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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第3章 第1節] ベンデノフ王国>南ベンデノフ城下町
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045. 広く大きな展示室にて(9)

「はい、アスティニさん」

「ん、何だ?」


 急に、クーリアが手を上げた。


「アスティニさんの考えは、よーくわかりました」

「そうか」


「でも、私が計画に入っていません――あと、キューイも」

「キュイ」

「…………あなたたちは、待機だ」


「えぇーっ」

「キュイーッ」


 戦力として見られていなかったことに、吾輩のパーティーメンバーが不満をらした。


「あ、遊びじゃないんだ。少数精鋭しょうすうせいえいでやると、そう言っただろう?」

「アスティニさん。私がただ、ワガハイくんにくっついてるだけのハーフエルフだと思ってませんか? 私、ワガハイくんと出会うまでは、一人で旅をしてましたから。自分のことは、自分で守ってきましたから」


 クーリアは引き下がらない。


「ワガハイくんと組んでいるのに、こういうとき、力になれないのは嫌なんです。足手まといにはなりません。だから私も、作戦に加えてください」

「し、しかし……」


 真剣な眼差しに、アスティニの言葉が詰まった。

 

「キュイ、キューイ、キュイキュイ」


 キューイも、何か役に立ちたいんだろう。

 翼を広げながら、懸命けんめいにアピールしている。


「……ワガハイ、あなたから伝えてくれ。相手は彷徨さまよえる大罪人。怪盗ジフォンは無血盗賊だが、危険なことに変わりはな――」

「この流れで、ちょっと相談なんだが」


 やや控えめに、今度はトゥエンティンさまが手を上げた。


「俺も、その……あ、明日の夜、ここでジフォンを待っていても、いいだろうか、なぁーんて?」

「はぁ!?」


 あまりに予想外だったのか、アスティニが大きく口を開ける。


「き、気は確かですか、閣下? 繰り返しますが、これは遊びではないんです。私の計画、その意味は理解されましたよね? 自分は素人だと、全面的に任せると、今、その口でおっしゃったことを、もうお忘れですか?」

「わ、わわ、わかっているさ」


 責め立てるような問いかけに、たじろいでしまう大公。


「いいえ、わかっていません。閣下の身の安全は保障できませんし、何より、ステレッサの粘土板を奪われる可能性が高まります」

「お、俺は、粘土板に近づかない。ずっと部屋のすみにいる。じゃまになるようなことは、決してしない。も、もし、俺が変な動きを見せたなら、すぐ追い出してくれて構わない。だ、だから、どうか頼むよ」


 動揺しながらも、必死で懇願こんがんする大公。

 理由は考えるまでもない。

 大好きな(?)ジフォンを、間近で、一目でも見たい――ということなんだろう。


 ここまで来ると、もはや尊敬してしまう。

 その熱意は、間違いなく本物だった。


「まったく、どうして、こう……」


 つぶやいたアスティニが、困ったように視線を向けてきた。

 吾輩に意見を求めているようだ。


「じゃあ、こういうのはどうだろう?」


 さらに彼女を困らせてしまうかもしれないけど、自分なりの考えを口にしてみる。


「どうしてもと言うなら、閣下には、この部屋を壁沿いに歩き続けてもらいます」

「お、おお。よくわからないが、それでいいなら、歩くくらい、朝日が昇るまでやってやるぞ」


 チャンスとばかりに、トゥエンティンさまが食いついてくる。

 明日の夜、この場にいられるなら、どんなことでも飲んでくれそうな勢いだ。


「クーリアには、閣下に付きいながら、その警護をしてもらいたい。もしもの時、閣下を守れるようにね」

「てことは、私もトゥエンティンさまと同じように、部屋を壁沿いに歩き回るってこと?」

「うん」

「やる! やるよ、それ」


 クーリアも力強く受け入れた。


「キューイには、少し高い位置から、この部屋全体の監視を頼みたいな。異変を感じたら、すぐに知らせてほしい」

「キュイ!」


 まるで敬礼をするように、キューイが腕を上げた。


「お、おい、ワガハイ。私は、あくまで――」

「アスティニの立てた作戦は、間違いなくジフォンに有効だと思う」


 反論したそうな彼女を制して、吾輩は話を進める。


「ターゲットと出入り口――重要な部分は、確かに完璧に押さえられる配置だ。だけど、少し局所的じゃないかな? 全体を把握できるような視点がないんだ」


 吾輩とアスティニは、ステレッサの粘土板。

 ミロートさんは出入り口。

 絶対に外せない部分だからこそ、どうしても『それ』に集中せざるを得ない。

 もちろん周囲にも気を配るが、万全な対応をするのは難しいかもしれない。

 

 そこで、クーリアとキューイの登場だ。


 この展示室は、非常に大きな空間。

 クーリアには歩き回りながら、キューイには高いところから、広く全体に注意を向けてもらう。

 そうすれば、吾輩たちだけでは反応が遅れてしまうかもしれない出来事にも、素早く対処できるはずだ。


 閣下のファン魂(?)には、正直あきれてしまうけど、強引に排除して想定外の行動をされるくらいなら、この場にいてもらった方がいい。

 クーリアがとなりにいれば、最低限の身の安全は確保できるだろうし、問題ないはずだ。


「……言いたいことはわかる」


 さすがはアスティニ。

 吾輩の意図は、もう伝わったみたいだ。


「しかしワガハイ、この場にいる者の数を増やすのは、やはり危険だ」


 それでも彼女は、人員を増やすことのリスクを主張した。


「変装、だよね?」

「ああ」


「考えてみたんだ。どうしてジフォンは、エルマーさんになりすましていたのかを」

「当然、それは下見のためだろう。城の関係者に変装すれば、自由に周囲を探ることができる」


「じゃあ、なぜジフォンは、エルマーさんに化けていたことを、吾輩たちに明かしてしまったんだろう?」

「あなたともあろう騎士が、らしくないぞ、ワガハイ。私たちは偶然、あの場に監禁されていた彼を見つけ、その結果、ジフォンが変装していたことを知ったんだ。やつにしてみれば、あれは望まないハプニングだったはず」


「いや、違うよ、アスティニ」

「……違う?」


「エルマーさんが監禁されていたのは、裏門近くの納屋だ。あそこには、ここで働く庭師の皆さんが使う農具などが保管されていた」

「そうだったな」


「確かに、監禁されたエルマーさんを、今夜の時点で発見したことは偶然かもしれない。だけど、明日の朝になれば?」

「そうか! 庭師の者が、納屋を訪れる可能性が高い」


「うん。今夜のことがなくても、吾輩たちは明日の朝、エルマーさんが偽者だったと知るはずなんだ」

「つまりジフォンは、なりすましの事実、その表面化を、あらかじめ計画の中に入れていたと……」


 理解したらしいアスティニが、小さく息を吐いた。


「では、どうしてジフォンは、変装がばれてしまうようなことを?」


 当然の疑問に、吾輩なりの答えを伝える。


「あくまで想像だけど、こちらを疑心暗鬼にさせるためじゃないかな?」


 なりすましの事実を吾輩たちが知れば、誰もが仲間を信用できなくなる。

 右も左も怪しく思えてくる。

 仕方のないことだ。


「そうなれば、君の立てた作戦のように、警備に当てる数を少なくしたくなる。でも、やっぱりジフォンにしてみれば、ターゲットを守る者、自分を捕まえにくる相手が多ければ多いほど厄介なはずなんだ」

「だとすればジフォンは、警備の数を減らすために、あえて変装が見抜かれるようなことを?」


「おそらく」

「……私は、やつの策略に乗せられたというわけか」


 自分を責めるようなアスティニ。


 だけど、それは違う。


「バランスの問題だよ、アスティニ。対ジフォンには少数精鋭、これは間違ってないと思う。大事なのは、その『少数』の中で、最大の人員を最前線に置くことなんじゃないかな?」


 固めるべきところを固め、その上で全体を把握する。

 閣下はとにかくとしても、クーリアとキューイを加えれば、現状における『最大の少数』になるはずだ。


「……わかった。ワガハイの案を受け入れよう」


 アスティニの言葉に、クーリア、キューイ、大公の表情が明るくなった。


「ありがとう、アスティニ。銀の騎士シルバーナイトとしては難しい判断を、冷静に下してくれてたこと、本当に感謝するよ」

「いや、礼を言うのは私の方だ、ワガハイ。あなたが、ここにいてくれてよかった。私だけでは、やはり見えないものがある」


 この場において、吾輩たちはチームだ。

 もしも足りない部分があるのなら、互いにおぎない合えばいい。


「大丈夫。ジフォンに、吾輩たちは負けないよ」

「ああ、その通りだ」


 アスティニは、ほほえみながらうなずいた。


 すると、


「こ、困りますよ、猊下!?」


 慌てたような声が、外から聞こえてきた。

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