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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第1章 第3節] ガレッツ公国>ガレッツ城下町
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031. 再会の予感

 ガレッツ城の城門前、春らしい風が草木を揺らす朝。


 ガウター公とワーザスさんの殺害は、サンドロさんの乱心による強行――として処理されるようだ。

 密かにコンラートさまを支持していた彼が、忠誠心に基づく復讐のために、君主と上官に剣を抜いたと。


 サンドロさんの動機や、その忠義が向けられた『相手』はとにかく、少なくとも客観的事実に関しては間違っていない。


 だからこそ、どうにも質が悪い。


 おそらく、真相が明らかになる日は来ないのだろう。


 本当のことを知っているのは、吾輩と、青髪の姫君だけなのだから――。


「そんな顔をしないでください、クーリアさん」

「だ、だって、イオレーヌさまのことを思うと、私……」

「私は大丈夫ですよ。こう見えても、私は公爵家の娘。強い女ですから」


 悲しげなクーリアを、微笑みながら気遣うイオレーヌさま。


 これでは、どちらが慰められているのかわからない。


「は、はい……きっとイオレーヌさまなら、すてきな女性君主になれると信じています、私」

「ありがとうございます、クーリアさん」


 起こってしまったことや、その境遇を考えてのことだろう。

 目が覚めて、昨夜の出来事を知ることとなったクーリアは、ずっとイオレーヌさまに強い同情を示していた。


 オーヌの町での、ダニエさんと子供たちの件といい、どうにも彼女は人情派の盗賊らしい。

 もちろんそれは、素晴らしい美徳だと、吾輩は思う。


 けれど、この姫君に対しては、そういう優しさは不要だろう。


 イオレーヌさまはすべてを受け入れ、この朝を迎えている。

 ただの公爵家の娘から、国を率いる女性君主へ――与えられた『機能』が変化した彼女が、迷うことなどあり得ないのだから。


「……キュイ」

「キューイさんも、どうか元気を出してください。笑ってお別れしましょう」

「キュイ……キュイ、キュイ」


 キューイなりに、事情を理解しているのだろう。

 イオレーヌさまを勇気づけるように、彼は翼を動かしていた。


「はい、頑張りますからね」


 キューイに答えたイオレーヌさまが、吾輩に視線を向ける。


「ワガハイさんには、本当にお世話になりました」


 彼女の背後には、ずらりと並んだ憲兵の姿――そして、そびえ立つガレッツ城。


「オーヌでのことも……それに、昨夜のことも」

「お世話になったのは吾輩の方です、宿代と食事代が浮きましたから」

「ふふっ――やはりおもしろい方ですね、ワガハイさんは」


 口元に手を当てて笑うイオレーヌさまは、穏やかで上品な彼女のまま。


 けれど吾輩は、もう知ってしまった。


 彼女の中にある狂気と、その冷静な野望を――。


「また、どこかでお会いしましょう、ワガハイさん」

「…………」


 再会を約束するようなイオレーヌさまの言葉に、吾輩はあえて応じなかった。


 高貴な女性に対して、あまりにも失礼だと思いつつ、それでも。


「……それでは」


 ゆっくりと背を向けた吾輩は、仲間たちと共に、ガレッツ城を後にする。


 さて、進もう。


 新しい出会いと冒険に向かって、また――。

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