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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第3章 第1節] ベンデノフ王国>南ベンデノフ城下町
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003. 妙に厳しい入国審査(前編)

 歩き続けて、さらに数時間。


 あれから、奇妙な獣に襲われることはなかった。


 早朝に出発したおかげか、まだ太陽も残っている。


「着いたぁ」


 大きな柵門さくもんの前で、クーリアが言った。


 右も左も、一面が石壁。

 内に広がる集落を、ぐるりと囲っているようだ。

 たとえ他の土地から訪れたとしても、この先に町が――さらには国があることは、誰の目にも明らかだった。


「旅の方ですか?」


 鉄格子てつごうし状の扉付近に、二人の男性が立っていた。

 金属製の胸当てに、刃の小さな槍を装備。

 たぶん、この国の憲兵だろう。


 ズンズンと、こちらに接近してきた二人。 

 その一方が、吾輩たちに尋ねてくる。


「入国の目的は?」

「えっ、も、目的……ですか?」


 困ったように、クーリアが吾輩に視線を向けてきた。


「吾輩たちは、このルドマ大陸を北上してきました。目的という目的はないのですが、こちらの国で過ごさせていただきたいのです」


 入国審査ということだろうか?

 彼らにしてみれば当然の職務ではあるけれど、風任せな旅人には、どうにも困ってしまう質問だ。


「うーむ、怪しいですね」


 誠実に答えたつもりだが、彼らは満足していない。


「何かよからぬことを」

「たくらんでいるのでは?」


 武器を向けてくることはなかった。

 しかし彼らは、なぜか吾輩たちを疑っている様子。

 とりあえず、すんなり通してはくれないみたいだ。


「(どういうことでしょうか?)」


 状況を見守っていたミロートさんが、吾輩に耳打ちをしてくる。


「(ベンデノフへの入国は難しい――という話を、僕は聞いたことはありません。国内で、何か起こっているのでしょうか?)」


 その手のうわさがあるなら、パジーロ城下町での情報収集で、クーリアが耳にしているはず。

 あるとすれば、まだ他国にまでは伝わっていない、ごく最近の出来事に由来するものになるだろう。


 一般論として、治安を害するような部外者を立ち入らせないのは、国として当たり前のこと。

 それは理解できる。


 とはいえ、いったい、吾輩たちのどこが怪しいんだ?


 旅人ゴースト。

 ハーフエルフの少女。

 白い幼竜。

 エルフの青年剣士。


 ひょっとして、門番である彼らには、悪事を働く犯罪者パーティーにでも見えている?


 だとすれば、その根拠くらいは示してもらわないと。


 狂獣化バーサク状態の野犬といい、妙な虹うろこの蛇といい、おかしなことが続いているな。


「どうしましょうか?」

「どうしましょうかね?」


 ミロートさんに聞かれたけれど、同じ言葉を返すことしかできない。


 彼らが認めてくれない以上、入国は無理。

 強引に門を走り抜けるわけにもいかないし。

 さて、どうしたものか。


 険しい表情の憲兵二人に耐えかねたのか、クーリアが詰め寄ってくる。


「ワガハイくんは、国境なき騎士団のメンバーなんだから、何とかならないの?」

「何とかって言われても……」


 騎士団員の地位が役に立つことは少なくないけど、決して万能じゃない。

 銅の騎士ブロンズナイトなら、なおさらだ。


「もうっ、ワガハイくんってば、使えない騎士団員っ!!」

「あのね、クーリア。国境なき騎士団の名前を出せば、何でもかんでも上手くいくわけじゃないんだよ。だから、そんなこと言われても困る――」

「ああ、国境なき騎士団員さんでしたか」


 …………え?


 クーリアと言い合っていたところに、あまりに予想外な男性憲兵の反応が。


「それならそうと早く教えてくださいよ。はいはい、大丈夫です。話はうかがってますから」

「念のため、見せてもらってもいいですか、あなたの徽章きしょう?」

「…………ええ、はい」


 国境なき騎士団の名前がでたとたんに、流れが変わってしまった。


 吾輩は言われるがまま、銅の騎士ブロンズナイトの徽章を、二人の憲兵に示す。


「はい、確かに」


 一人は穏やかにうなずいたが、


「あれ、待てよ。来るのは『銀の騎士シルバーナイト』の方じゃなかったか?」


 もう一人は、なぜか首をかしげている。


「そうだったっけ?」

「そもそも、パジーロ側からの入国予定じゃなかったような……」

「おい、ちゃんと聞いておけよ」

「お前だって」


 小さな争いを始めた二人。

 

 それはそれとして、銀の騎士シルバーナイト

 入国?


「あの、それはどういう――」

「あ、ああ、はいはい。あの、いろいろ予定が変わりましてぇ、何だかんだでこうなりましたぁ。だから、大丈夫でぇーす」


 吾輩の質問をうやむやにして、クーリアが背中を押してくる。


「ああ、そうだったんですね」

「そういうことでしたら」


 えっ、それでいいの?

 門番なのに、それでいいんですか!?


 吾輩の心のつっこみは、誰の耳にも届かない。


「お仕事、おつかれさまです。がんばってください」

「「はい、ありがとうございます」」


 柵門さくもんが開かれた。

 あの憲兵の二人、最後はクーリアに敬礼までする始末。

 通してくれたことには感謝だけど、いろいろ心配になってしまう。


「(行くよ、ワガハイくん――ほら、キューイとミロートさんも)」


 愛想笑いのクーリアに流される感じで、吾輩たちは無事に(?)ベンデノフ王国へ入った。


 ……うーん。

 いいのかな、これで?

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