014. 夕暮れの宴は和やかに(4)
「さぁさぁ、せっかくの宴だ。しんみりしても仕方がない――付き合え、ワガハイ。酒だ、酒。俺はな、腕の立つ男と一杯やるのが好きなんだよ」
ターボフさんは豪快に、果実酒のびんに手を伸ばす。
彼も狂言の役割を終えた今、たらふく楽しめるというわけだ。
しかし吾輩は、例のごとく伝えなければならない。
「……あの、申し訳ないですが、吾輩は下戸なので、お酒は遠慮させていただきます」
「お、おいおい……マジかよ、お前」
きっと、吾輩と呑むのを楽しみにしていたんだろう。
ターボフさんは、驚愕の表情をしていた。
「何だよ、何だよ……とりあえず今夜は、さっきの借りを酒で返してやろうと思ってたのに」
「あはは……なら、今回はあなたの勝ちですね、ターボフさん」
「不戦勝なんて、まったくうれしくねーっての!!」
叫んだターボフさんは、そのまま頭を抱えてしゃがみ込んだ。
そして、横目で吾輩に訴える。
「……つまらない男だな、お前は」
「ええ、よく言われます」
「そんなんで生きてて、何が楽しいんだよ」
「お酒が飲めなくても、毎日は楽しいですよ」
「……へいへい、そうかよ」
あしらうように立ち上がったターボフさんは、片手でびんのコルク栓を抜き、果実酒を勢いよく口へ流し入れた。
「うはぁーっ!! うまいなぁ、やっぱ」
「いい飲みっぷりですね、ターボフさん」
一瞬のうちに飲み干した彼を、吾輩は賞賛する。
あんなこと、下戸のゴーストにはできないから。
「お前が付き合ってくれりゃ、もっとうまかったのによ」
うらめしそうに、吾輩をなじるターボフさん。
どうやら知らぬ間に、彼からは、かなり気に入られていたらしい。
拳を交えた末の、ある種の友情というやつだろうか?
ありがたいやら迷惑やら。
とはいえ、やはり武人としては光栄だ。
吾輩としても、彼は尊敬できるトロールの戦士なのだから。
「お酒は無理ですが、同じテーブルを囲むことはできますよ、ターボフさん」
「あん?」
「あなたは果実酒、吾輩はオトジャの料理――楽しい宴の時間を過ごすのに、呑む呑まないは関係ありませんから」
太陽が、もうすぐ沈む。
けれど本番は、夜が訪れた後なのだろう。
「……俺の酒は長いぞ、ワガハイ」
「お付き合いしますよ、ターボフさん――しかし、翌朝の聖地への案内に支障が出るほど飲まれては困りますけど」
「なめるなよ、ワガハイ。この俺が、簡単に二日酔いなんかするわけないだろ」
そこでターボフさんは別の酒びんに手を伸ばし、また片手で器用に栓を開け、ぐいぐいと果実酒をあおった。
「聖地までは、俺が安全に送り届けてやるさ。信者としては、巫女の覚悟に応えてやらなきゃだからな」
「……それだけ聞ければ、もう心配ありませんね」
明日。
吾輩は彼と、そしてユッカちゃんとマルチェさんと共に、ソノーガ山脈の聖地に入る。
そこで、いったい何が待っているのか――もちろん、吾輩にはわからない。
ただ、大丈夫だと思った。
吾輩もターボフさんも、そしてきっとマルチェさんも――あの、幼くも勇敢な大地の女神の巫女を想っているのだから。
そこで、
「ほら、ワガハイ」
ターボフさんが吾輩に、飲み物の入ったびんを投げてきた。
「安心しろ、それは紅茶だ。発酵・乾燥させたグシカ草を、川の水で煮出したやつ。体にいいからって、村の子供はみんな飲まされるんだよ」
「なるほど……これも、グシカ草」
麺料理のソースから、紅茶葉にまで――かなり万能なんだな、グシカ草って。
びんを受け取った吾輩は、あの苦みの強い野草の偉大さに感心していた。
「それでなら、乾杯くらい付き合ってくれるよな?」
「ええ、もちろん」
ターボフさんのように片手で――とはいかないが、吾輩は紅茶びんの栓を外す。
そして、
「乾杯、ワガハイ」
「乾杯、ターボフさん」
甲高い音が、日の落ちた村に響いた。
そのまま、グシカ草の紅茶を一口。
「…………」
「どうだ、ワガハイ?」
グシカ草の紅茶を飲んだ吾輩に、にやついた顔で尋ねてくるターボフさん。
「……独特の味ですね」
やはりグシカ草、といった感じ。
ある意味期待を裏切らず、しっかり苦かった。
「だろ? 俺は子供の頃に飲まされて、それからすっかり『こっち』専門になったんだよ」
いたずらっぽく笑ったターボフさんは、また果実酒のびんを空にしていた。




