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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第3章 第1節] ベンデノフ王国>南ベンデノフ城下町
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028. 闇に融け込む冷たい気配(前編)

 クーリアとアスティニ。

 騒がしい二人を引き連れて、何とか南ベンデノフ城に到着。


 エルマーさんとの約束通り、吾輩たちは裏の扉へ回る。


「アスティニさんは、正門から入ればいいじゃないですか。騎士団本部から派遣されてきた銀の騎士シルバーナイトなんですから」

「ワガハイがこちらから入るなら、私もそうする。目的は同じだ。あえて別れる必要なんてない」

「あえての裏口……うーん、怪しいですね。もしかして、あなたが怪盗ジフォンなんじゃないですか?」

「そんなわけあるかっ!!」


 とにかくクーリアは、アスティニを追いやりたいらしい。


 だけど、城の長である大公と面会しなくてはならないのは、吾輩の旧友も変わらない。

 ここまでの経緯はどうあれ、今は対ジフォンにおける仲間だ。

 何だかんだ合流できたのだから、いっしょにいる方がいいだろう。


「この『アスティニ』は、間違いなく、吾輩の大切な友人である女性――本物の彼女だよ。保証する」

「聞いたか、クーリア? 心でつながった強い絆があれば、真実は見抜けてしまうものなんだ」

「む、むぅ……」

くだんの大盗賊も、私とワガハイの間をたばかることはできない」


 口を尖らせたクーリアに、胸を張るアスティニ。


 いくら変装が得意なジフォンでも、吾輩の知人になりすましていれば、十分に見抜くことができるだろう。

 信頼している旧友なら、なおさらだ。


「まぁ、これでクーリアも理解しただろう。私とワガハイの関係の深さをな」

「はいはい、そうですね、わかりましたよ。ワガハイくんとアスティニさんの『友人』としての関係の深さが」

「そ、そこを強調するなっ」

「よかったですね、大切な『友人』のアスティニさん♪」

「…………」


 今度はアスティニが、落ち込んだように黙ってしまう。


 二人の情緒が、よくわからない。


「で、では、中への合図をしますよ」


 へこみモードから回復したミロートさんが、それとなく呼びかける。


 吾輩は、例の金貨を準備。

 入るときに、これを示す約束になっているからだ。


 裏口と言えど、そこは貴族の住まう城の敷地。

 ノックのための金具さえ、豪華に装飾されていた。


 ミロートさんが、扉の金属部分を叩き合わせる。

 かんっ――という音が、二回響いた。


 反応がない。


 もう一度、ミロートさんが試みる。

 強めに二回。

 しかし、やはりなしつぶてだった。


 予定では、ここでエルマーさんが迎え入れてくれるはずなんだけど。


「どうした?」


 事情を知らないアスティニが聞いてきた。


「この奥で、侍従官の方が待機している段取りになっていたんだ。城の仕事で、まだ来てないのかな?」


 彼女に答えつつ、吾輩は前進。

 扉に近づいていく。


「おかしいですね……あれ?」


 ノックを続けていたミロートさんが、不意に固まった。


「……施錠せじょう、されていませんよ」


 確かに、二枚扉の一方がズレている。

 つまり、内側でじょうの役割をしているはずの横木よこぎが、今は外されているということだ。

 このまま押し込めば、敷地内に入れてしまう。


「どうします? 外に出た僕たちは、一応チェックを受けるべきですが」


 ミロートさんの言う通り。


 現状、変装が得意な怪盗ジフォン対策として、これは必須。

 渡されたトゥエンティン大公の金貨が、その証明手段だった。


「そういうことなら、正門から行けばいい。さすがに向こうなら、憲兵がいるだろう」


 アスティニが提案した。


「このまま入っても構わないが、おかしな勘繰かんぐりをされては困る。不毛な混乱にもつながるからな」


 ついさっき、クーリアに疑われたから――というわけではないだろう。

 銀の騎士シルバーナイトとしての、誠実な態度を示していた。


 賛成。

 吾輩は同意を伝える。


 他のみんなも、それぞれにうなずいていた。


「それにしても、ずいぶん不用心だな。これは、大公に忠告を――」


 アスティニの嘆きは、奇妙な音によってかき消された。


 何かが暴れているような騒音。

 加えて、うめいているような男性の声。

 どちらも、なぜかくぐもっていて、はっきりはしていない。

 何かにかこわれていて、その中から伝わってくるような――。


 誰からでもない。

 吾輩、アスティニ、ミロートさんは、突き動かされるように扉を開いていた。

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