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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第3章 第1節] ベンデノフ王国>南ベンデノフ城下町
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022. 大切な旧友との再会(1)

「ここで君に会えるなんて、想像もしていなかったよ。まぁ、たまたまと言うには、ちょっと事情が込み入っているけどね」

「あ、ああ……そ、そうだな。とはいえ、こうなったのは、ぐ、偶然が重なった結果に間違いない」


 酔った男性は、駆けつけた憲兵に引き渡された。


 落ち着きを取り戻した店内。

 吾輩は、再会した友人とテーブルを共にしていた。


「探していたんだよね、吾輩を?」

「えっ、あっ、なっ!?」


「城には、もう行っているんだ。大公から、正式に依頼も受けている」

「(……そ、そちらのことか)」


「ん?」

「そ、そそ、そうだ、その通り」


 こうやって話すのは、ちょっと久しぶり。

 だからだろうか。

 彼女の様子が、なぜかぎこちない気がする。

 あの暴漢に見せた、強気でりんとした態度はどこへ?


「どうかした?」

「い、いや、何でもない」


 吾輩に答えて、彼女は話を進める。


「私の姿を見て、すぐに察してくれたんだな。理解が早くて助かる」

「派遣された騎士の名前までは聞けなかったんだ。でも、君なら心配いらないね。吾輩も心強いよ」


「それは私の方だ。報告を耳にして、すぐにワガハイだと思った。私の予想は、見事に的中したというわけだ」

「予想?」

「い、いや、単なる独り言だ」


 コホンと、彼女が咳払せきばらい。

 気を取り直した様子で、あらためて口を開く。


「ここで出会えたことは、本当にありがたい。あなたが力を貸してくれれば、成功は約束されたようなものだからな」

「大げさだよ。そこまで言われると、さすがにプレッシャーになる」


「すまない。しかし、私はうれしいんだ。こうやって、あなたと任務に当たれることが――何より、た、大切な友人と再会できたことが」

「こちらこそ。吾輩にそこまで言ってくれるのは、たぶん君くらいさ。ありがとう、本当に」


 恥ずかしさもある。

 だけど、それ以上に誇らしい。

 彼女からのまっすぐな友情には、いつも胸が熱くなるんだ。


「しかし、さすがだね。称号を得て間もないのに、彷徨さまよえる大罪人の案件を単独で任されるなんて。優秀である証拠だよ」

「え、あ、まぁ……」


「もしかして、他にも誰か派遣されてた?」

「い、いや、私だけだ」


 だとしたら、やっぱりすごい。

 彼女の高い能力を、本部も買っているということだ。


「ひ、一人で十分だと、い、いい、言ってやったんだ」

「そうなんだ。でも、めずらしいね。君が、そこまで大きく出るなんて」

「た、たまには、そんなときもある」


 自らアピールしたりせず、求められたことを、淡々と正確にこなす――それが、彼女のイメージ。

 わざわざ声を上げなくても、その立ち振る舞いゆえに、自然と実力が伝わってしまうから。


 なのに今回は、どうも積極的だ。

 怪盗ジフォンに、何か思い入れでも?


「そ、それにしても、聞いたぞ、パジーロの件。銅の騎士ブロンズナイトの旅人ゴーストが、まるで英雄のごとき活躍をした――との話は、私のところにまで届いている。あなただろう、その『パジーロの英雄』は?」


 正直、驚いた。

 もう、そんなうわさが流れているのか。


 ことさら隠すつもりはない。

 でも、望まない広がり方をされては困る。


 人の口に戸は立てられない。

 悩ましいところだ。


「吾輩は、ちょっと手を貸しただけ。大したことはしてないよ」


 できるだけ温度を低く、何でもないように返した。


 やはり、あなただったんだな――と、確認するように、彼女はうなずいた。


「ワガハイは、そうやっていつも謙遜けんそんする。それは間違いなく美徳だが、あなたはもう少し、自分を高く評価した方がいい」

「君が認めてくれるだけで十分。吾輩くらいの騎士団員は、掃いて捨てるほどいるんだから」

「何を言っているんだ、ワガハイ。あなたがその気なら、私はいつでも――」


「あのっ!!」


 吾輩と彼女の会話を止める、女性の声。

 同じテーブルを囲んでいる、険しい表情のクーリアだ。


「盛り上がっているところ悪いんですけどね、説明してもらえませんか、お二人のご関係?」


 ていねいな言葉遣いだけど、こちらに向けられた視線は鋭い。

 いまさら敬語なんて、吾輩には逆に威圧的だった。


 予想外の再会で、つい周りが見えなくなっていた。

 反省。


「紹介するよ、クーリア――彼女は、ダークエルフのアスティニ。国境なき騎士団に所属している、吾輩の友人なんだ」


 褐色の肌に、輝きのある長い赤髪。

 旅人用のマントは外しているから、しなやかに引き締まった健康的な四肢が確認できる。

 革製の胸当ては、相変わらず少し窮屈きゅうくつそうだけど、鍛錬をおこたっている様子は、まったく見受けられなかった。


「……ふーん、騎士団のお友だち」

「そう。国境なき騎士団員と認められるには、その組織下で修行をしなくちゃいけないんだ。学生というか、見習いというか。正式には『鉛の騎士レドナイト』って名称になるんだけど、その時に出会ったのが彼女なんだよ」


 とある人物から国境なき騎士団への入団を勧められた吾輩は、流されるままに、その門を叩いた。

 アスティニとは、半人前の騎士――鉛の騎士レドナイト時代からの付き合いになる。


「数年前だというのに、ずいぶん遠くに感じるな、ワガハイ」

「そうだね」


 種族も性別も関係なく、さまざまな理由から国境なき騎士団で身を立てることを希望し、集まってきた者たち。


 吾輩は騎士団員の候補生として、多くの仲間と出会うことができた。


 その中でも、正式に国境なき騎士団員としての称号を与えられた者は、ほんの一握り。


 あの頃のみんなは、いったいどうしているだろう?


 記憶の少ない吾輩にとって、当時の日々は、かけがえのない思い出だった。

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