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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第1章 第3節] ガレッツ公国>ガレッツ城下町
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004. 公爵家兄弟のうわさ

 正直、少し物足りないけれど、蒸かし芋はおいしくいただいた。

 調理されたものは、おそらく初めて口にしたであろうキューイも、十分に満足したみたいだ。


 店からのサービスで出された食後の紅茶を飲みながら、吾輩たちはしばし、その余韻を楽しんでいる……周囲のテーブルに置かれた香ばしい肉料理が、少しうらやましくはあるけれど。


 すると、別に盗み聞きをしたいわけじゃないが、近くの男性客二人組の会話が、それとなく伝わってきた。


「明後日は、いよいよ祝賀祭だな。ここ数日は、町を訪れる旅人も、普段以上に多い気がするよ」

「我が国を治める『ガウター公』が、今の地位に就いてから三周年のお祝いだからな。観光気分で見に来る者も少なくないんだろう」


 ガウター公、か。


 この国は、ガレッツ『公国』――つまり、公爵家一族が治める国だということ。


 公爵というのは一般的に、ある国の王族と血のつながりがある、あるいはそれに匹敵するレベルの貴族に与えられる爵位。

『公』というのは敬称だから、この国の国家元首は、ガウターという方らしい。


「盛大にやるんだろうな、今年も。ガウターさまは、なかなか派手なお方だから」

「しかし、景気がいいのは結構だけどよ、大丈夫なのか、俺たちの国は」


「ん、いいんじゃないの? 城下町の治安はいいし、旅人も定期的に訪れる。それなりに潤ってるよ、俺はさ」

「……お前、知らないのかよ、城の中の話?」


 上機嫌な一方の男性に、他方の男性が、声のトーンを落として言う。


「実は、揉めてるらしいぞ、兄弟で」

「兄弟って……ガウターさまと、弟の『コンラート』さまが?」


 ガウター公には、コンラート――という弟がいるようだ。


「先代が亡くなってから、長男であるガウター公が公爵家当主の座を継いだわけだが……ここだけの話、あの方は、国を治めるような器じゃないぜ。他国の貴族に見栄を張るだけで、内政は役人に任せっぱなしってウワサだ」

「へぇーっ、そうなんだ」

「お前、本当に何も知らないんだな……最近、オーヌの町で騒ぎがあって、汚いことをしていた役人が捕まったんだぞ。それだって、たまたま訪れた国境なき騎士団員が見つけたから発覚したようなもの。ガウター公は、地方の実情になんて無関心なんだよ」


 事件やゴシップの情報というものは、想像以上に広く、そして、速く拡散するようだ。


 事情通の男性の言葉が聞こえたのか、


「(言われてるね、ワガハイくん♪)」


 からかうように、クーリアがそっとささやいてきた。


「(わかっていると思うけど、よけいなことは言わな――)」

「(はいはい)」


 吾輩は、国境なき騎士団に所属しているという事実を、ことさらに隠すつもりはない。

 けれど、不必要に宣言するつもりもない。


 クーリアに念を押したところで、また、男性客の話が伝わってくる。


「中身の伴わない兄のガウター公に、弟のコンラートさまは、ずっと不満を漏らしているらしいぞ。元々、堅実な性格のコンラートさまを国のトップに推す声は、先代が亡くなった時にもあったんだ。次男とはいえ、正当な公爵家のご子息であることには変わりないからな」

「じゃあ、城の中は実質、二つの派閥に割れているってこと?」


「ああ。城内勢力の一部は、今も、コンラートさまを強く支持している。オーヌでの問題も明らかになったことだし、もしかすると、血が流れるような強硬手段に――なんて話も、夜の町では、冗談半分で流れているくらいだ」

「そ、そうだったのか……変なことにならなければいいけどな」


 兄弟間の確執。


 あまり穏やかではないけれど、めずらしい話というわけでもないだろう。


 高貴な一族においては、少なからず起こり得ることだ。


「……どこでも、どんな立場でも、それぞれいろいろあるんだね」


 紅茶を口に流し込んだクーリアが、彼女なりの感想を述べていた。

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