表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第1章 第3節] ガレッツ公国>ガレッツ城下町
39/237

013. ワガハイ、肉料理の隠し味を見抜く。

 最初は不穏な空気だったけれど、会が始まってからは、意外なほどになごやかな時間が流れた。


「このお肉、非常においしいですね。臭みはないし、むしろさわやかさすら感じます……もしかしたら、かなりめずらしい香草が、調理の過程で擦り込まれているのではありませんか?」

「おお、なかなかわかるじゃないか、ワガハイくん――そうなんだ、その通り。大陸南部から取り寄せた異国の植物でね、肉料理の下ごしらえに最適なんだよ」


「なるほど、だからですか。貧乏な旅人である吾輩には、ぜいたくすぎる味です」

「謙遜するな、ワガハイくん。この肉の秘密を感じ取れる舌を持つ君になら、食べられる料理も本望だろうよ」


 性格に難がありそうなガウター公も、つまりはやや幼稚なだけで、話してみると、それなりに吾輩のことを気に入ってくれた様子だ。


「おいしいね、キューイ」

「キュイ♪」


 縮こまっていたクーリアとキューイも、それぞれに食事を楽しんでいる。


「お口に合ってよかったです」


 イオレーヌさまも、どこか安心した表情だ。

 彼女にしてみれば、ガウター公が癇癪かんしゃくを起こさないかどうか、それが不安だったのだろうから。


 サンドロさんとワーザスさんは、公爵家一同の手前だからか、不必要な無駄口は叩かない。


 一方のコンラートさまも、先ほどの一件があったからか、どこかおとなしい印象だった。


「おい、ぶどう酒、ぶどう酒を注げ」


 ご機嫌になったガウター公は、飲み干したグラスを掲げ、給仕係にお代わりを要求。

 いつの間にか、顔もずいぶんと赤くなっていた。


「おや、ワガハイくん。君のグラスは、一向に色づかないようだが?」

「申し訳ない、ガウター公。吾輩、恥ずかしながらお酒は苦手でして。ぶどう酒の代わりに、ガレッツのおいしいお水をいただいております」

「なんと、君は下戸が……それはそれは、人生の半分以上を損しているよ、かわいそうに」


 ほろ酔いの公爵は、新しく注がれたぶどう酒を、また一気に飲み干した。


「ワガハイくんって、お酒が苦手なんだ……じゃあ、やっぱり実は子供? だけど、お酒が飲めないオジサンもいるしなぁ――う、うーん」


 どうやらクーリアは、本人すらわからない吾輩の年齢を、何やかんや推理することを諦めてはいないらしい。


 どうでもいいけれど、答えが出ないことで悩まないでもらいたいな。


 すると、


「おい、もう一杯、もう一杯だ」


 さらに顔を赤くしたガウター公が、給仕係に命令した。


「お、お兄さま……少し飲み過ぎではありませんか?」

「いいじゃないか、イオレーヌ。今夜は、国の恩人であるワガハイくんを招いての宴だぞ。加えて明日は、私の即位三年を祝う日でもある。飲まずにどうずる、飲まずに」


 心配するイオレーヌさまをあしらうように、ガウター公は顔をゆるませていた。


 まぁ、陽気に酒をたしなむだけならば自由。

 けれどガウター公は、それには留まらないみたいで。


「しかし、その幼いドラゴン、なかなか魅力的な姿をしているな。白いうろこは美しいし、気品もある――どうだ、ワガハイくん。君の家畜を、私に売ってはくれないか?」


 キューイを『家畜』と称し、加えて『売ってはくれないか?』とまで口にしたガウター公。


 吾輩をからかうだけなら構わないけれど、これにはさすがに腹が立つ。


 けれど、吾輩よりも感情を表に出していたのは、


「…………」


 無言ながらガウター公をにらみつけている、正面のクーリアだった。


「キュ、キュイ……」


 自分のこと――というより、クーリアが怒っていることに気をもんでいるようなキューイ。


 その様子を感じ取ったのだろう。

 イオレーヌさまが、すぐに口を開く。


「お兄さま、あまりに失礼です。キューイさんは、ワガハイさんたちのパーティーの一員――お仲間なのですから」

「はははっ、冗談だ、冗談に決まっているだろう」


 冗談では済まされないような発言だったが、ガウター公は悪びれもしない。


「しかし、ドラゴンを飼うというのは悪くないとは思わないか? この城にドラゴンがいるというのなら、我が公爵家にも箔がつくといもの。どうだろう、正しい血統の翼竜を一匹、異国から連れてくるというのは。金ならあるし、他国の貴族へ、ガレッツの威厳を――」

「いい加減にしてくださいっ!!」


 酔いが回っているのか、それとも、単に個人の本性か――いささか目に余る振る舞いをしたガウター公を怒鳴りつけたのは、


「あなたは、この国を何だと思っているのです、兄さんっ」


 おとなしく食事をしていた、となりのコンラートさまだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ