024. 大切な旧友との再会(3)
「(ワガハイさん、何だか空気が悪いですよ)」
心配そうに、ミロートさんがささやいてくる。
「(ワガハイさんが、上手く話を回さないと)」
原因は不明だけど、確かに彼の言う通り。
このメンバーでなら、吾輩が場を和ませないとね。
「クーリアは、キューイと同じく、吾輩の旅仲間なんだ。彼女の言葉を借りるなら、大切な相棒だね」
「あ、ああ、相棒っ!?」
吾輩のパーティーを知ってもらうべく、アスティニに伝えると、
「そ、それは本当なのか、ワガハイっ!?」
驚いたように、テーブルを叩いて立ち上がる。
「あれ、聞こえてなかった?」
キューイが仲間ってことは、さっき言ったんだけどな。
国境なき騎士団員として、各国を回ることも多いだろう彼女。
けれど白い幼竜というのは、さすがにめずらしいのかもしれない。
「まだ子供だけどね、なかなか賢いんだよ、彼は。吾輩にも懐いてくれていて、すごくかわいいところがあ――」
「そのドラゴンのことではないっ!! 私が聞いているのは……く、クーリアのことだ」
「クーリアの?」
「あなたは、銅の騎士の道を選び……そして、わ、私の誘いを断ったではないか!? 本部に席を置かず、一人で世界を旅する――と」
「うん、そうだったね。国境なき騎士団の理念には共感しているつもりだけど、吾輩に組織は似合わないから」
「わ、私は、こうも言ったぞ――あなたが望むなら、私は本部に残らず、ワガハイと二人で……せ、世界を歩いても構わないと」
「あはは、そんなこともあったね」
アスティニは見習いの時代から、高い志を持っていた。
それを実現できるだけの能力も誠実さも、彼女にはしっかり備わっていたんだ。
吾輩は、無責任な自由人。
国境なき騎士団の門をくぐったのも、与えられた小さなきっかけと、純粋な好奇心に従っただけの話。
本部に関わる気なんて、最初から微塵もなかった。
そんな吾輩に、アスティニは同行すると言ってくれたんだ。
共に成長してきた同期の武人たちが、それぞれの道を進み始めようとした、とある日だったと記憶している。
「孤独を愛する――いや、孤高を貫くワガハイの生き方を、私は尊重して……み、身を引いた。けれどあなたは知らぬ間に、じょ、女性を連れているではないかっ!?」
にぎわっている店内で、いきなり『女性を連れている』だなんて、人聞きが悪いよ、アスティニ。
「君は間違いなく、騎士団の本部に残るべきダークエルフだと思ったんだよ。吾輩のあてのない旅に付き合わせるだなんて、さすがに申し訳なくてね。だから、アスティニの誘いは断った――それだけのことだよ」
「だ、だからって、どうして急に……そ、その女性を?」
「それを細かく話すと、ちょっと長くなっちゃうなぁ」
クーリアと組んでから、ベンデノフで三カ国目。
振り返れば、いろいろなことがあった。
そのすべてを、短く、わかりやすく伝えるのは難しい。
だけど――。
「彼女がいたから、吾輩はここにいるんだと思う。いっしょにいて、何だか楽しいんだ。まぁ、パーティーを組むことになった経緯に関しては、かなり強引な部分があったんだけどね」
「……そ、そうか」
漠然とした説明になっちゃったけど、納得してくれたのかな?
アスティニはゆっくりと、席に腰を下ろした。
「(わ、私は、あなたが望むなら、今だって、すぐにでも……)」
聞き取れないような声で、彼女が何かをつぶやいたとたん、
「いやぁ、そういうことなんですよねぇ、これが♪」
ここまで、ずっと無愛想だったクーリアが、いきなり表情を明るくする。
「私、ワガハイくんの相棒なんですよ、あ・い・ぼ・う。しかも『いっしょにいて』『楽しい』んですって――わかります? うふっ♪」
「キュ、キュイ……」
突然の著しい態度の変化に、またキューイは引いていた。
「いろいろありますよね、うん。でも、気を落とさないでください。アスティニさん美人だし、胸が大きいし、国境なき騎士団員だし――まぁ、とにかく仕事に生きてください。応援しますから、あははははっ」
言葉では誉めているけど、妙に刺々しいな、クーリア。
「な、何なんだ、あなたは!? 不機嫌そうにしていたかと思えば、急に私をバカにしたような言動……見たところ、十代そこそこだろう? 年上に対する礼儀がなっていないんじゃないのか!?」
ほら、アスティニが少しカチンと来てるよ。
「十七ですよ、私。ピチピチの十七歳♪」
「十七なら、しっかり年上を敬うことを覚えるべきだ。私は、三十四なのだからな」
「さ、三十四……ぷっ、おばさんじゃん。超おばさんじゃん。私よりちょっとだけ大人っぽいから、行ってても二十代前半かなって感じだったけど、まさか三十四だなんて」
「んなっ!?」
クーリアの反応が予想外だったのか、アスティニが驚愕の表情に。
「わ、私はダークエルフなのだぞっ。エルフは長寿の種族。若いままの外見を保てる個体が一般的なため、その女盛りは百歳を越えてからと言われているんだ。地元に帰れば私など、親戚一同から幼子扱いだぞ!? あなただって、エルフの血を引いているのなら、それくらい知っているはずだっ!!」
「私、ハーフエルフですから。半分は人間なんで、おばさんの言い訳とか、ちょっとわからないですぅ」
「ぐ、ぐぬぬぬぬっ」
純粋なエルフの加齢と、それに伴う見た目の変化は、年齢判断の基準となりやすい人間のそれと、大きく異なっている。
アスティニの言うように、ダークエルフの三十代なんて、やっと成人として扱われるかどうか――といったレベルだ。
人間との混血児であるクーリアの年齢を補正して比較したとすれば、二人の実質的年齢は、たいして変わらなくなるだろう。
いや。
むしろアスティニの方が、クーリアより若くなる場合すらあり得る。
だけど数字の上では、17と34はダブルスコア。
母娘の関係だとしても、おかしいと言い切ることはできない。
クーリアからすれば、すごく先輩に感じてしまうのも当然だったり?
とはいえアスティニも、まさか『おばさん』呼ばわりされるとは考えていなかったはずだし……。
うーん。
年齢って難しいね。




