表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第3章 第1節] ベンデノフ王国>南ベンデノフ城下町
243/278

027. 穏やかじゃない帰り道

 若干のいざこざはあったものの、一応はなごやか(?)に夕食が終了。


 エルマーさんから渡されていた金貨のおかげで、店から支払いを求められることもなかった。


 もう一度、城を訪ねてくるように――トゥエンティン大公からは、そう指示を受けている。

 来客との予定も、さすがに済んでいるだろう。


 吾輩を探しに町へ出たというアスティニとも、意図せず合流できた。


 ということで、彼女を含めて現在は五人。

 まだまだにぎやかな夜の通りを、南ベンデノフ城へ向かって歩いていた。


「お腹いっぱぁーい」

「キュイ」


 満足感を口にする、クーリアとキューイ。


「ふぅ、久しぶりに飲んでしまった」

「僕もです」


 アスティニとミロートさんは、かすかに顔を赤らめている。

 こちらも、楽しい時間を過ごせたみたいだ。


「……明日は大変なのに、ずいぶん進んでましたよね、お酒」


 よせばいいのにクーリアが、それとなく攻撃を始める。


 あーあ、せっかく平和な空気だったのに。


「酔いが残らなければいいですけどぉ」


 暗にチクリと刺しているのが、吾輩にも伝わってきた。


 一方のアスティニ。

 そちらがその気なら受けて立つ――みたいな雰囲気はあるけれど、意外にも言動は冷静だ。


「ふっ、酒に飲まれるなど骨頂こっちょう。たしなみはするが、おぼれはしない。私は、己の適量を心得ているんだ」


 彼女は、自分を律することのできる女性。

 しっかりと考えているんだろう。


 下戸の吾輩から見た限り、その酒量は常識の範囲内。


 この町に滞在しているのは、あくまで任務あってのこと。


 銀の騎士シルバーナイトとしての責任を、忘れてはいないようだ。


「適度な飲酒は、大人の教養とさえ言える。まぁ、あなたのような小娘には、当分わからないだろうがな」


 年上としての余裕だろうか。

 食堂内のように、感情的な態度に出ることはなかった。


「く、くぅ……」


 現に乱れてはいないアスティニの様子に、クーリアは次が続かない。


「ふふんっ♪」


 吾輩の旧友は上機嫌だ。

 これはきっと、飲酒による心地よさが理由じゃないだろう。


 よかった、騒ぎにならなくて。


 だけどこれが、変なところに飛び火する。


「ぼ、僕なんかが、ワイン飲んじゃって、すみません……」


 クーリアの言葉、ミロートさんに刺さっちゃった。


「い、いや、僕も酔ってはいないつもりなんですけど、でも、確かに明日のことを考えれば、やっぱり飲まない方がよかったですよね……」


 ミロートさん、ちょっと繊細みたいだから、気をつけてよね、クーリア。


「大公のご厚意に甘え、おいしいものをいただいたあげく、あろうことか、僕はお酒まで……す、すみません」

「大丈夫ですよ、ミロートさん。大公も、そのつもりで吾輩たちを送り出したんですから」


 そうでないなら、自分の肖像画が彫られた金貨を、エルマーさん経由で預けてくれるはずがない。

 その辺り、あの方は太っ腹のようだし。


「そうですよ。何なら、もっと値の張るレストランで食事したってよかったんですから。私たち、良心的だと思いますよ」


 クーリアが、ミロートさんをフォロー。

 そもそも、君のせいでへこんじゃってたんだよ、彼は。


「でも、人におごってもらう食事は、何でもうれしいですよね――無料タダは正義です」


 すごい名言(?)が生まれた。

 吾輩の相棒は、満面の笑みだ。


「とにかく、トゥエンティンさまには感謝ですよ」

「まったく、君らしいね、クーリア」


「……何よ、ワガハイくん。私のこと、がめついとでも言いたいの?」

「違うよ、尊敬してるのさ。長生きするよ、君は」


「何か、ほめれたような気がしない」

「本当さ。君がいなければ、吾輩が旅を続けることは、今より難しかっただろうからね」


 贅沢ぜいたくはしなくとも、必要なものは必要だ。

 クーリアの金銭感覚には、やっぱり助けられていると思う。


「……ワガハイは、お金に困っているのか?」


 吾輩たちの会話で、それとなく察したんだろう。

 アスティニが尋ねてきた。


「うーん、基本的には貧乏旅だからね。大公のご厚意がなければ、今日のような食事はできなかったと思うよ」

「か、かわいそうに……クーリアのせいで苦労しているんだな」


「いや、別に彼女のせいっていうわけじゃな――」

「何ですか、アスティニさん? 私が悪いみたいに」

「ふんっ。どうせあなたが、上手いことワガハイのお金を巻き上げているんだろう? そうに違いない」


「勝手なこと言わないでくださいぃーっ。無一文のワガハイくんを、私がやしなってあげてるんですぅーっ」

「や、養って……ほ、本当なのか、ワガハイっ!?」

「まぁ、そういうことになるのかな」


 すっからかんなのは事実だしね。


「わ、ワガハイがお金に無頓着むとんちゃくだということに付け込んで、あなたは……盗賊だ、あなたは盗賊のような女だ、クーリアっ!!」

「はい、そうですけど?」


「……な、何?」

「だから、私は盗賊です。ワガハイくんと出会う前から、ずぅーっと」


 その言葉に、きょとんとしてしまったアスティニが、目で確認してくる。

 どうなんだ、ワガハイ――と。


 本人が自称しているし、それを隠している様子もない。

 それどころか出会った当初、彼女は自分が盗賊であることに、強い誇りを持っていたような部分もある。

 だから吾輩は、無言のままうなずいた。


 すると、


「わ、ワガハイ、今すぐパーティーを解消しろっ!! 誠実な国境なき騎士団員ともあろうあなたが、盗賊のハーフエルフなんかといっしょにいてはいけないっ!!」


 クーリアの素性を知ったアスティニが、ぐいっと吾輩に詰め寄ってくる。


「安心しろ、ワガハイ。あなたはもちろんのこと、その幼いドラゴンのキューイも、私が面倒をみてやる。蓄えは、それなりにあるんだ。い、いい、一生をかけて幸せにしてやるぞっ!!」

「……うん?」


 ありがたいけど、話が大きくなってるなぁ。


「ちょっとアスティニさん、お金で釣るなんて恥ずかしくないんですか!?」

「お金で釣っているのはクーリアの方だろうっ」


「私は、無一文になったワガハイくんを、結果的に養うことになっただけですぅ。そういうの関係なく、ワガハイくんは私を受け入れてくれましたぁ」

「盗賊のお金なんかで、ワガハイを生活させるわけにはいかないっ」


「ワガハイくんがやめろって言ったから、盗賊はもうしてません♪ どうぞ、ご安心を」

「そういう問題ではないっ!!」

「そういう問題だったじゃないですかっ!!」


 おだやかな帰路になりそうだったのに、また始まっちゃったよ。


「よし、ワガハイ。とりあえず私が、当面の旅費を工面しよう。そうすれば、もう不本意なパーティーを組む必要はない」

「ダメだよ、ワガハイくん。こういう女の人は、男の人の役に立てたと思って、すぐにつけあがっちゃうんだから」


「うるさいぞ、盗賊ハーフエルフっ!!」

「そのままお返ししますよ、ストーカー騎士っ!!」


 夜の通りに、


「……はぁ」


 吾輩のため息が、力なく消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ