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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第2章 第3節] パジーロ王国>グシカ森林>オトジャの村_01
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003. 大地の女神を崇める、トロールの親子(後編)

「では早速さっそく、皆さんを歓迎する宴を――といきたいところですが、まずは大事な話を済ませてしまいましょう」


 モルコゴさんが言う。


「大地の女神の巫女さま。あなたは当然、この地を訪れるということの意味を、ご自身で理解されてますね?」

「うむ」


 ユッカちゃんがうなずいた。


「ワタシは真の聖職者を目指すべく、さまざまなことを学ばなければならない。とはいえ正直、ワタシは何をなすべきか、それを正確には把握できていないのだ……しかし、ワタシは成長したい、しなければならない」


 迷いのいない言葉。


 こういうときの彼女は、まったく八歳の女の子だなんて思えない。

 魔力とはまた別のオーラのようなもが、あの小さな体から漂ってくる――そんな気さえしてしまう。


 子供扱いされるのを嫌がったり、渋みのある野草が苦手だったりすることが、一瞬、信じられなくなってしまうほどに。


「だからワタシは、未来へ向かう道しるべがほしい。これからいかに進むべきか、大地の女神の巫女として歩むための啓示を求め、この村にやってきたのだ」


 初めて訪れた土地で、初めて顔を合わせた相手を前に、ユッカちゃんは堂々と言い切った。


 やはり彼女は違う、特別だ。


 でもそれは、決して、巫女という立場にあるからじゃない。


 そういう宿命を与えられながらも、自分の生き方を自分なりに探ろうとしているりんとした姿勢に、吾輩はそう感じてしまうんだ。


 こちらが聞き入ってしまうような決意の宣誓に、


「よろしいです、大地の女神の巫女さま」


 納得した様子で、モルコゴさんが答えた。


「あなたには明日、我らが管理しているウィヌモーラ大教の聖地へ入っていただきます。そこできっと、あなたはソノーガ山脈に住まう大地の精霊から、あなたの求める『何か』を示されるでしょう……覚悟はできていますね?」

「うむ、もちろんだ」


 モルコゴさんへ、端的たんてきに返したユッカちゃん。


 大地の精霊か、興味深い。

 聖地というくらいだから、遺跡でもあるのだろうか?

 吾輩にも許されるのなら、ぜひとも訪れてみたい。


 しかしながら、どうして『覚悟』を問うのだろう。

 大地の精霊から何かを――つまり啓示を得るというだけなら、何もそこまでのことはないはずだ。

 要するに、巫女としてどうすればいいのか、そのヒントを聞きに行くということなのだから。


 山登りの過酷さを伝えているのか?


 けれどマルチェさんは、このオトジャの村まで来れば、聖地への道のりは特別険しくないと言っていたし……不可解だな、どうも。


「それだけ聞ければ結構でございます、大地の女神の巫女さま。明日は、愚息ぐそくのターボフが案内いたします」

「よろしくお願いします、大地の女神の巫女」


 ターポフさんが、軽く頭を下げた。


 どうやらこれで、モルコゴさんの『大事な話』は終わりらしい。


「どうか今夜は、村でゆっくりと体を休めてください、大地の女神の巫女さま」

「うむ、お世話になるのだ」


 小さな体を曲げて、ユッカちゃんは、村の代表者に礼儀を示した。


「では、歓迎の宴に参りましょう。外では村の者たちが、会場を準備してくれているはず。同行者の方々も、この村が自分たちの故郷だと思って、ぞんぶんにくつろいでください――ターボフ、皆さまをお連れして」

「ああ」


 父親の指示に一言答えたターボフさんが、吾輩たちをうながす。


 今は、昼を少し過ぎたくらいの時間か。


 宴というには早いけれど、この地域の珍しい食べ物を味わえるとすれば、なかなか興味深い。


「楽しみだね、キューイ」

「キュイ、キュイ」


 立ち上がったクーリアに、キューイが応じる。


「ワタシも、実はお腹が空いていたのだ」


 ユッカちゃんも加わって、三人はそそくさと部屋の外へ。


 さて、それでは吾輩も続くとしよう。


 するとそこで、なぜかモルコゴさんが、マルチェさんに一言。


「あなたの望み通りになればよいですね、従者の方」

「…………」


 視線は交わらない。


 けれどマルチェさんは、確かに反応を示していた。


 気になった吾輩は、彼女に尋ねる。


「マルチェさん、今のはどういう――」

「ワガハイ、だったよな?」


 そこでターボフさんが、いきなり吾輩に声をかけてきた。

 言葉がさえぎられてしまう。


「ウィヌモーラ大教の上級聖職者とかならとにかく、大地の女神の巫女の単なる連れだっていうなら、あんたにはフランクにいかせてもらうぜ。堅苦しいのは苦手なんだ」


 ある意味、無骨な外見を裏切らない態度のターボフさん。


 そんな彼であっても、ユッカちゃんにはていねいな言葉遣いだった。

 自分の娘であってもおかしくはない年齢だろう少女に。


 やはりウィヌモーラ大教を信仰している者にとって、大地の女神の巫女というのは、神聖な存在のようだ。


「俺はこういう性格だ、他意はない。悪く思わないでくれよ」

「……ええ、構いませんよ」


 吾輩は、しがない旅人。

 人様に敬語を遣われるような身分のゴーストではないのだから。


「あんたも、俺には適当に接してくれ」

「わかりました」

「ほら、じゃあ早く行くぞ、ワガハイ」


 ターボフさんが、吾輩を急かす。

 まるで、何かをごまかしたいみたいに。


 振り返ると、そこには、


「行きましょう、ワガハイさん」


 自然体のマルチェさん。


「……そうですね」


 どうやら、問いただすタイミングを失ってしまったらしい。


 マルチェさんと二人、吾輩はターボフさんに連れられ、部屋を出た。

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