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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第2章 第2節] パジーロ王国>グシカ森林_01
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003. 女性の心はわからない(前編)

 吾輩の周りを、木々が囲んでいる。


 岩肌が目立つソノーガ山脈の西端が近いという、この場所の地域性だろうか。

 イダの森と比べると、湿度が低く乾燥しているような感覚がある。


 そう。


 ここはもう、グシカ森林だ。


「森では、仲間から離れてはいけないのだ。町や平原とは違い、ここで迷子になると、本当に大変なのだぞ――なぁ、マルチェ?」

「はいユッカさま、迷子になると大変です」


 ということなので、機嫌を損ねていたクーリアとも合流。

 二つのパーティーメンバーが一つになって、列をなして進む。


 先頭は、もちろんユッカちゃん。

 その後ろにマルチェさん。

 続いてクーリア、キューイときて、最後尾が吾輩だ。


「残念だね、ワガハイくん。そこからじゃ、大好きなたゆんたゆんも拝めないもんね」


 嫌みのつもりなのか、首だけこちらに動かしたクーリアが言ってくる。

 どうやら、まだ怒っている(?)らしい。


「エッチな変態ゴーストのワガハイくんだから、胸の部分がぱつんぱつんのネグリジェを着たマルチェさんが、添い寝しながら『お兄ちゃん』って呼んでくれるのを想像したりしてるんでしょ、きっと……いやらしい」


 クーリアの中での吾輩の嗜好しこうは、相当に混沌こんとんとしているようだ。

 いつの日か、しっかり訂正できることを願う。


「ワガハイさん、クーリアさん――ここから先は、いささか厄介な地域になります」


 助け船のつもり――ではないだろうが、マルチェさんが口を開く。


「ソノーガ山脈の周辺には、それぞれに森林地帯が広がっていますが、このグシカ森林におきましては、ガレッツ公国領内のイダの森、その他の類似地域以上に、元来の自然が保たれていると言われています」


 マルチェさんは、クーリアのように振り返ったりはしない。

 淡々と、事務的に続けるだけだ。


「この森の中にも集落がありますが、そこに住まう彼らは、ほぼ単一種族。そして古くから、偉大なるウィヌモーラさまを正しく崇め、自らの伝統文化を守って生活しています。異邦人に対して排他的ではありませんが、自然との共存は、彼らの持つ哲学なのです」

「ん……つ、つまり、どういうこと?」


 話の趣旨がつかめなかったらしいクーリアに、吾輩は伝える。


「要するに、野生の獣やモンスターが活動的だから気をつけて――ってことだよ」


 普通の旅人は、ニサの町からパジーロ城下町へ向かうことだろう。

 特別な理由でもなければ、部外者が訪れることのない森。

 そういうことになるのも当然といえる。


「……ふーん」


 吾輩に解説されたのが腑に落ちないのか、クーリアはそっけなく答えていた。


「安心するのだ、クーリア。もしも何かが襲ってきても、ワタシが追い払ってあげるのだぞ」

「あ、う、うん……ありがとね、ユッカちゃん。頼りにしてるよ」


 追い払ってくれるのは、マルチェさんじゃないのかな――とか思ってるんだろうな、クーリアは。


 彼女の背中に、そんな想像をめぐらせていると、


「わ、ワガハイくんも、ああいうの言ってくれたらどうなの? ほ、ほら……『吾輩が、クーリアを守るからね』とかさ」


 今度は振り返ることもなく、クーリアが告げてきた。


「言わないよ、そんなこと」


 すると、


「んなっ!?」


 吾輩の返答にクーリアが立ち止まり、そのまま詰め寄ってきた。


「ひどい、ワガハイくんっ。何、何なの? 私がたゆんたゆんじゃないから、だからもう守ってもくれないの!? ワガハイくんは、釣った魚にはエサをあげないタイプの、そういう悪い男ゴーストなのっ!?」


 何か気に障ったのか、彼女の剣幕がすごい。


「……だってクーリアは、吾輩と出会うまでにも、たった一人で旅をしてきた女の子じゃないか。グシカ森林の獣たちが活動的とはいえ、君の素早さと魔法能力なら、十分に対応できるでしょ?」

「そ、そうだけど、そうかもしれないけど……ひどい、超ひどい! そういう言い方は、本当にひどいよ、ワガハイくんっ!!」


「……クーリア?」

「ワガハイくんは国境なき騎士団員でしょ!? 何より男子じゃん!! オジサンかもしれないけど、それでもれっきとした男子でしょ!? なのに、私のことを守ってもくれな――」

「守るよ、クーリア」

「…………え?」


 どういうわけか、予想外に取り乱している彼女に、吾輩は伝える。


「君は、吾輩の旅の相棒になってくれたんでしょ? だから君はもう、吾輩にとってかけがえのない存在さ。どんなことがあったって、君のことは全力で守る。そんなことは、吾輩にとって当たり前、考えるまでもない――だから別に『クーリアを守る』だなんて、吾輩は言わないんだよ」

「わ、ワガハイくん……」

「そんなこと、君はもうわかってくれていると思ってたのに」


 だって『私、ワガハイくんと別れるつもりなんてないから』とか『私に捨てられたら困るってことを理解している点は、ちゃんと評価してあげるね♪』とか、クーリアは言っていたじゃないか。


 妙な決めつけもされるけれど、そんな女の子のことを守らないなんて、確かに、騎士でもなければ男子でもないからね。


「ふ、ふーん……ま、まぁ、わかってるなら、いいけど」


 そこでクーリアは、顔を伏せて前を向き直った。


「(……やっぱりワガハイくんって、悪い男ゴーストだ)」


 何かつぶやいたようだけど、吾輩にはよくわからなかった。


「キュイ?」


 吾輩のところに来たキューイが、いつものように首を傾げる。


 そうだね、キューイ。


 女性の言動の理由って、男子の吾輩たちには、まったくわからないね。

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