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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第2章 第3節] パジーロ王国>グシカ森林>オトジャの村_01
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014. 夕暮れの宴は和やかに(4)

「さぁさぁ、せっかくの宴だ。しんみりしても仕方がない――付き合え、ワガハイ。酒だ、酒。俺はな、腕の立つ男と一杯やるのが好きなんだよ」


 ターボフさんは豪快に、果実酒のびんに手を伸ばす。

 彼も狂言の役割を終えた今、たらふく楽しめるというわけだ。


 しかし吾輩は、例のごとく伝えなければならない。


「……あの、申し訳ないですが、吾輩は下戸なので、お酒は遠慮させていただきます」

「お、おいおい……マジかよ、お前」


 きっと、吾輩とむのを楽しみにしていたんだろう。

 ターボフさんは、驚愕の表情をしていた。


「何だよ、何だよ……とりあえず今夜は、さっきの借りを酒で返してやろうと思ってたのに」

「あはは……なら、今回はあなたの勝ちですね、ターボフさん」

「不戦勝なんて、まったくうれしくねーっての!!」


 叫んだターボフさんは、そのまま頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 そして、横目で吾輩に訴える。


「……つまらない男だな、お前は」

「ええ、よく言われます」

「そんなんで生きてて、何が楽しいんだよ」

「お酒が飲めなくても、毎日は楽しいですよ」

「……へいへい、そうかよ」


 あしらうように立ち上がったターボフさんは、片手でびんのコルク栓を抜き、果実酒を勢いよく口へ流し入れた。


「うはぁーっ!! うまいなぁ、やっぱ」

「いい飲みっぷりですね、ターボフさん」


 一瞬のうちに飲み干した彼を、吾輩は賞賛する。

 あんなこと、下戸のゴーストにはできないから。


「お前が付き合ってくれりゃ、もっとうまかったのによ」


 うらめしそうに、吾輩をなじるターボフさん。

 どうやら知らぬ間に、彼からは、かなり気に入られていたらしい。

 拳を交えた末の、ある種の友情というやつだろうか?

 ありがたいやら迷惑やら。


 とはいえ、やはり武人としては光栄だ。

 吾輩としても、彼は尊敬できるトロールの戦士なのだから。


「お酒は無理ですが、同じテーブルを囲むことはできますよ、ターボフさん」

「あん?」

「あなたは果実酒、吾輩はオトジャの料理――楽しい宴の時間を過ごすのに、呑む呑まないは関係ありませんから」


 太陽が、もうすぐ沈む。


 けれど本番は、夜が訪れた後なのだろう。


「……俺の酒は長いぞ、ワガハイ」

「お付き合いしますよ、ターボフさん――しかし、翌朝の聖地への案内に支障が出るほど飲まれては困りますけど」

「なめるなよ、ワガハイ。この俺が、簡単に二日酔いなんかするわけないだろ」


 そこでターボフさんは別の酒びんに手を伸ばし、また片手で器用に栓を開け、ぐいぐいと果実酒をあおった。


「聖地までは、俺が安全に送り届けてやるさ。信者としては、巫女の覚悟に応えてやらなきゃだからな」

「……それだけ聞ければ、もう心配ありませんね」


 明日。


 吾輩は彼と、そしてユッカちゃんとマルチェさんと共に、ソノーガ山脈の聖地に入る。


 そこで、いったい何が待っているのか――もちろん、吾輩にはわからない。


 ただ、大丈夫だと思った。


 吾輩もターボフさんも、そしてきっとマルチェさんも――あの、幼くも勇敢な大地の女神の巫女を想っているのだから。


 そこで、


「ほら、ワガハイ」


 ターボフさんが吾輩に、飲み物の入ったびんを投げてきた。


「安心しろ、それは紅茶だ。発酵・乾燥させたグシカそうを、川の水で煮出したやつ。体にいいからって、村の子供はみんな飲まされるんだよ」

「なるほど……これも、グシカ草」


 麺料理のソースから、紅茶葉にまで――かなり万能なんだな、グシカ草って。


 びんを受け取った吾輩は、あの苦みの強い野草の偉大さに感心していた。


「それでなら、乾杯くらい付き合ってくれるよな?」

「ええ、もちろん」


 ターボフさんのように片手で――とはいかないが、吾輩は紅茶びんの栓を外す。


 そして、


「乾杯、ワガハイ」

「乾杯、ターボフさん」


 甲高い音が、日の落ちた村に響いた。


 そのまま、グシカ草の紅茶を一口。


「…………」

「どうだ、ワガハイ?」


 グシカ草の紅茶を飲んだ吾輩に、にやついた顔で尋ねてくるターボフさん。


「……独特の味ですね」


 やはりグシカ草、といった感じ。


 ある意味期待を裏切らず、しっかり苦かった。


「だろ? 俺は子供の頃に飲まされて、それからすっかり『こっち』専門になったんだよ」


 いたずらっぽく笑ったターボフさんは、また果実酒のびんを空にしていた。

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