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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第2章 第7節] パジーロ王国>パジーロ城下町
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071. 世界を大きく動かす力(4)

 吾輩の問いに、ラフマンは、


「……ふふっ」


 意味深な表情を見せる。


「閣下は私に多くを語らない。私はただ、与えられた役目を果たすのみです」


 はぐらかされたか?


 ならば、再度踏み込んでみる。

 あれは、吾輩たち種族が不用意に扱うべきアイテムじゃないんだ。


「いいですか。巨大人の心臓タイタンズハートは、あなたが想像している以上の力を秘めています。あれは間違いなく、平和な国や、そこで生きる国民の命をおびやか――」

「しかし、今の閣下が何を考えているのかを推測することくらいはできます。元罪人とはいえ、これでも主席行政官。役人としての経験は、人並み以上にありますからね」


 自らの肩書かたがきを誇るように、ラフマンは続けた。

 吾輩の忠告など完全に無視。

 耳をかたむけてくれる様子もない。


「あの方は現在、おそらくはベンデノフ王国を見ています。このルドマ大陸の中心とも言える、あの大国を」


 ベンデノフ。



『我が国は「公国」であり、私たち一族が治めてきた国家――しかし、私たちが持つ「公爵」という爵位は、とある王国の国王一族と血縁関係にあるという理由から、私の先祖が国土と共に与えられたものに過ぎないのです』



『……その王族の治めている国が、この「ベンデノフ王国」』



『ガレッツ公国が存在するこの大陸――「ルドマ大陸」最大の国家にして、大陸を事実上統べているベンデノフの影響を、ガレッツは無視することができない……現状では、どうしても』



『私は、ガレッツを「世界で」一番の国家にするのですよ? だからベンデノフなど、あくまで通過点に過ぎません』



 やはり、ベンデノフか。


「私に与えられた仕事は当初、パジーロとベンデノフの国王に、閣下の新君主即位を伝えるという特命のみでした。これは、関係国に対する外交上の礼儀として、以前から行われていたこと。過去、主席行政官が使者として派遣された記録はないようですが、私の外交的な『顔見せ』をねて選んでくれたのだと、そう理解できます。しかし、この町で起きた出来事を受けて、閣下は私に、巨大人の心臓タイタンズハートに関する特別な言付けを指示された。これにより、単なる外交上の礼儀とは異なる『別の意味』が付与されたことは明白ですよね?」


 確かに、慣習的なあいさつの場で、あそこまでの外交提案はしないだろう。

 だとするなら、その『別の意味』とは?


「公国が大きく発展していくためには、通らなくてはならない『道』があります。そこには当然、厄介な『壁』もある……閣下は、いつか訪れるであろうその『壁』と対峙する日を想定しているのでしょうね。そういう意味において巨大人の心臓タイタンズハートは、おそらく一つのピースになるはずです」


 つかみどころのない抽象的な表現。

 しかしラフマンは、イオレーヌさまが描いているガレッツの未来像を、おぼろげながら把握はあくしているようだ。


「……そのために巨大人の心臓タイタンズハートが必要だと?」

「どうでしょうかね? すべては閣下の頭の中にのみあることですから、正確なことは何も」


 結局はけむに巻いてきたラフマン。

 クーリアと同様、吾輩も彼を好きになれそうにない。


 けれど役人としては、やはり優秀なのだろう。

 饒舌じょうぜつなくせに、口を閉じるときは閉じる。

 食えない人間だな、本当に。


「さて、すっかり話し込んでしまいました。そろそろ、おいとまさせていただきますよ」


 仰々ぎょうぎょうしく振り返り、従者を待たせている城門付近へと歩いていくラフマン。

 高級そうな薄手の外套がいとうが、これみよがしに揺れていた。


「また、いつか――とはいえあなたたちとは、もう二度と会いたくありませんがね」

「…………」

「私だって、あなたの顔なんか見たくないんだからっ」


 背中で捨て台詞を放ちながら、復権した元汚職役人は去っていった。


 残された、吾輩たちパーティー。


「キュ、キュイ……」


 キューイにしてみれば、クーリアを不機嫌にさせる相手がいなくなり、胸をなで下ろす気持ちかもしれない。


 意外な展開ではあったが、こういう再会も、つれづれならない旅の中では起こりえること。

 これが、吾輩や仲間たちに何をもたらすのか、今は誰も予想できない。


 わりの悪い空気の中、クーリアが口を開く。


「イオレーヌさま、何であんなやつを許しちゃったのかな?」


 吾輩の相棒は、穏やかな姫君としてのイオレーヌさましか知らない。

 為政者としての彼女を、リアルに想像することができないんだ。


「それに、巨大人の心臓タイタンズハートまで……」


 クーリアもまた、ヘゲテーゼンの強大な力を目の当たりにしている。

 巨大人の心臓タイタンズハートについて、いろいろと思うところがあるのだろう。


 答えになるかはわからない。


 ただ、吾輩の考えを、それとなく言葉にしてみる。


「さっき、ラフマンが言ってたよね――この世界には、武力や魔力とは種類の違う力が確かに存在し、王族貴族はその力を競い、その力が世界を大きく動かしているって」

「……うん」

「自由気ままな旅人ゴーストには、根拠のない想像しかできないけれど」


 断りを入れつつ、いぶかしい表情のクーリアへ伝える。


「一部の為政者は、その力を強く求める。その力を増大させる可能性のあるものには、何であれ手を伸ばす。それが目的のために必要となるなら、迷うことなく受け入れ、自らのかてにしていく……吾輩たちからすれば、ちょっと納得できない場合でもね」


 時には善し悪しの判断すら飲み込み、あらゆるものを利用して拡大していく王族貴族たちの『世界』――彼らが覇権を争う戦いに、あの青髪の姫君は参加を表明したらしい。


「世界を動かす力を競う――というのは、つまり、そういうことなのかもしれないよ」


 その知らせは今日、確かに吾輩のもとへ届けられた。


 ラフマンという、因縁のある男との再会によって。

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