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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第3章 第1節] ベンデノフ王国>南ベンデノフ城下町
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057. 大盗賊、現る(4) ――開戦――

 先手を取る。

 駆け出した吾輩は、パワーアップした魔法幻兵一体の背後に回り、青白い剣線を走らせた。


「ジガァッ」


 反応してきたか。

 腕の篭手こてで受け止められてしまった。


 一般的な種族の武人相手では、通常あり得ない動き。

 腰が完全に反転して、ねじれたようになっている。

 魔力体だからこその体勢だ。


「〈火の飛礫イーゴ・ジェハ〉」

「ガァッ!?」


 すぐさま顔に一発。

 仕留めることはできないが、ダメージは入る。

 力押しは可能だ。

 ひるんでいる隙に、この一体は片づける。


 火球に混乱して、頭を下げたところを、


「〈霊剣の斬撃ネヴィマ・フォル・パーザ〉」


 霊気を込めた剣で、斬る。


「ジィガァァァァァァッ!?」


 強化版魔法幻兵、一体撃破。


 大丈夫。

 見た目ほどの防御力はない。


 いける。

 問題ない。


 さぁ、残りは二体。


 ジフォンを確認する。


「『…………』」


 軽口は出てこない。

 ただ、感じる視線の鋭さは、より深く、吾輩に刺さるようになった。


 わかったよ、ジフォン。

 パフォーマンスのような戦いは好まないが、たった一人の観客である君のために、少しだけ、らしくないことをしてあげるよ。


「ガジィィィッ、ガァァァァァッ」

「ガジィガァァァァァッ」


 雄叫びと共に、最後の二体が動く。


「〈魔力充填・鋼マギド・レージ・ルアイゼ〉」


 呪文を唱えた吾輩。

 両腕が、鋼の篭手によって守られる。


 直後、吾輩は持っていた剣を、空高く放り投げた。

 霊気を宿したままの刃が、闇夜に怪しく光る。


「『なっ……』」


 ジフォンから届く、本当に小さな驚きの声を、吾輩は聞き逃さない。


「ジィーッ、ガァァァァァッ」


 まだ距離がある中、一方の魔法幻兵が、勢いよく腕を伸ばしてきた。

 その拳で、吾輩を殴り飛ばすつもりらしい。


 当然こちらも、鋼の拳で弾き返す。

 魔力によって創られた金属同士が、重い音を響かせた。

 

 即座に、吾輩は呪文詠唱。


「〈火の飛礫イーゴ・ジェハ〉――はっ、はっ、はぁーっ」

「ジガッ、ガッ、ジガッ!?」


 三発の火球が、向かってきた魔法幻兵を後退させた。

 物理的な間合いが広がる。


 ちょっと待っていてほしい。

 すぐに相手をしてあげるから。


 言葉にはしないメッセージを思いながら、逆サイドへ走る吾輩。

 残っているもう一方を、先に制圧するために。


 加速――と同時に、その魔法幻兵の前へ。


「ガガッ!?」


 あまりのスピードに、どうやら困惑している様子。

 さながら、吾輩が瞬間移動したかのように見えたかもしれない。


 悪いね。

 ちょっと急いでいるんだよ。


 右、左。

 鋼の拳を、リズムよく入れる。


「ジッ、ガッ!?」


 かぶとで守られている魔法幻兵の頭部が、往復して揺れた。


「〈魔力充填・火マギド・レージ・イーゴ〉」


 呪文。

 自分の右腕に、火の魔力を重ねる。

 呪言二重唱スペル・デュオだ。


 赤い炎をまとった鋼の拳が、バランスを崩した魔法幻兵を打ち抜く。


「〈火炎をイーゴ・まといし錬鉄の拳ルアイゼ・オスト〉」

「ジガゴフッ!?」


 城壁まで吹っ飛び、魔法のしもべは灰になった。


 さて、仕上げだ。


 素早く平面移動。

 そして、高くジャンプする。

 空中で、両腕の魔力を解除。

 手を伸ばした先には、落下し始めていた吾輩の剣。

 つかんで、地面を見下ろす。

 そこには、三つの火の玉を浴びた、あの魔法幻兵が――。


「〈霊剣の斬撃ネヴィマ・フォル・パーザ〉」


 かぶとも胸当ても関係ない。

 奇妙な体躯たいくを鮮やかに斬り裂く、青白い霊気の一太刀ひとたち


「ジガァァァァァァァァッ!?」


 最後の魔法幻兵、撃破。


 これで、十体すべてを制圧した。


 着地と同時に、城壁の上を望む。

 そこには、拍手を響かせるジフォンがいた。


「『素晴らしい。投げた剣が落ちてくるまでの間に、強化した魔法幻兵を二体も……まったくもって驚きだよ』」

「あなたのために、がらにもなく派手な立ち振る舞いをしてしまいました。お気に召しましたか?」


「『おおいに』」

「では、約束を守っていただきましょう」


 吾輩は、刃をジフォンに向けた。


「『……まぁ、仕方ないか』」


 やれやれと、まるで気乗りしないような雰囲気。


 しかし躊躇ちゅうちょすることなく、自らを宙に投げ出す。


 風に遊ばれて、マントが大きく揺れた。


 見上げるような高さから、ジフォンは音もなく降り立つ。

 仮面の奥から感じる視線は、確かに吾輩をとらえていた。


「『でもね、平和主義者なんだよ、私は』」


 聞いてあきれる。

 強化された魔法幻兵、その最初の一体を倒した直後から、吾輩に対する『攻撃的な気配』を、ジフォンは明らかに増大させた。

 今は、さらに激しくなっている。


「『だから、見逃してもらえないかな?』」

「仕掛けてきたのは、あなたの方ですよ?」

「『あはは、そうだったね』」


 意味のない会話の後、数秒の静寂せいじゃく


 ジフォンが、左手で得物えものを抜く。

 右腰にさやたずさえていることからして、おそらくはサウスポー。


 戦いが始まる。

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