012. 目指せ、オトジャの村
日が昇った。
小川の流れる音が心地よく、涼やかな風に遊ばれている木々が美しい。
丸みのある葉を革袋代わりにして運んできた水を、もはや火のない燃え尽きた枝の中にかける。
弾けた滴は、根をはる草木を輝かせていた。
「おはよう、ワガハイくん」
「キュイ、キューイ」
「おはようクーリア、キューイ」
目覚めた仲間たちと、朝のあいさつ。
今日もまた、旅が始まるんだ。
一方、ウィヌモーラ大教パーティーの二人はというと――。
「朝ですよ、ユッカさま」
「わ、わかっているのだ……お、大人のワタシは、ちゃんと、起きている、のだぞ――むにゃむにゃ」
呼び掛けたマルチェさんに、それらしく答えるユッカちゃんだけど、まだまだ眠たそうな雰囲気。
「で、でも、あと少しだけ……寝ていたいのだ」
「残念ですが、もうすぐ出発ですよ、ユッカさま」
何とか上半身を持ち上げたユッカちゃんに、マルチェさんが差し出す。
「まずは、葉ですくった小川の水です。のどを潤して、すっきりさせてください」
「うむ……ありがとうなのだ、マルチェ(ごくり)」
「次は、甘い木の実です。おいしいですから、食べれば目も覚めるでしょう」
「うむ……甘い木の実は大好きだぞ、マルチェ(はむはむ、もぐもぐ)」
目は半開きで、言われるままに口を動かすユッカちゃん。
何だか、いたれりつくせり状態。
巫女というより、貴族の箱入り娘みたいだ。
「最後に、栄養のある野草です。これで、目的の村まで元気よく歩けますよ」
「うむ……いつもすまないのだ、マルチェ(はむ)」
次の瞬間、ほとんど閉じていたようなまぶたが、ぐわっと開く。
「うぇっ!? ぺっぺっぺ!!」
あれは、昨日の野草に違いない。
食べてしまったユッカちゃんは、体を揺らして飛び上がった。
「苦いのだ、苦いのだ!? ま、マルチェ。早く水と甘い木の実をっ!!」
「どうぞ」
すっかり目覚めたユッカちゃんに、水と木の実を与えるマルチェさん。
たぶん彼女たちには、一度や二度じゃないんだろうな、こういうこと。
「し、舌がおかしくなった気がするぞ、マルチェ」
「栄養のあるものを食べても、舌はおかしくなりませんよ、ユッカさま」
「む、むぅ……栄養があろうとなかろうと、ワタシは苦いものが嫌いなのだ――ぺっぺっぺ」
あの様子だとユッカちゃんは、渋みのある食べ物が本当に苦手なんだな。
寝ぼけ半分だった彼女が、すっかり覚醒しちゃったわけだから。
「ふふっ――巫女って言っても、やっぱりユッカちゃんは、かわいい普通の女の子なんだね」
クーリアが、微笑ましく見守っている。
さて、出発だ。
目指す場所――オトジャの村へは、きっと、もうすぐだろうから。




