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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第1章 第3節] ガレッツ公国>ガレッツ城下町
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019. 饒舌な勝利者

 祝賀祭は、事実上、公開処刑の場となった。


 歓声は悲鳴に変わり、笑顔は恐怖の表情に。


 騒然とした空気の中でパレードは終了し、それから、どれくらいの時間が過ぎたのだろう。


 ガレッツ城内の広間。


「……イオレーヌさま、出てこないね」

「キュイ……」


 昨晩の夕食で使用した部屋で、クーリアがキューイを抱いている。


 本来の予定では、今日の午後にはガレッツ城下町を発とうと考えていたけれど、こんなことになってしまった。


 吾輩たちはイオレーヌさまに招かれて、城で一夜を過ごした。

 ちょっとした問題はありつつも、もったいないほどのもてなしを受けたんだ。

 まさか、あいさつもなしに去るわけにもいかない。


 しかしあれからイオレーヌさまは、自分の部屋に籠もってしまったようだ。

 当然のことだけど、やはり相当にショックだったらしい。


 とりあえず吾輩たちはこの広間に通されて、城側のご厚意で待機させてもらっている。

 どうにも落ち着かない雰囲気の中で、それでも給仕係の方が用意してくれた紅茶は、本当にありがたかった。


「どうする、ワガハイくん?」

「……まぁ、旅を急ぐ理由はないけれど」


 とはいえまさか、今夜も城のお世話になるというのは図々しいだろう。


 しかし一方で、心を痛めているイオレーヌさまに無断で去るというのも、さすがに失礼だ。


 そしてもちろん、高貴なる女性の部屋に強引に飛び込むというのは問題外。


 結局のところ吾輩たちに、こうやって時間を潰す以外の手段はなかった。


 広い部屋だというのに、テーブルの隅の方で身を寄せ合うようにして集まっている吾輩たち。


 すると扉が開かれて、廊下から男性が入ってくる。


「ここにいたか、ワガハイくん」


 ガウター公。


 自らの命令で弟君の首をはねたことなど、まるで気にもしていないような雰囲気だった。


「どうだ? そこらでは見られない、刺激的なパレードだったろう?」


 誇るようにして問いかけてくる、満足そうなガウター公。


「…………」


 この城の主の登場だ。

 招かれているだけの旅人としては、素早く立ち上がって礼を尽くすのが正しいのだけれど、どうにも青臭い吾輩は、それをする気にはなれなかった。


 吾輩と同じ想いかどうかはわからないが、クーリアもまた、席から腰を上げることはない。


「ふっ……どうやら君の好みではなかったようだな、あの余興は」


 吾輩の無言をどう受け取ったのか、ガウター公が続ける。


「私は間違っているか? 私は悪として断罪されるかね、ワガハイくん? どうか聞かせてくれよ――しかし、君の個人的な意見ではなく、あくまで国境なき騎士団員としての考えを」

「……弟君のコンラートさまは、君主であるあなたに反旗をひるがえしました。国を治める為政者としては、それに対抗するのが道理」

「ほう」


「加えてあなたは、何も非のない一般国民を殺害したわけではありません。コンラートさまもまた、公爵家の血を引く権力者。謀反を起こせばどうなるのか、政治的に最低限の覚悟は持っていたはずです」

「なるほど」

「ですから……国境なき騎士団員としては、吾輩はあなたを、悪として咎めることはできません」


 思うところはある。


 けれど、この場で、吾輩の個人的な感情など意味をなさない。


「そうか、それはどうも」


 ガウター公が、表情をゆるませる。

 望んでいた答えを吾輩から引き出せたことに、彼は満足しているのだろう。


 さらに気分がよくなったのか、ガウター公が語り出す。


「コンラートは、昔から鼻につく弟だった。つまらない性格のくせに、何かと口うるさいあいつは、子供の頃から目障りだったのだ……まぁ、その程度ならどうということもないが、あいつはあろうことか、この私の寝首をかこうと、いつからか考えるようになっていたのだよ」


 テーブルの上に腰掛け、どこか威圧するように吾輩に話すガウター公。


「愚かにも、コンラートを支持する人間が、この城の中にもいた――あいつが乗せたのか、それとも担がれたのかは、定かではないがな」


 勝利した者の口は、実になめらかだ。


「あいつは私を愚王扱いしていたが、これでも慎重なタイプでね。地方の集落になど興味もないが、都の治安維持だけは強く意識していた――だから、騎士団や憲兵隊には、十分な資金を分配していたのだよ」


 そういうことか。


「まじめな――いや、間抜けなコンラートは、私の側であるワーザスやサンドロを、あたかも自分と想いを共有している同志だと考えてしまったのだ。もしもの事態を前提として、私が準備していた罠だとも理解せずに、あいつは愚かにも、公衆の面前で暴挙に出たというわけなのだよ」


 大通りの警備をしていた憲兵たちが冷静だったのは、何もコンラートさまについていたからではない。

 彼らは最初から、このガウター公に忠誠を尽くしていた。

 だから、何が起こるのか、その正確な結末を把握していたんだ。


 そして、昨晩のあれは、



『わかってくれるな、二人とも?』


『……はい、もちろん』

『覚悟は、もうできております』



 コンラートさまをはめるために、上級騎士たちが仕掛けた偽装の会話フェイク――。


「しかし、あまりにも偶然。まさか国境なき騎士団員の前で、こんな事態が起こるとは、さすがの私も想像していなかったよ――ふははっ」

「…………」

「どうだっただろう、私の演技は? 正直、吹き出してしまいそうなのを堪えるのに必死だったから、上手くできたか自信はないがね」

「……コンラートさまの弔いは?」

「ふんっ――どこの誰が国賊を弔うというのだ? 家畜のエサにでもして、その肉を私が食らえば十分だろう」


 権力争いは過酷だ。


 きれいごとを並べるだけでは、きっと政治の世界を勝ち抜いてはいけない。


 だが、それを差し引いても……これは、あまりに冷酷すぎる。


「……あなたは、吾輩の想像以上の君主だったようです、ガウター公。貴族という階級に脈々と存在し続けるドロドロとした『何か』を、まさに体現しているようなお方だ」

「それは、当然誉め言葉だろうな、ワガハイくん?」

「解釈は、どうぞご自由に」


 吾輩はゴースト。


 機嫌のいい君主に皮肉を伝えたところで、まさかこの首は落とされまい。


「……ふははっ」


 鼻で笑ったガウター公は、立ち上がって扉へ向かう。


「今夜も泊まっていくといい。イオレーヌにあいさつをしたいのだろう? あいつは、政治や権力とは無縁だった妹だ。今日のことは、さすがに堪えているはず。しばらくは、部屋に引きこもったままだろうからな」


 言い残して、冷酷な君主は満足げに去っていった。

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