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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第1章 第3節] ガレッツ公国>ガレッツ城下町
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018. 晴天の祝賀祭(3)

 判断に迷っている間に、事は動いた。


 しかしながらそれは、吾輩はおろか、この場にいた誰もが想像をしていなかったであろう方向に――。



「な、かっ――」



 息が漏れたような、かすかな声。


 血しぶきが舞う中、一つの首が落ちた。


 赤く染まる、ワーザスさんの剣。


 サンドロさんの背中もまた、同じように。


 一瞬の、時が止まったような静寂。


 その固まった空気を壊したのは、


「ふは、ふは、ふははははぁーっ!!」


 まるで狂ったように高笑いをした、ガウター公だった。


 直後、城下町を震わせるほどの悲鳴。


 そう。


 あろうことかワーザスさんが剣を走らせたのは、ガウター公ではなく、なぜかコンラートさまに対してだった。


 何が起きたのかわからない――そんな表情で絶命した公爵家次男の首が、馬車から大通りへと転がっていた。


「うっ……」


 目の当たりにした光景に、クーリアが口を押さえる。


 吾輩が彼女の背中に手を添えると、キューイもまた、心配そうに首をこすりつけていた。


 馬車の上に横たわる、首のないコンラートさまの遺体。


 経緯はどうあれ、仮にもそれが血を分けた弟だというのに、ガウター公は礼儀も慈悲も何もなく、ものを言わなくなった四肢を踏みつけて語り出す。


「見ての通りだ、公国民よ。愚かなる弟のコンラートは、あろうことか、実の兄にしてガレッツの君主である私を、公然と『殺す』と宣言した――もはや、国賊以外の何者でもないっ!!」


 いつの間にか、ワーザスさんは剣を収めていた。

 そしてうやうやしくひざをつき、ガウター公に頭を下げている。


「不届きな国賊は、忠義ある我が国の騎士団長によって粛正された――このようになっ!!」


 コンラートさまの亡骸を、勢いよく蹴り飛ばしたガウター公。

 成人男性一人分の重さがあるからか、さすがに首のように、馬車から転がり落ちることはなかった。


「……さて、小賢しい弟は罰を受けて死んだ」


 感情的だったガウター公の口調が、やや落ち着く。


「しかし、この場にはまだ……私を君主とは認めない国賊が、数多く残っているようだが?」


 いや、落ち着いたんじゃない。


 恐怖を与えようとしているんだ。


 コンラートさまの演説に酔い、明確に彼を選んでしまったガレッツの国民に、真の支配者は誰なのかを、聴衆全員の心に刻みつけるために――。


「私は、人道的な君主だ。だから私に不満があるのなら、今ここで名乗り出ることを許そう」


 震える女性、固まる男性、泣き出す子供たち――大通りに集まったすべての公国民に向けて、人道的だと自称した君主が言う。


「ありがたく思え――そのような者は即刻、私が首をはねてやるっ!!」


 一般の公国民には、あまりに強烈な言葉。


 何かつぶやくだけでも『国賊』扱いされそうな空気が、大通り全体を包み込んだ。


 馬車の上のイオレーヌさまは、まるで魂が抜けたように無表情。

 ただ、人形のごとくたたずむだけだ。

 無理もない。


 そんな彼女を、サンドロさんは厳しい表情で支えていた。

 背中にだけ付着している血しぶきが、妙に生々しい。


「覚えておけ、親愛なる公国民たちよ」


 弟君を排除したガレッツ公国の君主は、あふれる感情を隠すこともなく叫び上げる。


「この国の支配者は、他の誰でもない――この私だぁぁぁぁぁぁっ!!」

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