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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第1章 第3節] ガレッツ公国>ガレッツ城下町
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005. 紅一点には逆らえない

 ガレッツ城下町に到着してから、初めての朝。


 昨晩は、食堂の店員に教えてもらった安宿に宿泊。

 しっかりと早起きをした吾輩たちは今、町の市場通りを散策している。


「いらっしゃい、いい野菜が入ってるぜ」

「明日は、ついに祝賀祭当日だよ。お祝い価格で安くしとくから、ウチの干し肉、一つどうだい?」

「さぁさぁ、外国から運んできた高級茶葉だよ。一口飲んだら、他の店のじゃ満足できなくなるよ」


 活気ある商人たちの声が、右からも左からも響いていた。


「やっぱり国の都だね、朝からにぎやか♪」


 クーリアは、今日も元気だ。

 住民や旅人であふれる町を、楽しそうに歩いている。


「キュイ、キューイ」


 人里離れて暮らしてきたはずのキューイにしてみれば、きっと、見るものすべてが新鮮なんだろう。

 吾輩の肩あたりを浮遊しながらも、並んでいる露店に釘付けだった。


「何か食べたいものはある、ワガハイくん?」


 笑顔のクーリア。


 大衆食堂の蒸かし芋に、城下町で一番安い宿屋――昨日から地に足の着いたお金の使い方をしてきたおかげで、お財布係の彼女からは、朝食を食べるお許しが出ている。


 いやはや、ありがたい。


 焼きたてのパン、上品な香りのチーズ、みずみずしい果物――どれもおいしそうで、朝食にはぴったりだ。


「さて、どれにしようかな」


 正直、目移りしてしまう――吾輩に、目はないんだけどね。


「キュイ、キュイ」

「あれがいいのかい、キューイ?」


 キューイが反応を示したのは、甘い香りがする焼き菓子だ。

 確かに、すごく興味深い。

 お焦げがあるけれど、中はしっとりとしていそうだ。

 ぜひ味わってみたい。


「うん、いいチョイスだよ、キューイ。吾輩と、すごく気が合うかもしれない」

「キューイ、キュイ」


 吾輩とキューイの意見は一致した。


 さっそく、吾輩たちの心を射止めた焼き菓子を売る露店に近づこうとすると、


「待って、ワガハイくん」


 クーリアに、コートの袖を引っ張られてしまう。


「おいしそうだけど、あれは、また今度ね。少し高そうだから」

「……君はさっき、笑顔で『何か食べたいものはある、ワガハイくん?』って言ったはずだよね?」


 それって、何でも好きなものをどうぞ――ってことでしょう?


「もちろん意見は聞いてあげるけど、それを許可するとは、一言も言ってないよ。決めるのは私だからね」

「「…………」」


 気分はすっかり『焼き菓子モード』になっていた吾輩。

 きっと、キューイもそうだろう。

 無言のまま、ふたりで顔を見合わせていた。


「安くておいしいものを探すの。ここは市場通りなんだし、食べ物は他にもたくさんあるんだから」

「……はいはい」

「……キュイ」


 無一文の吾輩たちに、クーリアへの反論が許されるはずもない。


 このパーティーの男子は、お金のある紅一点に、決して逆らえないみたいだ。

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