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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第1章 第3節] ガレッツ公国>ガレッツ城下町
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021. 無言の扉

 少なくとも、昨日よりは落ち着いて食事を済ませることができた吾輩は、機嫌よく酔っているガウター公へ適当な言葉を残して、すぐに広間を後にする。


 廊下に出た直後、


「ワガハイさん」


 追ってきたのか、サンドロさんが声をかけてきた。


「どうかされましたか?」


 何気なく返した吾輩に、サンドロさんが尋ねてくる。


「あなたは……私に幻滅しましたか?」


 予想外の質問に、吾輩は一瞬戸惑ってしまう。


 けれどすぐに、先ほどの会食中に向けられた彼からの妙な視線を思い出して、それとなくは、この副騎士団長の意図するところをつかむことができた。


 つまりサンドロさんは、今回の一件を通して、どこか青臭い吾輩に軽蔑されたのではないかと、そう感じていたらしい。


 どこぞの旅人ゴーストからの評価なんて、彼が気にする必要はないと思うけれど。


「いいえ、幻滅だなんて……ただ吾輩のようなゴーストは、国家に属する騎士にはなれないなと、そう学んだだけです」


 公国の副騎士団長と、国境なき騎士団の末席――同じ騎士という立場でも、お互いに求められているものは、どうやら大きく違っているみたいだから。


「あなたの言いたいことは、私にもよくわかります……しかし、国に仕える騎士というのは、こういうものなのです。忠誠を誓った相手のためならば、いかなることでもする――たとえその身を、赤黒い血で汚すことになったとしても」


 単なる自己弁護――というわけではないのだろう。

 サンドロさんは、彼なりの信念を口にしていた。


「……一つ、うかがっても?」

「ええ、どうぞ」


 少し興味を抱いた吾輩は、サンドロさんに問いかける。


「あなたは、自らを『国に仕える騎士』だと表現しました。だから、聞かせてください――さまざまな経緯、政治的な問題があるとはいえ、あなたは今回、間接的ながら一人の人間の殺害に荷担しました。要するにそれは、コンラートさまよりも、あのガウター公を選んだということです……サンドロさんは、それが本当に国のためになると?」

「……はい、間違いなく」


 わずかに間が空いた。


 けれど、サンドロさんの答えに迷いはなかった。


 ならばもう、吾輩から彼に尋ねることなどない。


「ワガハイさんは、このままお部屋に戻られますか?」

「はい」

「ならば、少しだけお時間を」


 そう言ってサンドロさんは、廊下を進んでいく。


 黙ってついていく吾輩。


 階段を一つ上がり、そのまま奥へ。

 すると、一つのドアに突き当たる。

 何か特別な部屋なのだろうか、細かな装飾が目立つ二枚扉だった。


「こちら、イオレーヌさまのお部屋になります」

「ああ、なるほど」


 サンドロさんの説明に納得する。


 この向こうに、傷心している姫君がいるというわけか。


「声をかけても?」

「ええ――ですが、お返事は期待しないでいただけると」

「わかっています」


 サンドロさんに許可をもらった吾輩は、努めて普通に話しかける。


「イオレーヌさま、ワガハイです」


 当然ながら反応はない。


「今夜もう一晩、こちらでお世話になることになりました。クーリアとキューイもいっしょです……もし、もしもお茶会の相手がいないのならば、どうか訪ねてきてください。深夜でも飛び起きますよ。しかしながら、吾輩はゴースト。闇の中で吾輩の姿を目撃しても、どうか驚かないでいただけると助かります」


 冗談を交えながら伝えたが、果たして、彼女の胸に届いたのだろうか。


 返事がないのを確認して、吾輩はサンドロさんに首を振る。


「……イオレーヌさま、サンドロです――どうか、前だけを見ていてください。あなたが進み続けることが、この国の未来を明るくするのですから」


 そう呼びかけたサンドロさんと共に、吾輩はイオレーヌさまの部屋の前から離れた。

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