025. 大切な旧友との再会(4)
「ワガハイくん、警戒した方がいいよ。こじらせちゃってる自称『大人女子』は、すごくしつこいからね。気に入られたら、一生追いかけ回されちゃうよ」
耳打ちのポーズをしながら、吾輩に伝えてくるクーリア。
その『こじらせ』とか『しつこい』とか『追いかけ回されちゃう』とかが、いったい何に向けられた言葉なのかはわからないけれど、聞かれちゃまずい話なら、しっかり小声でしゃべってよね。
たぶん全部丸聞こえだよ、この周囲にも。
「な、なな、何を言っているんだ、あなたは!?」
ほら、アスティニにも届いてた。
「わ、私は別に、そ、そそ、そういうんじゃないぞ!? あ、あくまで、ワガハイのことは、一人の騎士として尊敬しているだけで……あ、あなたが想像しているようなアレなアレじゃないからなっ!!」
「『アレなアレ』って何ですかぁ? 私、全然わかりませんけどぉ」
「そ、それはその、つまり……アレがアレしてごにょごにょ――」
慌てていると思ったら、急にもじもじし始めたアスティニ。
対してクーリアは、言葉とは裏腹に、すべてをわかっているような態度だった。
「もしかしたら今回の件、ワガハイくんに会うための口実なんじゃないんですかぁ? パジーロの話を耳にしていたのなら、隣国のベンデノフに、ワガハイくんが来るかもしれないことは想像できますしぃ」
「そうだったの、アスティニ?」
確かに、パジーロでの出来事を知っていたのなら、吾輩がルドマ大陸にいることは推測できる。
ベンデノフ王国南部の玄関口は、パジーロ城下町に最も近い、この南ベンデノフ城下町。
パジーロを出た旅人が、次の目的地として、この町を訪れる可能性は高い。
優秀なアスティニなら、簡単に予想できただろう。
「よかったですね、大公のお宝が狙われて。それは、意地でも派遣されたいですよねぇ。一人でこの国に来たいですよねぇ。怪盗ジフォンさまさまって感じですよねぇ」
「ち、違うっ!? い、いや、だから、私は本当に、国境なき騎士団員としての職務に燃えているんだ。し、私欲などない。で、でも、たまたま、銅の騎士のゴーストが、パジーロの騒動を解決したという情報を聞いて……み、南ベンデノフの大公から、依頼があることも耳にして」
アスティニの声、だんだん小さくなっちゃってる。
「ちょ、ちょっと立候補したら、すんなり任せてもらえて……だから、もしかしたら会えるかなってだけで、別に、そ、そういうんじゃないからぁ!?」
「う、うわぁ……かまをかけてみただけなのに、本当だったんだ」
細かい点を説明してくれたアスティニに、クーリアは冷たい目を向けていた。
「ワガハイくん、アスティニさんはガチだよ。こういうの、巷では『ストーカー』って言うんだよ。危ないよ危ないよ、これを機に関係を見直した方がいいよ」
「す、ストーカーなんかじゃないっ!! ゆ、ゆゆ、友人と会えるのを期待して、はるばる国境を越えてくることの、どこがストーカーだっ!!」
「ストーカーはね、みんな、ああ言うんだよ。聞いたでしょ、ワガハイくん? 平気で、はるばる国境を越えちゃってるんだよ? 怖いね、怖いよね」
「無視するな、私の話を聞けっ!!」
「だいたいさ、私たちが食事しているところに、たまたまいるなんて偶然、あると思う? ぜったい、ここまで来る間に見つかっちゃって、こっそりつけてきたんだよ」
「そ、そそ、それは……」
「百歩譲って、そこはいいよ。ワガハイくんとは顔見知りなんだし。だけどアスティニさん、すぐに声をかけてこないで、向こうのテーブルに一人でいたんだよ。しかも、ごていねいにフードまで被って」
「だ、だから、タイミングが……」
「さっきの騒ぎのせいで、何かうやむやになっちゃったけど、考えてみれば、すごく不自然じゃない?」
「うぅぅ、あの男のおかげで、いい感じに話しかけられたと思ったのに……」
「意外と、美人で優秀な女性の方が、現実を受け入れられなくて、ああなっちゃうんだよ……かわいそうに」
「そう、私はかわいそう――じゃないっ!!」
「何ですか!? 本当のことですけど」
「何が本当のことだっ!!」
「ワガハイくんを追いかけてベンデノフに来て、通りから食堂までついてきて、離れた席からこっそり観察してたあげく、ここぞとばかりに登場したことです」
「…………」
「そうですよね。否定できませんよね、おばさん――おばさん、おばさん、おばさんっ!!」
クーリア。
いくら吾輩の友人に対してだとはいえ、初対面の相手に『おばさん』を連呼するのはよくないと思うよ。
「い、言わせておけば……わかった、いいだろう。どうやらその首、この場で落とされたいようだなっ!!」
アスティニ。
国境なき騎士団員として、さすがにその発言は過激すぎない?
「キュ、キュイ……」
テーブルを挟んでにらみ合う女性二人に、キューイは体を震わせていた。
ミロートさんは、作られたような笑顔のまま、その気配を消している。
嵐が去るのを、おとなしく待っているんだろう。
もう、会話に入ってくるつもりはないみたいだ。
どうしよう。
困ったな。




