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生命の神様  作者: 仁藤世音
0章 スタート・ユア・ソウル
2/6

cyo imifu

 ふわふわと漂う本を一冊捕まえてみた。タイトルは、愛染倉人。おや、著者名がないな。出版社名もないぞ。なんじゃこりゃ。

 開いてパラパラめくると、どうやらそれは自叙伝的なものだとわかる。自費出版ってことかな。まぁそれで解決。

 それにしてもつまらないぞこれ。歴代ワーストぶっちぎりで更新だ!


「なんでつまらないか、わかる?」

 ホールの上からさっきの、えぇと? トトさんが降りてきた。僕はつまらなさのあまり、うっかり声に出していたようだ。


「えーとですね、トトさん。恐らくぅ…ありきたりで平凡な日常しかないからではないかと」

「トトさん? え、なにそれ……」


 怪訝な顔をするトトさんよ、回答そっちのけでそこに食いつくのかい。

「トトンクロムです。次そんな馴れ馴れしく呼んでみなさい、そのくそつまらない人生本に挟んで2度と出れないようにしてやる」

 怒った~。その名前大事なのか~。そう、名付け親が自分になってしまった僕には、名前を大事にする心境なんてとんと分からぬのだ。それとも気軽に呼んだのがいけなかったのかな。あぁそっちな気がしてきた。

「すいません、トトンクロム様。出過ぎた真似をしました」

「よろしい」

 威厳を保った感じで言われる、退屈そうな顔で。


 失敗したかもしれない。今後ずっとこんな固い話し方でいなきゃいけないのは嫌だ。

「あの、人生本って言うんですかこれ?」

 そう言って持ってた本を扇のように、少々乱暴に振り回した。探っていこうじゃあないか、沸点のポイントを。さながら僕は噴火口の探検家だ!

「そう。それは念のための資料。そのタイトルにある人物のことを詳しく書いてあるの。ここにある本、全部がそう。あと、それ貸して」

 退屈そうな顔に変化は見られない。僕は本を投げて寄こした。さぁ、どうだ。


 …………。


 トトンクロムはそれをパシッと掴んだ。噴火口のマグマに変化はない。

「こいつはもう昔に死んだ人間の本。そういうのでも必要になるときが、ものっっそいたまにあるの。でもこれは、要らないわね」

 そう言うと、持っていた本が手の中で燃えだした!

「あぁ! 危ないでしょう!!」

 とっさに腕を振り回しトトンクロムが持っていた燃える本を払い落とした。本は少し漂い静止し、やがて燃え尽きた。その動きはコミック中での宇宙空間を連想させる。


 トトンクロムはキョトンとした顔で僕を見ていた。

「何すんの白河」

「何じゃないでしょ! 火傷しちゃうでしょ!!」

 まさか僕の噴火口のが先に火を噴くとはゆめゆめ思わなかった。しかしトトンクロムは疲れたようにため息をつく。

「火傷しないわ。人間じゃあるまいし」


????


「まぁでもありがと」とトトンクロムが言いかけたところで、僕の声がホールに響きわたった。

「何がどうなってるのか! 説明したまえよ! あの黒い空間にいたときから! ここに至るまで! 情報の枯渇っぷりが酷すぎる! 僕は誰であなたは誰でここはどこで、何故浮く? 何故火傷しない? 何故……人間ではないだと? 鏡に映った僕も目の前の麗人も、これが人でなくてなんであるか!?」


 先程までの妙な冷静さは噴火したマグマに溶かされてしまった。動揺と、目の前のトトンクロムに対する猜疑心、この状況への恐怖が堰を切った濁流のごとく流れていた。

 トトンクロムは一瞬、圧倒されたのか驚いた顔をしていたが、やがて嫌悪感に満ちた表情になると漂っていた本を掴み僕の頭めがけて投げ付けた。しかし回避行動は取らず、当てられるままにしておいた。それよりもジッと、トトンクロムの目を見続けた。

「だから嫌だったのよ助手なんて! こんな融通の利かないやつ」

「融通の一言で片付くか! 僕は……」


「はいはい、その辺になさい。トトンクロムったら、そうすぐに適応できるわけなーいでしょ」


 突如、第三者の声が口論を止めた。ハッとして声のしたほうを見上げると、黄色いタキシード姿で男装した奇抜な女性がいた。劇団なんちゃらとかそういうやつを想起させる。

「メルセデス……! そりゃそうだけど。でも私は誰かと仕事する気には……」

「っもう! その話は終わったのに。第一、もうこの子呼んじゃったんだからどうしようもないでしょ。うじうじしてると、」

 と言いかけて言葉を飲み込んだ。だがそうか、このやばそうな人が僕を推薦したって人か。

 ならば、

「黄色いあなたにお聞きしたい! ここはどこですか!」

 おや? と僕の前までスーッと近寄ってくる。と、トトンクロムのほうを振り向く。「ねぇ、この子名前何だって?」と訊く。「白河夜船だって」と、トトンクロムのやつはすっかりふてくされながら答える。そっかそっか、とまた僕のほうに向きなおる。


「やぁ白河。私はメルセデス、"黄色いあなた"じゃないわ。で、ここはどこかって言うと、神の国です!」

??

「え、ちょ」とトトンクロムが戸惑ってメルセデスを見ている。あれ、これ、嘘を言われてるのか?

「本当に、そうなんですか?」

「二度も言わせないで」

 おぅ。聞き逃し厳禁ね理解。

「あなたが僕を推薦したと聞きましたが?」

「……。」

「……。」

 あれ、にこやかな顔で僕を見たまま無視を決め込まれているぞ? トトンクロムがため息をついて理由を教えてくれた。

「その娘はね、ちゃんと名前で呼んであげないと絶対に会話しないよ。ま~名前は大切だからね、うん。分からなくはないけど」

 いやぁ、それでも無視はわかんない。けどまぁ理由はわかったので解決。


 気を取り直して同じ質問をする。

「メルセデスさんが僕を推薦したと聞きましたが?」

「そう! 心を閉ざして孤独に黙々と仕事するトトンクロムが見るに堪えなくて。私たち神人は二人一組が前提だし。白河は生前の性格からいろいろ適任だと思って、なんやかんやでここにいるわけですね」

 一人で納得してこくこく頷いているが、一つの疑問の解消に合わせて二つくらい疑問が増えている気がする。


「え、僕は死んだんですか? だから記憶もいまいちはっきりしないってこと?」

「その通り。死ぬと先生の決めた運命に従い、その魂の大半は廃棄されます。損傷の少なかった一部はリサイクルされて転生、そして奇跡的な魂である君は……!」

「僕は?」

「より上位の知的存在、神人として選定されここにいるのです!」

「なるほど! そういうことか!」


 と言ったがもうよくわからないので考えるをやめた。知らんがな。色んな数式がどうやって役に立つか分かるには少し時間を要したように、これも後からわかるやつだろう。っていうか経験からくるような知識はあるんだな、言葉も使えるし。

 なんにせよもう死んだらしいので無駄な抵抗はやめようじゃないか。時間は無限にあるんだろきっと。


「わかってくれたの! 良かった」

とっても嬉しそうだ。そして僕の耳元で囁いた。

「トトンクロムをね、助けてあげてね。私じゃ助けてあげられないから。もう白河に頼むしかないの」

「助ける?」

それは助手として手伝うとは、違う意味のようだった。メルセデスは僕の問いには答えず、微笑みながら「じゃね、生命の神様たち!」と言いながら浮かび、消えていった。


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