031. 再会の予感
ガレッツ城の城門前、春らしい風が草木を揺らす朝。
ガウター公とワーザスさんの殺害は、サンドロさんの乱心による強行――として処理されるようだ。
密かにコンラートさまを支持していた彼が、忠誠心に基づく復讐のために、君主と上官に剣を抜いたと。
サンドロさんの動機や、その忠義が向けられた『相手』はとにかく、少なくとも客観的事実に関しては間違っていない。
だからこそ、どうにも質が悪い。
おそらく、真相が明らかになる日は来ないのだろう。
本当のことを知っているのは、吾輩と、青髪の姫君だけなのだから――。
「そんな顔をしないでください、クーリアさん」
「だ、だって、イオレーヌさまのことを思うと、私……」
「私は大丈夫ですよ。こう見えても、私は公爵家の娘。強い女ですから」
悲しげなクーリアを、微笑みながら気遣うイオレーヌさま。
これでは、どちらが慰められているのかわからない。
「は、はい……きっとイオレーヌさまなら、すてきな女性君主になれると信じています、私」
「ありがとうございます、クーリアさん」
起こってしまったことや、その境遇を考えてのことだろう。
目が覚めて、昨夜の出来事を知ることとなったクーリアは、ずっとイオレーヌさまに強い同情を示していた。
オーヌの町での、ダニエさんと子供たちの件といい、どうにも彼女は人情派の盗賊らしい。
もちろんそれは、素晴らしい美徳だと、吾輩は思う。
けれど、この姫君に対しては、そういう優しさは不要だろう。
イオレーヌさまはすべてを受け入れ、この朝を迎えている。
ただの公爵家の娘から、国を率いる女性君主へ――与えられた『機能』が変化した彼女が、迷うことなどあり得ないのだから。
「……キュイ」
「キューイさんも、どうか元気を出してください。笑ってお別れしましょう」
「キュイ……キュイ、キュイ」
キューイなりに、事情を理解しているのだろう。
イオレーヌさまを勇気づけるように、彼は翼を動かしていた。
「はい、頑張りますからね」
キューイに答えたイオレーヌさまが、吾輩に視線を向ける。
「ワガハイさんには、本当にお世話になりました」
彼女の背後には、ずらりと並んだ憲兵の姿――そして、そびえ立つガレッツ城。
「オーヌでのことも……それに、昨夜のことも」
「お世話になったのは吾輩の方です、宿代と食事代が浮きましたから」
「ふふっ――やはりおもしろい方ですね、ワガハイさんは」
口元に手を当てて笑うイオレーヌさまは、穏やかで上品な彼女のまま。
けれど吾輩は、もう知ってしまった。
彼女の中にある狂気と、その冷静な野望を――。
「また、どこかでお会いしましょう、ワガハイさん」
「…………」
再会を約束するようなイオレーヌさまの言葉に、吾輩はあえて応じなかった。
高貴な女性に対して、あまりにも失礼だと思いつつ、それでも。
「……それでは」
ゆっくりと背を向けた吾輩は、仲間たちと共に、ガレッツ城を後にする。
さて、進もう。
新しい出会いと冒険に向かって、また――。




