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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第3章 第1節] ベンデノフ王国>南ベンデノフ城下町
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047. 広く大きな展示室にて(11)

「ミロートさん、すごい!」


 ステレッサの粘土板。

 展示室の出入り口。

 それぞれに対応する、吾輩たち三剣士の基本ポジション。


 これらの位置関係から、アスティニが立てた計画の有用性を分析した彼に、深く感心するクーリア。


「ワガハイくん、今のようなこと、ちゃんとわかってたの?」

「まぁ、そうなんだろうな――くらいはね」


 ジフォンの変装を強く警戒しているアスティニが、その点を見落とすわけがない。

 ミロートさんが語ったことは、おそらくそのまま、彼女の頭の中だと考えて差しつかえないはずだ。


「納得、していただけましたか?」

「ええ、それなら安心ですね」


 猊下げいかは、ミロートさんにほほえんだ。


「しかし、それでも気になります」


 受け入れてくれたような雰囲気だったが、なぜかハウリアドさまは引かない。


「ワガハイさんとアスティニさんは、銅の騎士ブロンズナイト銀の騎士シルバーナイト。では、あなたは?」

「僕は……今日、ワガハイさんと出会っただけの、ただの旅人です」


 重たい口調で、そう伝えたミロートさん。


「きょ、今日!?」


 大きな声を上げたアスティニが、吾輩に視線を向けてくる。


 そうだった。

 彼女には、まだ詳しく説明してなかったな。


「き、聞いてないぞ、ワガハイっ」

「ごめん。エルマーさんが監禁されてたこともあって、ちょっとタイミングがさ……あはは」


 取りつくろうしかない吾輩を横目に、


「まぁ、普通は驚くよな。当然だ」


 閣下は、うんうんとうなずいていた。


「おや、本部から来た銀の騎士シルバーナイトですら知らなかったようですが?」


 追い打ちをかけるようなハウリアドさま。

 

「どういう経緯なのかは存じ上げませんが、状況が状況です。あなたのような方が警備に関与する作戦では、その閣下のコレクションを私が目にするのも、これで最後かもしれませんね」


 言いたいことはわかる。

 ジフォンに対して少数精鋭で挑み、無事勝利するためには、人選と、メンバー間の信頼が重要になってくる。

 その問題点を、正しく指摘していることは間違いない。


 しかしながら、違和感を覚えるほどに攻撃的。

 話の流れに筋は通っているが、それ以上に、ある種の嫌らしさすら感じてしまう。


 ここまでにハウリアドさまから受けた印象は、柔和で、どこかとらえどころのない聖職者――というものだった。


 もちろん、この短時間で、あの方の真なる人格まで見抜けたとは思っていない。


 それを差し引いても、雰囲気の変化が激しいような気がする。


 もしかして、猊下は――。


端的たんてきに申し上げて、私は、あなたが怪しいとにらんでいます、ミロートさん」


 なるほど。

 やっぱりそうか。


「そして、素性のよくわからない人物を、疑うことなく引き入れてしまうなんて、銀の騎士シルバーナイトとしての適格に、はなはだしい問題があると思いますよ、アスティニさん」


 ハウリアドさまは、ミロートさんに加え、本件の責任者とも言えるアスティニにも、攻撃の矢印を向けてきた。


 魔術師としての力量は、先ほど、まぎれ込んでいた魔法幻兵まほうげんぺいを排除したことで証明済み。

 ベンデノフ国教会の長という立場に恥じない優れた魔法のセンスを、猊下は確かに保持していた。

 この鋭い弁舌べんぜつも、彼を今の地位に押し上げた要因だったりするのだろうか?


 他の聖職者の方々は、息を殺すようにして、事の成り行きを見守っている。


「げ、猊下……」


 特にヤヌテさんは、戸惑いの表情を隠せない。

 この場を訪れたときに期待していた展開とは、ずいぶんかけ離れてしまったことだろう。


 オリップさんとエルマーさんも、何も言えないといった様子だった。


「いかかですか、お二人?」


 と、投げかけたハウリアドさま。


 しかし実際のところ、原因は吾輩にある。

 ミロートさんを巻き込んだことも、アスティニが何も知らなかったことも、すべて。


 二人の名誉のためにも、ここは吾輩が弁解を――と思った矢先、


「僕を疑うのは結構ですが、アスティニさんの評価については、かなり的外れですよ、猊下」


 少しも気圧けおされることなく、ミロートさんが口を開いた。


「聞かせていただきます」


 猊下も猊下で、さも当然のように応じた。


「まず、僕がここにいるのは、ワガハイさんの推薦すいせんあってのこと。アスティニさんは、ワガハイさんとの付き合いが深いそうです。つまり彼女は、信頼しているワガハイさんの存在を前提に、僕を警備の人員に加えたわけです」

「把握しました。それで?」


「アスティニさんは、ワガハイさんを強く信頼している。二人は、同じ国境なき騎士団員であり、旧知の仲です。これは当然のことでしょう」

「はい」


「ですが彼女は、ワガハイさんの推薦を、ただ鵜呑うのみにして、無邪気に僕を引き入れたわけではありません。むしろ僕を信頼していないから、アスティニさんは、僕をメンバーに加えたんですよ」

「あはは、それはおもしろいご意見ですね」


 突拍子とっぴょうしもないようなミロートさんの解釈に、ハウリアドさまは軽く笑った。


 アスティニの顔を見る。

 猊下に詰問きつもんされても、特に動揺することなく、まったく平然としていた彼女。

 だけど吾輩にはわかる。

 今の発言には、わずかだが、確かな驚きの反応を示していた。

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