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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第1章 第3節] ガレッツ公国>ガレッツ城下町
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022. ネグリジェに思い入れはない

 また一晩使わせてもらうことになった部屋に戻ると、クーリアが迎え入れてくれる。


「あ、おかえり、ワガハイくん」


 続いて、キューイ。


「キュイ、キューイ」


 どうやら吾輩を待っていてくれたようで、彼は勢いよく胸に飛び込んできた。


「よしよし」

「キュイ、キュイ」


 のどの辺りに指を滑らせると、キューイはうれしそうに鳴いていた。


 どうやら二人も、運んでもらっていた夕食を食べ終えていたらしい。

 今は、ほどよくハーブティーの香りが立ちこめているだけだった。


「で、どうだったの、ワガハイくん?」


 いろいろなことを含めて、という意味なのだろう。

 クーリアが尋ねてきた。


「ガウター公は相変わらず。ワーザスさんとサンドロさんも、自然体だったよ」


 少なくとも吾輩には、コンラートさまを殺害したことなんて、彼らには特別なことではないのだと思えた。


「……イオレーヌさまは?」

「いや」


 首を振って、彼女とは会えていないことを伝える。


「サンドロさんの案内で、イオレーヌさまの自室前まで連れていってもらえたんだけど、残念ながら、何も返事はなかったよ」

「……そっか」

「キュイ……」


 クーリアもキューイも、イオレーヌさまのことが心配な様子。

 同時に、優しくしてくれた彼女のために何もできないという歯がゆさを、それぞれに感じているようだった。


 どことなく、空気が重くなる。

 吾輩たちが神妙にしたところで、何も解決はしないのに。


 するとクーリアが、


「じゃあ私が、イオレーヌさまの部屋に侵入しちゃおうか――なぁーんてね」


 明るい口調で、盗賊らしいセリフを口にした。


 これは、暗くなりかけた雰囲気を楽しくするための、彼女なりの冗談なのだろう。


 だから吾輩も、ふざけて返す。


「いいね。高貴な女性の寝室には、吾輩も興味があるよ――なぁーんてね」

「……ワガハイくんって、そういう趣味?」

「え?」


 なのにクーリアは、吾輩が独特の性癖を吐露したと理解したみたいで。


「身分の高い女性の夜に寝間着姿に興奮しちゃうような、そういう変態ゴーストなのっ!?」

「そういう変態ゴーストじゃありません……あのね、クーリア。今のは、君の言葉を受けて、吾輩なりの――」


「き、絹のネグリジェでしょ!? 何だか肌触りよさそうなああいうのをすりすりして、そ、それで、その口がニヤニヤしちゃうんでしょ!?」

「キュイ、キュ、キューイ♪」

「いやいや、キューイ、違うから……そんなふうに『僕も、うろこ触りのいいものをすりすりするのは好きだよ♪』みたいな顔をされても困るからね、吾輩は」


「ゴーストって、エルフや人間と比べてひんやりしているし……さ、触られると少し気持ちいいから、あ、ああ、相手もまんざらじゃなくなって――ご、ごご、ゴーストって、実はすごくいやらしい種族!?」

「うん、謝って。世界の全ゴーストに謝って、クーリア」

「キュ、キューイ、キュイ♪」

「いやいや、キューイ、今はそういうのいらないよ……ここで『僕も、ワガハイに撫でられるの、すごく好き♪』みたいな雰囲気を出されると、話がややこしくなっちゃうから」


 さっきまでの沈んだ空気がうそのような、吾輩たちの混沌としたやり取り。


 だけど、どうしてだろう。


 彼らと何でもない時間を過ごしていると、自然と心が落ち着いていく自分がいる。


 そうか。


 ふたりとは、まだ出会って間もないけれど、もうしっかり、吾輩たちは旅の仲間なんだ。


 だから、こんなにも――。


「ひ、一つ、確認、だけど……」


 クーリアが、少し顔を赤くしながら尋ねてくる。


「わ、私がネグリジェで夜を過ごしたりしたら……わ、ワガハイくんは、うれしかったり、する?」

「…………」


 だからさ、クーリア。


 吾輩、本当に『ネグリジェ萌え』とかしないから。

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