002. まずは宿探し
それから、またしばらくなだらかな平野の道を歩いていると、活気のありそうな集落が広がる――町だ。
吾輩たちは吸い込まれるように、その通りへ入る。
国の都であるガレッツ城下町と比べると見劣りするが、それなりに発展しているようだ。
行き交う人々はもちろん、小屋の軒下に商品を広げて、通行人に商いをしている者までいる。
確認できる種族は、そのほとんどが人間。
残りはエルフ、あるいは、獣人系の方たちだ。
さすがに、ゴーストやドラゴンはいなかった。
それとなく周囲を観察していると、
「ようこそ旅人たち、はるばる『ニサの町』へ」
社交的な雰囲気の青年が、吾輩に声をかけてきた。
「ガレッツ公国から来たんだろう? 日暮れ前に到着したってことは、朝から歩き続けていたはず。ご苦労なことだ」
ガレッツ公国、から?
この集落の住民らしき青年の言葉に、ふと引っかかった吾輩。
「あの……もしかして、ここは?」
「ああ、そうだよ――このニサの町は、我らが『パジーロ王国』の南の玄関口。あんたらはガレッツを抜けて、この王国内に入ったってことさ」
そうか。
知らぬ間に吾輩たちは、国境を越えていたんだな。
ここは、パジーロ王国。
吾輩が訪れた、新しい土地。
「宿屋も食堂も、ここを奥へ行ったところだ。いくつかあるから、気に入ったところを選べばいい。どうせあんたらも、王国北部にある都――『パジーロ城下町』を目指すんだろう?」
「……ええ、まぁ」
そんなこともないのだが、話を合わせるために、吾輩はあいまいに答えた。
「なら今日は、ここでゆっくり休むことだ。危ない道中じゃないが、それなりに距離があるからな――それじゃ、楽しい夜を」
親切な情報を残して、町の青年は去っていった。
「きっと、旅人がめずらしくない集落なんだね、ここって」
先ほどの彼の態度から、そう感じたのだろう。
クーリアが、納得したようにつぶやいた。
確かに国境付近の町ともなれば、訪れる旅人も少なくないはず。
宿場町とまではいかなくとも、王国の都を目指す者たちの中継地点にはなっているのかもしれない。
さて。
夕食にはまだ早いけれど、とりあえず空腹を満たしたいところ。
キューイも、さすがに限界だろう。
とはいえ、今夜は間違いなくこの町で過ごすことになりそうだから、食事よりも先に済ませておかなければならないことがある。
吾輩は野宿でも構わないけれど、相棒の彼女は、それを望まないだろうからね。
「ワガハイくん、キューイ――じゃあまずは、今日の宿を探しに行くよ」
「了解」
「キュイ、キュイ」
クーリアを先頭に、吾輩とキューイが続く。
ふと、空を仰いでみる。
この国ではいったい、何が吾輩を待っているんだろう――そんなことを、心の中でつぶやきながら。




