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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第3章 第1節] ベンデノフ王国>南ベンデノフ城下町
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008. 虹色うろこの蛇(後編)

 さて。


 通されたはいいが、クーリアとキューイは、やっぱり困惑している。

 見知らぬ土地で、いきなりの展開だからね。


 一方でミロートさん。

 この妙な事態を、冷静に受け止めているようだ。


「すみません、ミロートさん。よくわからないことに付き合わせてしまって」


 黙ってついてきてくれる彼に、歩きながら伝える。


 この城の関係者――しかも、かなり上の立場にある人物が、吾輩を呼びつけたことに間違いはないだろう。


 考えるまでもなく、その相手は貴族。

 権力にびるつもりはない。

 けれど、ここで逃げ出すわけにもいかない。

 どうやら、国境なき騎士団員としての吾輩に用があるみたいだからね。


 パーティーのふたりはともかく、ミロートさんはただ、ここまでの道中で偶然出会っただけの旅人だ。

 内心、迷惑でしかないだろう。


「いいですよ、お気になさらず」


 しかし彼は、興味深そうな表情を見せる。


「乗りかかった船です。別に牢獄に叩き込まれるわけでもなさそうですし、話くらい聞かせてもらいますよ」


 なるほど。

 やはり彼も旅人なんだな。

 予定外の出来事を、楽しもうとする姿勢が染み着いている。


 敷地内に建つ城は、とても美しかった。

 庭との調和がとれている、という印象。

 城閣が低いため、城それ自体に高さはない。

 だからだろうか。

 取って付けた雰囲気はなく、空間全体から浮いてしまうようなことがないんだ。


 城には本来、平時の役所としての機能と、戦時の要塞としての機能がある。

 この城からは、後者の部分はあまり感じられない。

 平和であることを前提とした造りだ。


 中央の城とは別の建物の姿も。

 あちらの周囲には、白い石像が数体見られる。

 警備をしているのだろうか。

 集まっている憲兵が多い。

 いったい、あれは?


 そこに、


「あ、えっ……」


 ちょっと驚いたようなクーリアの声。


「わ、ワガハイくん。向こうの、ほら」


 クーリアが、少し離れた花壇かだん付近を指差す。

 彼女の示した場所にいたのは、虹色のうろこを持つへびらしき生き物だった。


「あ、あれじゃないかな? さっき、町の人が言ってた蛇って」


 確認できるのは数匹。

 一般的に蛇というと、きつく編み込まれた縄のような体を想像するが、ずいぶんと違う。

 胴の部分がふくらんでいて、全体として丸みのあるフォルムだ。

 三角形に近い形の頭部があり、人間の首に当たる部分がキュッと細く、腹部がまた太くなり、尾の部分で締まる――という、めずらしい風貌ふうぼう

 全身の長さによって個体差はありそうだが、サイズの違う数匹とも、おおむね似たような感じだった。


 花壇では、庭師の男性が作業をしている。

 すぐそこに虹うろこの蛇(?)がいるというのに、彼は特に気にすることもなく、平然と手を動かしていた。


 対して蛇らしき生物も、庭師の男性を襲うような素振りは微塵みじんもない。


 あれが、この地域においてどのような存在なのか、まだわからない。

 しかし、ベンデノフ国民の生活に、強く溶け込んでいることは間違いないだろう。

 こだわりのありそうな貴族の敷地内で、当たり前のように『目』にすることができるくらいだからね。


 気になりつつも、城の入り口へ。

 こちらにも門番が立っていたが、もう呼び止められはしなかった。


 扉から続く廊下。

 壁には、いろいろなタッチの絵画が、吾輩たちを迎えるように飾られていた。

 城主の趣味だろうか?


 クーリアとキューイは、さながら美術館のような光景に、自然と注意を奪われていた。


「こちらに」


 廊下を進んだ奥。

 いくつかの扉が並ぶ中の一室に、吾輩たちは通された。


「ぉうわっ……」


 先ほどとは違うテンションで、クーリアが口を開く。


「お城だし、それはそうだろうけど、やっぱり広い」


 応接間らしき場所。

 長い机、複数の椅子。

 廊下同様の絵画に加え、陶器の置物まである。

 そして、とにかく広い。


「すぐに『閣下』をお連れしますので、どうか、しばらくおくつろぎください」


 一礼した男性は、この場を後にした。


 閣下か。

 まぁ、そうなるよね。


「く、くつろげって言われても……」

「キュイーッ♪」


「あっ、キューイ、ダメだよ。高そうなつぼがあるんだから、そっちに行ったりしたら」

「キュイ……」


 クーリアに言われ、キューイがしゅんとなる。

 広いとはいえ、飛び回るのに適した場所じゃない。

 ドラゴンの彼には、これでも窮屈きゅうくつだろう。


「落ち着いていますよね、ワガハイさん」


 と、ミロートさん。


「あなたこそ」

「僕は貴族の城に、先導を伴って入城した経験なんてありませんよ――こういうことは何度も?」

「初めてではありません」


「やっぱり、国境なき騎士団員だからですか?」

「いえ。吾輩は末席の銅の騎士ブロンズナイト。過去、このような事態に遭遇したのは、あくまで偶然が重なった結果です」


 通常、王族貴族などが国境なき騎士団に助力を求める場合、組織の本部にコンタクトをとる。

 個人的なつながりでもあれば別だが、流れ者の銅の騎士ブロンズナイトが、直接それに関わることはない。

 

 しかし本部の指示を受けて、銅の騎士ブロンズナイトが動くことは少なくない。

 組織の中にいない騎士ゆえ、世界各地で自由に働けるという利点があるんだ。

 これこそ、銅の騎士ブロンズナイトが認められている大きな理由。


 とはいえ本部の騎士ではない以上、原則、組織を構成する騎士――すなわち、銀の騎士シルバーナイト以上の地位を持つ者の指揮下に入ることになる。


 つまり、ここの城主が、銅の騎士ブロンズナイトである吾輩を招いたということは、おそらく誰かが、この地に――。

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