。なんでこんな奴がのうのうと生きてるんだ、なんであんないい人が死んだりひどい思いしなきゃいけないんだ、ってなこと」

生前の感情に関する記憶はないが、そんな気持ちを持ったこともあるかもしれない。


「しかし、1人1人って、ものすごく地道では?」

今日の感じだと、その調整には申し訳程度の効力もなさそうだが。


「そうね。でもそういうもんなんですよ、この仕事は。……いい?夜船」

 トトンクロムの声色が変わったので、自然と姿勢を正した。聞く姿勢というのは大切だもんな。初めてかもしれない、わざわざファーストネームで呼んだところに僕は意図を感じた。


「私たちの仕事で大切なのは、自分の意思と理屈を信じることです。それが出来ないと罪悪感情に潰され、破滅することになります。約束してください、夜船。決して迷わないと」

寝ころんだままだけど、真剣な顔をしていた。

「……独善的であれと?それは強い心を持った者にしか出来ないことですよ。しかし、なぜでしょうね、僕にはそれを成すことが出来るという、いや、しなくてはならないような気がするんですよ。僕は迷いませんよ、絶対に。破滅するのはごめんですしね」


その瞬間、初めてトトンクロムの笑顔を見た。

「なら良かった。約束は守ってね」そう言ってそのまま眠ってしまった。


 ねむっていれば本当に美しいだけの無害な人、いや神人だ。迷わないとは言ったけど、これからの生活への不安のほうがでかい。わからないことが多いからだな。正直、人間の命を取ることに思ったほどの拒絶感はない。あんときは単にびっくりしただけ。人間は出しゃばりすぎるんだし、神人が出しゃばったところで文句を言われる筋合いはないだろう。


 しかし、何だろうなこの使命感。生前の僕と何か関連するのだろうか。まぁ、後でいい。さて、マニュアルでも読むか。


それにしても、僕ってばなんという適応力だろう。生前はきっと有&能だったに違いないな。おっと、顔がほころんでしまった。注意しなきゃな。

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