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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第2章 第1節] パジーロ王国>ニサの町 
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005. 幼い彼女の意外な正体(2)

 吾輩のことを、ずいぶんとおかしな方向から心配してくれているクーリア。


 そんな騒がしい彼女を見て、ユッカちゃんが尋ねてくる。


「彼女もお主の知り合いなのか、ワガハイ?」

「うん、旅の仲間だよ」


 今は正直、他人のふりをしたいけれど。


「ならば、お主は『オジサン』なのか?」

「どうだろうね? 十歳くらいの少年かもしれないんだよ、可能性としては」


 とはいえ、さすがにそれはないだろうが。


「自分の歳もわからないのか、ワガハイは。まったく、ダメなやつめ」

「おっしゃる通り、反論もできないよ」

「だが、確かにアンデッドの年齢は、ずいぶんと摩訶不思議な概念だからな。お主のような迷子のおっちょこちょいが、うっかり忘れてしまうのも無理はない――ちなみにワタシは自分の歳を言えるぞ、八歳なのだ」

「それは偉いね、ユッカちゃん。しかも『概念』だなんて難しい言葉を知っているんだから、吾輩より何倍も優秀だよ」

「ふっ、簡単なことだぞ(どやっ)」


 口調は仰々しいけれど、やはりユッカちゃんは、年相応のかわいらしい女の子みたいだ。


「ちょっと、ワガハイくんてばっ!!」


 おっと、クーリアのことを忘れていた。


 とにかく彼女は、吾輩のことを心配(?)してくれているみたいだから、ちゃんと事情を説明して納得してもらおう。


「いいかい、クーリア。吾輩は、ただ……」


 そこでふと、吾輩は躊躇ちゅうちょする。


 ここで事実をありのままに伝えてしまうと、吾輩はユッカちゃんを傷つけてしまうのではないだろうか。


 吾輩は、町で迷子になっていたユッカちゃんを保護したような立場になるんだけど、彼女の建前として迷子になっているのは、彼女を探しているであろう保護者の方なんだ。

 しかもそれを悟られまいとして、吾輩まで迷子の仲間にしてきたわけだしね。


 その言動から考えるに、ユッカちゃんは自分が子供扱いされることを望んではいないはず。


 ならば、いきなり現れたクーリアに吾輩が真実を話すというのは、ユッカちゃんのプライドを無視する行為になる。


 幼くても、レディはレディだ。


 吾輩を頼ってくれている女性に対して、礼を欠くようなことはできない。


「ただ……何、ワガハイくん? 言いたいことがあるなら、ちゃんと言ってよ」

「悪いけど、クーリア。これは、この子の矜持きょうじに関わることなんだ。吾輩がしていることを君に伝えると、彼女の女性としての尊厳を害す――」

「わ、わわ、ワガハイくんは、その子の女性としての尊厳を害するようなことをしたのっ!?」

「…………」


 ああ、説明しづらい。


 ユッカちゃんを気遣いながらだと、ものすごくクーリアに説明しづらい。


「さっきからずっと……て、てて、手なんかつないじゃってさ!? ど、どうせワガハイくんが『オジサンとおててつなぎましょうねぇ、げへへへへ』とか言って、それでそんなことになってるんでしょ!? へ、変態!! この変態ゴーストっ!!」


 どうやら不用意な『女性としての尊厳』発言によって、クーリアは完全に、吾輩を誤解してしまったらしい。


「これは別に吾輩からじゃなくて、彼女の方から――あれ?」


 そこで吾輩はいきなり、ユッカちゃんに手を離された。


 すると彼女は、


「な、何を言っているのだ、ワガハイ!? わ、ワタシは大人だから、お主と手などつながなくても、へ、へっちゃらなのだぞ!? た、ただワガハイがどうしてもワタシと手をつなぎたそうな感じだったから、だから仕方なくつないでやってただけなのだからなっ!!」


 クーリアに指摘されて急に恥ずかしくなったのか、すべてをワガハイが求めたことにしてきた。


「…………」


 あのさ、ユッカちゃん。


 気持ちはわかるんだけど、この状況でそれをされるのは、すごく困るんだよ、吾輩。


「わ、わわ、ワガハイくんてば(わなわな)」


 だってさ、


「う、うん。いいよ、わかった。私、頑張るから……どこかでネグリジェ買って、夜はそれを着て、たまにはワガハイくんのことを『お兄ちゃん』とか呼んで、て、手だってつないであげたりして――少しでも吾輩くんが健全なゴーストになれるように、私、努力するからね」


 本気の本気で、クーリアが吾輩のことを心配しちゃってるから。


「…………」


 どうやら吾輩のための提案みたいだが、そもそも、その複雑な属性を装備した十七歳の女性を好んでいる時点で、もはや健全ではない気がするんだけど。


「キュイ?」


 純粋無垢なキューイは、二人の女性にほんろうされている吾輩を、不思議そうに見ていた。


 夕暮れ時とはいえ、ここは人通りもある町の中だ。


 こんなわけのわからない集団が言い合いをしていれば、それは目立つというもので。



「おや、ユッカさま」



 クーリアに誤解されたことも、ある意味役に立ったのか、迷子だった彼女の名前を呼ぶ声が。


「おおっ、探したぞ。まったく、お主はどこへ行っていたのだ?」


 通りの奥から現れた相手に、ユッカちゃんが駆け寄っていく。


 種族は、純粋な人間――ではないだろう。

 丸みのある二本の角を生やした、クーリア世代の女性だった。

 人間との混血児だろうが、それでも、獣人系の血を引いているのは間違いなさそうだ。


「私は、迷子になってしまったユッカさまを探して、この町を――」

「な、何を言っているのだ!? ま、まま、迷子になっていたのはお主だろう!? ワタシが、迷子のお主を探していたのだぞ、うむ」

「……はい、そうでしたね。その通りです、ユッカさま」


 ユッカちゃんの無理のある主張にも、彼女の保護者らしき女性は、反論することなく――というか、もはやすべてを受け入れるように答えていた。


 高い身長、肉感的な脚に、豊満な胸――という、ちょっと挑発的なスタイルの獣人系女性だけど、どこか控えめで、抑揚のない口調をしている。


 しかも、明らかに年下のユッカちゃんに敬語で、さらには『ユッカさま』だなんて――いったい、二人はどういう関係なんだろう?

 ただの旅の仲間というわけではなさそうだ。


「ワガハイ、無事に見つけられたぞ――彼女が、ワタシの探していた迷子の同行者なのだ」


 ユッカちゃんが律儀に、吾輩に報告してくれる。


 同行者――と表現された、保護者らしき女性。

 母親にしては若すぎるし、姉というのもおかしい雰囲気。

 おそらく、家族や親族ではないのだろう。


 そんな二人の間柄以上に気になったのは、ユッカちゃんの同行者だという彼女の装備品。

 背中に背負っている、斧と槍を合わせたような大型の武器――斧槍ふそうだ。


 剣やナイフのたぐいならとにかく、あれを単純な護身用と理解することはできない。

 そもそも、使いこなす――どころか、持って移動することさえ大変なはずだ。


 肌の露出部分が多い服装と、女性的で豊満な肉体が目立ってしまう彼女だけど、その本質は、手練れの戦士に間違いないだろうな。

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