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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第3章 第1節] ベンデノフ王国>南ベンデノフ城下町
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007. 虹色うろこの蛇(前編)

 身なりの整った男性に連れられて、詳細不明のまま、吾輩たちは大通りを直進。

 事情を聞いても、彼は『とにかく、私についてきてください』と答えるだけ。


「(この町の役人の方かな? 何か悪いことでもしたの、ワガハイくん?)」


 こっそりクーリアが尋ねてきたけど、そんなわけがない。

 この町に着いたのは、ついさっきのこと。

 ここまでにやったことといえば、露店のサンドイッチをいただいただけだ。


「(別に、ならず者扱いされているんじゃないと思うよ)」


 前を行く男性は、強引だけど乱暴じゃない。

 立ち振る舞いに関しては、むしろていねいだ。

 仮に彼が役人だとして、吾輩たちを犯罪者だと誤解しているなら、町の憲兵を率いてくるだろう。

 私についてきて――というような展開にはならないはずだ。

 

「(もしも吾輩たちに問題があるとすれば、本当は入国しちゃいけなかったのに入国しちゃった――とかじゃない?)」


 厳しそうな審査があったけど、国境なき騎士団の名前を出したとたん、急に緩くなってたし。


「(えぇーっ! だって私たち、通されたから入国したんだよ。無理やり入ったわけじゃない。それに、ワガハイくんが銅の騎士ブロンズナイトなのは本当のことだもん)」


 クーリアの主張は正しい。

 通されたから通っただけだ。

 まぁ、若干ごまかすように抜けてきた部分はあるけどね。


 なかば巻き込まれる形になったミロートさんも、困惑しながら同行してくれている。

 彼も当然、この状況を把握できていない。


「着きましたよ」


 黒い服装の男性が立ち止まる。

 何となくそうだろうなと予想していたけど、案の定、目的の場所はここだった。


「こちらは『南ベンデノフ城』です」


 この町の中心地、南ベンデノフ城。


 城の周囲には石壁が走っているが、それほど威圧感は受けない。

 吾輩が見てきたものと比べると、あまり高さがない印象だ。

 無骨さが少なく、上品な雰囲気。

 本来は侵入者を拒むためのものではあるが、全体に統一感を持たせるための装飾――とさえ思えてくる。


 正門なのだろう。

 大きな二枚扉の前に、憲兵が二名立っていた。


「おお、その方が」

「確かに、ゴーストさんのようだ」


 門番らしき二人。

 吾輩の姿に、何か納得している様子。


「とはいえ、一応」

「ああ、素通りさせることはできない」


 憲兵二人の言葉に、


「ええ、もちろん」


 黒い衣装の男性がうなずいた。


 この三人の間では、何かの共通認識があるらしい。


 相変わらず詳細は不明。

 わかったのは、身なりの整った男性が、どうやら城の関係者らしいということだけ。

 クーリアが予想したように、彼は役人なんだろうか?


「ここまで従っていただき恐縮ですが、あらためて、しっかりと確認させていただきます」


 役人かもしれない彼は、上着の中から、小さなナイフを取り出した。


「腕を」


 目的はわからない。

 しかし、何をしたいのかは理解できた。


 吾輩は黙ってコートのそでを上げ、左腕を差し出した。


 ナイフを構えた男性が、刃を高く掲げる。


「えっ!? ちょ、ちょっと何するのっ!?」


 きょとんとしていたクーリアも、吾輩が何をされるのか、さすがに想像できたらしい。


「ワガハイくんが何をしたって言うの! 役人だからって、理由もなく――」

「ありがとう、クーリア。でも、大丈夫」


 取り乱した彼女を落ち着かせる。

 できるだけ、落ち着いた口調で。


「キュイ……」

「…………」


 心配そうなキューイと、無言で見守っているミロートさん。


「どうぞ」

「……失礼します」


 吾輩の許可を受けて、男性がナイフを振り下ろす。


「うっ……」


 わかっているだろうに、クーリアは目を背ける。


 鈍く光る短い刃は、吾輩の腕をするりと通り抜け、そのまま空を切る。

 当の本人である男性は、自分の感覚が信じられない――というような表情をしていた。


「……なるほど」


 しかし、それ以上の動揺を見せることはない。

 まるで新たな学びを得たかのように、そっと一言つぶやいていた。


「おお!」

「まさに、この方はゴーストさんだ」


 対して、門番の憲兵二名。

 こちらは、明らかな驚きの声を上げる。

 知識としては耳にしていても、実際に目撃したのは初めてなんだろう。


「……い、痛くない、ワガハイくん?」

「全然」


 泣き出しそうなクーリアに答えて、吾輩はコートの袖を直した。


「ご無礼をお許しください」


 ナイフを収めた男性が、吾輩にびた。


「重ね重ね申し訳ありませんが、ペンダントの方も、一応よろしいですか?」

「いいですよ」


 言われるがまま、吾輩は銅の騎士ブロンズナイト徽章きしょうを示す。


「はい、確かに」


 黒い服装の男性が、大きくうなずく。

 どうやらこれで、本当に審査が終了したみたいだ。


「お手数おかけして、申し訳ありません」

「では、どうぞ城内へ」


 門番の二人が、吾輩たちをうながす。


「案内します」


 吾輩をナイフで試した男性に先導され、開かれた大きな扉を抜けた。

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