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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第3章 第1節] ベンデノフ王国>南ベンデノフ城下町
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025. 大切な旧友との再会(4)

「ワガハイくん、警戒した方がいいよ。こじらせちゃってる自称『大人女子』は、すごくしつこいからね。気に入られたら、一生追いかけ回されちゃうよ」


 耳打ちのポーズをしながら、吾輩に伝えてくるクーリア。

 その『こじらせ』とか『しつこい』とか『追いかけ回されちゃう』とかが、いったい何に向けられた言葉なのかはわからないけれど、聞かれちゃまずい話なら、しっかり小声でしゃべってよね。

 たぶん全部丸聞こえだよ、この周囲にも。


「な、なな、何を言っているんだ、あなたは!?」


 ほら、アスティニにも届いてた。


「わ、私は別に、そ、そそ、そういうんじゃないぞ!? あ、あくまで、ワガハイのことは、一人の騎士として尊敬しているだけで……あ、あなたが想像しているようなアレなアレじゃないからなっ!!」

「『アレなアレ』って何ですかぁ? 私、全然わかりませんけどぉ」

「そ、それはその、つまり……アレがアレしてごにょごにょ――」


 慌てていると思ったら、急にもじもじし始めたアスティニ。


 対してクーリアは、言葉とは裏腹に、すべてをわかっているような態度だった。


「もしかしたら今回の件、ワガハイくんに会うための口実なんじゃないんですかぁ? パジーロの話を耳にしていたのなら、隣国のベンデノフに、ワガハイくんが来るかもしれないことは想像できますしぃ」

「そうだったの、アスティニ?」


 確かに、パジーロでの出来事を知っていたのなら、吾輩がルドマ大陸にいることは推測できる。

 ベンデノフ王国南部の玄関口は、パジーロ城下町に最も近い、この南ベンデノフ城下町。

 パジーロを出た旅人が、次の目的地として、この町を訪れる可能性は高い。

 優秀なアスティニなら、簡単に予想できただろう。


「よかったですね、大公のお宝が狙われて。それは、意地でも派遣されたいですよねぇ。一人でこの国に来たいですよねぇ。怪盗ジフォンさまさまって感じですよねぇ」

「ち、違うっ!? い、いや、だから、私は本当に、国境なき騎士団員としての職務に燃えているんだ。し、私欲などない。で、でも、たまたま、銅の騎士ブロンズナイトのゴーストが、パジーロの騒動を解決したという情報を聞いて……み、南ベンデノフの大公から、依頼があることも耳にして」


 アスティニの声、だんだん小さくなっちゃってる。


「ちょ、ちょっと立候補したら、すんなり任せてもらえて……だから、もしかしたら会えるかなってだけで、別に、そ、そういうんじゃないからぁ!?」

「う、うわぁ……かまをかけてみただけなのに、本当だったんだ」


 細かい点を説明してくれたアスティニに、クーリアは冷たい目を向けていた。


「ワガハイくん、アスティニさんはガチだよ。こういうの、ちまたでは『ストーカー』って言うんだよ。危ないよ危ないよ、これを機に関係を見直した方がいいよ」

「す、ストーカーなんかじゃないっ!! ゆ、ゆゆ、友人と会えるのを期待して、はるばる国境を越えてくることの、どこがストーカーだっ!!」


「ストーカーはね、みんな、ああ言うんだよ。聞いたでしょ、ワガハイくん? 平気で、はるばる国境を越えちゃってるんだよ? 怖いね、怖いよね」

「無視するな、私の話を聞けっ!!」


「だいたいさ、私たちが食事しているところに、たまたまいるなんて偶然、あると思う? ぜったい、ここまで来る間に見つかっちゃって、こっそりつけてきたんだよ」

「そ、そそ、それは……」


「百歩譲って、そこはいいよ。ワガハイくんとは顔見知りなんだし。だけどアスティニさん、すぐに声をかけてこないで、向こうのテーブルに一人でいたんだよ。しかも、ごていねいにフードまで被って」

「だ、だから、タイミングが……」


「さっきの騒ぎのせいで、何かうやむやになっちゃったけど、考えてみれば、すごく不自然じゃない?」

「うぅぅ、あの男のおかげで、いい感じに話しかけられたと思ったのに……」


「意外と、美人で優秀な女性のほうが、現実を受け入れられなくて、ああなっちゃうんだよ……かわいそうに」

「そう、私はかわいそう――じゃないっ!!」


「何ですか!? 本当のことですけど」

「何が本当のことだっ!!」


「ワガハイくんを追いかけてベンデノフに来て、通りから食堂までついてきて、離れた席からこっそり観察してたあげく、ここぞとばかりに登場したことです」

「…………」


「そうですよね。否定できませんよね、おばさん――おばさん、おばさん、おばさんっ!!」


 クーリア。

 いくら吾輩の友人に対してだとはいえ、初対面の相手に『おばさん』を連呼するのはよくないと思うよ。


「い、言わせておけば……わかった、いいだろう。どうやらその首、この場で落とされたいようだなっ!!」


 アスティニ。

 国境なき騎士団員として、さすがにその発言は過激すぎない?


「キュ、キュイ……」


 テーブルを挟んでにらみ合う女性二人に、キューイは体を震わせていた。


 ミロートさんは、作られたような笑顔のまま、その気配を消している。

 嵐が去るのを、おとなしく待っているんだろう。

 もう、会話に入ってくるつもりはないみたいだ。


 どうしよう。

 困ったな。

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