023. ワガハイ、気になる断末魔を耳にする。
何となく眠りが浅かった。
さすがに今日一日は、武人としてそれなりの経験を積んでいるつもりの吾輩にとっても、なかなか刺激的だったのかもしれない。
ガレッツ城内の一室で過ごす、二日目の夜。
キューイの寝息がかすかに聞こえる中、吾輩は無言のまま、豪華なベッドの上で横になっている。
心地よい夢に誘われるには、まだ少し時間がかかりそうだった。
さて、いったい今は何時なのだろう?
明日になれば、イオレーヌさまは姿を見せてくれるだろうか……。
そんなことを、ふと考えた瞬間――異様な物音に次いで、断末魔のような声を感じた。
ブランケットをはいで、起きあがる吾輩。
いろいろな可能性が、頭の中をよぎる。
国を統べる公爵家の住まいに、荒くれた賊でも侵入したか?
いや、まさか治安のいい都の城に入り込んでくるような不届き者はいないだろう。
仮にいたとしても、ここの憲兵が素早く捕らえるはず。
騒ぎになるとは思えない。
イオレーヌさまが、吾輩たちを訪ねてきてくれた?
確かに吾輩は先ほど、深夜のお茶会でも構わないと伝えた。
しかし、ただの物音だけなら別だが、あの感情的な叫び声のようなものが説明できない。
「……もしかして」
浮かんできたのは、今夜の夕食におけるワーザスさんの言葉だ。
『ひ弱な役人にそのような度胸はないでしょうが、亡きコンラートさまのために一矢報いようとする騎士や憲兵が、何食わぬ顔で城内を闊歩している可能性もあります。事態が落ち着くまでは、私とサンドロの二人で、ガウター公さまの寝室を警備するのがよろしいかと』
馴染んだコートを羽織り、かたわらに置いておいた剣を素早くつかむ。
夢の中にいるであろうふたりの仲間を起こさぬようにして、吾輩は廊下へ飛び出した。