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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第1章 第3節] ガレッツ公国>ガレッツ城下町
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010. ワガハイ、クーリアにほめられる?

 ガレッツ城、その城内。


 吾輩たちが通されたのは、安宿とは大違いの豪華な客間だ。


 装飾の施されたベッドが二つ、そのまま横になっても十分なくらいにふかふかなじゅうたんの上に置かれている。

 テーブルには紅茶、木の実やクッキーまで用意されていた。


 幼竜であるキューイの寝床用ということなのか、毛布の入った底浅の篭まで――まったく、至れり尽くせりだな、これは。


「わーい♪」


 ばふっ――と、クーリアがベッドに飛び込む。


 ここまで案内してくれたサンドロさんも、今はいない。


 だから現在、ここにいるのは吾輩のパーティーメンバーだけだ。


「キュイ、キュイ」

「ん、木の実が気になるのかい?」


 部屋の椅子に腰掛けた吾輩に確認するように、キューイがテーブルの上で鳴いた。


「いいよ、食べても。これは、城に招かれた吾輩たちのために出されたものだからね」

「キューイ」


 吾輩が伝えると、キューイはうれしそうに、木の実をかわいくかじる。

 お腹が空いていたんだな。

 無理もない。

 朝はドライフルーツだけだったし、気づけばもう、昼食を取ってもおかしくはない時間みたいだから。


「いやぁ、まさか、本当にお城でお世話になるなんてね」


 寝ころんでいるクーリアが、ベッドから言う。

 脚をシーツに滑らせながら、その感触を楽しんでいるようだ。

 その様子じゃ、よほど気持ちがいいんだね。


「私の一人旅だったりしたら、こんなことはそうそう起こらないよ。ワガハイくんさまさまだね、うん――よっ、さすがは国境なき騎士団員」

「はいはい、どうも」


 適当なお褒めの言葉だったから、吾輩も適当に返した。


 そういえばクーリア、宿代や食事代が浮くからガレッツ城に招待されたいとか、そんなことを口にしていたっけ。

 イオレーヌさまとの出会いはまったくの偶然だけど、結果的に、彼女の願いが叶ってしまったったわけだ。


「でもさ、こういうのばかりを期待されても、吾輩は困るよ。今回のこれは、単なる幸運なんだからさ」


 これからも、きっと基本は慎ましやかな貧乏旅。

 吾輩の相棒を自称しているクーリアには、それを十分に覚悟してもらわないと。


「わかってるって――だけど、ワガハイくんについて行くことを決めた私って、やっぱり見る目があるなぁーって」

「……吾輩をほめているようで、つまりは自画自賛じゃないか、クーリア」

「えへへ♪」


 起き上がったクーリアが、舌を出して笑う。


 まぁ、こうやってパーティーを組んだ以上、彼女には、吾輩との旅が楽しいものであってもらいたい。

 少なくとも吾輩は、クーリアとの旅を楽しみたいと、そう思っているのだから。


 すると、部屋のドアがノックされる。


「どうぞぉーっ」


 クーリアが答えると、入ってきたのはイオレーヌさまだった。


「失礼します――どうですか、お部屋の方は?」


 人目を避けるようなローブは脱ぎ去り、まさに姫君そのものといったイオレーヌさまの出で立ち。

 ひとつなぎのドレスが体のラインを上品になぞり、彼女の女性らしいスタイルを強調させる。

 けれど、決していやらしさはなく、清らかな雰囲気さえ漂っていた。


「……イオレーヌさま、きれい」


 その姿に、クーリアがつぶやく。

 そのまま凝視するように、彼女はイオレーヌさまをながめていた。


「そ、そんなふうにまじまじと見ないでください、クーリアさん……何だか、すごく恥ずかしくなってしまいますから」


 長い青髪に触れながら、美しい姫君は顔を伏せていた。


「キュイ、キュイ」

「あら」


 木の実に夢中だったキューイが、羽ばたきながらイオレーヌさまの胸へ。

 どうやら彼は、なかなかの面食いらしい。


「キューイも『イオレーヌさま、きれい』って言ってますよ」


 キューイの気持ちをクーリアが代弁すると、


「ふふっ、ありがとうございます、キューイさん」


 イオレーヌさまは、その腕で、小さな白い体を抱きしめていた。


「ここは、吾輩にはもったいないくらいの部屋です。十分にくつろいでいましたよ」


 椅子から立ち上がった吾輩は、気遣ってくれたイオレーヌさまに伝えた。


「それはよかったです。不満があれば、何でもおっしゃってくださいね」


 イオレーヌさまは、キューイの頭をなでながら続ける。


「本当は、すぐにでもワガハイさんを、お兄さまたちに紹介したいのですが、明日は祝賀祭。何かと忙しいみたいで……もちろん夕食は、公爵家一同でおもてなしさせていただきますからね」

「お気になさらず。むしろ、このような時期に招いていただいただけでも、感謝しきれないくらいにありがたいことなんですから」


 迷惑とまではいかないまでも、イオレーヌさまの兄たちにしてみれば、吾輩たち一行は、予想外の客には違いない。

 貴族という立場もあるし、おいそれとは対応してこないのが普通だろう。


「そう言っていただけると、たいへん助かります――代わりと言っては何ですが、これから私はランチの時間なのです。ごいっしょしてくださいませんか、ワガハイさん?」


 イオレーヌさまからの、非常にうれしい提案。


 吾輩よりも先に答えたのは、


「キューイ」


 木の実だけじゃ満足できない様子のキューイだった。

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