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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第2章 第1節] パジーロ王国>ニサの町 
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001. 旅の相棒は倹約家

 ガレッツ城下町を出た吾輩たちは、進路を北に定めて進む。


 公国の都へ通じている地域だからか、吾輩のような旅人とすれ違うこともあった。

 きっと今夜は、あの町で過ごすのだろう。


 まだまだ明るい春の午後。


 しかし太陽の位置からして、いわゆるランチの時間は、もう過ぎ去ってしまったらしい。


 というわけで、


「キュイ……」


 朝は元気に羽ばたいていたキューイも、やや疲れている様子。


「天気はいいし、危険もないけど……さすがにお腹が空いちゃったみたいだね、キューイ」


 ふわふわと浮かびながらも、どこか勢いのなくなった彼を見ながら、クーリアが苦笑い。


 お昼はおろか、吾輩たちは朝から何も食べていない。


 一食二食抜くなど、もちろん貧乏旅では当たり前だが、ここ数日間の城下町での生活を考えれば、確かにつらくも感じるはず。

 いくらドラゴンとはいえ、空腹には勝てないだろうから。


「村や町に着いたら、何かおいしいものを食べようね、キューイ」

「キュイ、キュ、キュイ」


 呼びかけたクーリアに、キューイが答える。

 少し元気が戻ったみたいだ。


「ワガハイくんは、何がいい?」

「そうだな……今日の気分は、香辛料で味付けされた塩漬けの薄切り肉かな。厚みのあるパンに挟んで、葉野菜といっしょに食べるんだ――どうだい、キューイ?」

「キュイ、キューイ♪」

「そうだよね、おいしそうだよね」


 やはり吾輩、彼とは気が合うんだ。


「じゃあ、着いたらそれを食べよう。一般的な軽食だから、次の集落にもあるはずさ」


 吾輩の口はもう、スパイシーな肉汁しか受け付けない。


「試してもらいたい味付けは、ハニーマスタードなんだよ、キューイ。酸味を含んだまろやかな辛みが、きつめの塩気をマイルドにしてくれて、だから最後まで飽きずに――」

「アレンジグルメもいいけどね、お金を出すのは私なんだよ、ワガハイくん」


 吾輩の言葉をさえぎって、クーリアがとがめてくる。


「今後のこともあるんだから、それなりにリーズナブルなものにしてもらわないと」

「いやいや、薄切り肉と葉野菜くらいなら、十分にリーズナブルな食事だと思うん――」

「旅は長いんだよ、ワガハイくん(ニッコリ)」

「…………」


 教え諭す――というより、反論は許さないと言わんばかりの笑顔でのぞき込んできたクーリアに、吾輩は沈黙。

 このパーティーのお財布係は、相変わらず手厳しい。


「私に養われているんだってこと、忘れていませんか?」

「……何が食べたいのかを聞いてきたのは、君じゃないか、クーリア。ガレッツ城にお世話になったおかげで、その分の出費は抑えられたわけだし、ちょっとくらいの贅沢は――」

「ワガハイくんは、ピチピチ十七歳の女の子のお金で贅沢しちゃう気なの? そういう、ひどいゴーストなの? ジゴロでヒモな悪い男なの、そうなの?」

「……そもそも吾輩たち、パーティーの仲間のはずだよね?」


 それなら吾輩、ジゴロでもヒモでも悪い男でもないと思うんだけれど。


「ワガハイくんは、これからも旅を続けていきたいんでしょ? 稼ぎがないのなら、たとえ国境なき騎士団員だとしても、贅沢なんて許されないんだからね――ということで、節約できるところは、とことん節約していきます(ふんすっ)」

「……わかったよ」


 それを言われると、返す言葉もない。


 だって、自分勝手に好きなものを食べるよりも、


「キューイも、ワガハイくんに乗せられたりしたらダメだからね」

「キュ、キュイ……」


 このふたりといっしょに過ごしていた方が、何だか幸せな気がするからさ。

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