022. 大切な旧友との再会(1)
「ここで君に会えるなんて、想像もしていなかったよ。まぁ、たまたまと言うには、ちょっと事情が込み入っているけどね」
「あ、ああ……そ、そうだな。とはいえ、こうなったのは、ぐ、偶然が重なった結果に間違いない」
酔った男性は、駆けつけた憲兵に引き渡された。
落ち着きを取り戻した店内。
吾輩は、再会した友人とテーブルを共にしていた。
「探していたんだよね、吾輩を?」
「えっ、あっ、なっ!?」
「城には、もう行っているんだ。大公から、正式に依頼も受けている」
「(……そ、そちらのことか)」
「ん?」
「そ、そそ、そうだ、その通り」
こうやって話すのは、ちょっと久しぶり。
だからだろうか。
彼女の様子が、なぜかぎこちない気がする。
あの暴漢に見せた、強気で凛とした態度はどこへ?
「どうかした?」
「い、いや、何でもない」
吾輩に答えて、彼女は話を進める。
「私の姿を見て、すぐに察してくれたんだな。理解が早くて助かる」
「派遣された騎士の名前までは聞けなかったんだ。でも、君なら心配いらないね。吾輩も心強いよ」
「それは私の方だ。報告を耳にして、すぐにワガハイだと思った。私の予想は、見事に的中したというわけだ」
「予想?」
「い、いや、単なる独り言だ」
コホンと、彼女が咳払い。
気を取り直した様子で、あらためて口を開く。
「ここで出会えたことは、本当にありがたい。あなたが力を貸してくれれば、成功は約束されたようなものだからな」
「大げさだよ。そこまで言われると、さすがにプレッシャーになる」
「すまない。しかし、私はうれしいんだ。こうやって、あなたと任務に当たれることが――何より、た、大切な友人と再会できたことが」
「こちらこそ。吾輩にそこまで言ってくれるのは、たぶん君くらいさ。ありがとう、本当に」
恥ずかしさもある。
だけど、それ以上に誇らしい。
彼女からのまっすぐな友情には、いつも胸が熱くなるんだ。
「しかし、さすがだね。称号を得て間もないのに、彷徨える大罪人の案件を単独で任されるなんて。優秀である証拠だよ」
「え、あ、まぁ……」
「もしかして、他にも誰か派遣されてた?」
「い、いや、私だけだ」
だとしたら、やっぱりすごい。
彼女の高い能力を、本部も買っているということだ。
「ひ、一人で十分だと、い、いい、言ってやったんだ」
「そうなんだ。でも、めずらしいね。君が、そこまで大きく出るなんて」
「た、たまには、そんなときもある」
自らアピールしたりせず、求められたことを、淡々と正確にこなす――それが、彼女のイメージ。
わざわざ声を上げなくても、その立ち振る舞いゆえに、自然と実力が伝わってしまうから。
なのに今回は、どうも積極的だ。
怪盗ジフォンに、何か思い入れでも?
「そ、それにしても、聞いたぞ、パジーロの件。銅の騎士の旅人ゴーストが、まるで英雄のごとき活躍をした――との話は、私のところにまで届いている。あなただろう、その『パジーロの英雄』は?」
正直、驚いた。
もう、そんなうわさが流れているのか。
ことさら隠すつもりはない。
でも、望まない広がり方をされては困る。
人の口に戸は立てられない。
悩ましいところだ。
「吾輩は、ちょっと手を貸しただけ。大したことはしてないよ」
できるだけ温度を低く、何でもないように返した。
やはり、あなただったんだな――と、確認するように、彼女はうなずいた。
「ワガハイは、そうやっていつも謙遜する。それは間違いなく美徳だが、あなたはもう少し、自分を高く評価した方がいい」
「君が認めてくれるだけで十分。吾輩くらいの騎士団員は、掃いて捨てるほどいるんだから」
「何を言っているんだ、ワガハイ。あなたがその気なら、私はいつでも――」
「あのっ!!」
吾輩と彼女の会話を止める、女性の声。
同じテーブルを囲んでいる、険しい表情のクーリアだ。
「盛り上がっているところ悪いんですけどね、説明してもらえませんか、お二人のご関係?」
ていねいな言葉遣いだけど、こちらに向けられた視線は鋭い。
いまさら敬語なんて、吾輩には逆に威圧的だった。
予想外の再会で、つい周りが見えなくなっていた。
反省。
「紹介するよ、クーリア――彼女は、ダークエルフのアスティニ。国境なき騎士団に所属している、吾輩の友人なんだ」
褐色の肌に、輝きのある長い赤髪。
旅人用のマントは外しているから、しなやかに引き締まった健康的な四肢が確認できる。
革製の胸当ては、相変わらず少し窮屈そうだけど、鍛錬を怠っている様子は、まったく見受けられなかった。
「……ふーん、騎士団のお友だち」
「そう。国境なき騎士団員と認められるには、その組織下で修行をしなくちゃいけないんだ。学生というか、見習いというか。正式には『鉛の騎士』って名称になるんだけど、その時に出会ったのが彼女なんだよ」
とある人物から国境なき騎士団への入団を勧められた吾輩は、流されるままに、その門を叩いた。
アスティニとは、半人前の騎士――鉛の騎士時代からの付き合いになる。
「数年前だというのに、ずいぶん遠くに感じるな、ワガハイ」
「そうだね」
種族も性別も関係なく、さまざまな理由から国境なき騎士団で身を立てることを希望し、集まってきた者たち。
吾輩は騎士団員の候補生として、多くの仲間と出会うことができた。
その中でも、正式に国境なき騎士団員としての称号を与えられた者は、ほんの一握り。
あの頃のみんなは、いったいどうしているだろう?
記憶の少ない吾輩にとって、当時の日々は、かけがえのない思い出だった。




