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顔なしゴースト『ワガハイ』の、つれづれならない国境なき冒険  作者: 渋谷 恩弥斎
[第2章 第7節] パジーロ王国>パジーロ城下町
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065. もたらされた提案(2)

 物言わぬ石像のようにはべっていた役人や憲兵たちが、


「えっ!?」

「なっ!?」

「っ……」


 それぞれに動揺の声を上げた。


 戸惑う彼らを無視するように、ラフマンは続ける。


巨大人タイタンの核は、巨大人の心臓タイタンズハートという魔法アイテム――こちらの国ほど深い関わりはなくとも、それくらいのことは我がガレッツも、一つの知識として把握しております」

「…………」


 ベテック国王は、無言ながら冷静な様子。

 臣下しんかたちのように取り乱すことはない。


巨大人タイタンが巨大で、驚異的な力を持っていることは、各地の巨人伝説が示しているところ。もちろん私は、その存在を現実に確認してはいませんが……こちらの城の状況を見れば、巨大人タイタンに関する言い伝えは、間違いのない歴史的事実なのでしょう。もっとも、パジーロ王国の君主にして、先日、実際にそれを目の当たりにした陛下には、あえて断る必要もありませんが」


 相変わらず、口調はていねい。

 態度も、形式上は礼儀をわきまえている。


 けれどラフマンは、どこか挑発的だ。


「お言葉ですが陛下。今回の一件、巨大人の心臓タイタンズハートなる禁忌物がこの地にあるから、このような不幸に見舞われたのではないでしょうか?」


 その問いかけに、ベテック国王がわずかに反応。

 心が小さく波打ったように、吾輩には感じられた。


 おそらくその理由は、ラフマンの言葉が、



『こんなものがこの地にあるから、我が国は――いや、我が愛すべき民たちは、自らに責任のない痛みを、不条理にも味わうことになってしまうのかもしれない』



『……こんなものさえ、この地になければ』



 以前、あの方が自ら口にしたそれと同じだったから――。

 

「先ほど申し上げた通り、我が君主は、今回のこの国の不幸に、ひどく胸を痛めております。ガレッツに悲惨な一報が届いてから、私が使者として旅立つ直前まで、我が君主は悩まれていたのです――パジーロ王国やその民に、隣国の為政者としてできることはないのか、と」


 まるで舞台の演技者のように、とうとうと語るラフマン。


「そこで我が君主は、私が先ほど申し上げた真理にたどり着かれた――すなわち、すべての元凶である巨大人の心臓タイタンスハートの存在に」


 いつの間にか立ち上がった面長の男は、身振り手振りを交えながら続けた。


巨大人の心臓タイタンズハートがなければ、もう二度と、パジーロに巨大人タイタンが現れることはない。パジーロの民が、その恐怖に怯えることもなくなる。だから我が君主は決意しました。それが、先刻のご提案――おぞましい巨大人の心臓タイタンズハートを、ガレッツ公国が引き受けるということなのです」


 どうにも芝居しばいじみたラフマンの訴え。


 しかも、その内容は、国家間における巨大人の心臓タイタンズハートの受け渡し。

 どう考えても、簡単に飲める話じゃない。


 だが、少なくとも上辺うわべだけは誠実さを保っている使者の男は、まったくひるむことなく、堂々とそれを言い切った。


 そんな彼に、やはり吾輩の相棒は黙っていられない。


「ふざけないでっ!! そんなの、あまりに身勝手よっ!! あなたのことだから、きっと巨大人の心臓タイタンズハートを利用して、ガレッツや他の国で悪さを――」

「私ではありませんよ」


 二度目だからか、ラフマンはやや食傷気味しょくしょうぎみに、クーリアを制する。


巨大人の心臓タイタンズハートを欲しているのは、我が君主ですよ、お嬢さん」


 ちらりと、横目でクーリアを威圧するラフマン。


 その瞳の奥に、吾輩は不思議と既視感きしかんを覚えた。


 あれは、どこかで――。


「……話は理解した、ラフマンどの」


 ヒートアップしそうな二人をなだめる意味もあるのだろう。

 ベテック陛下が口を開く。


「あなたの言うことには一理ある。しかし、パジーロの国王にして、実際に巨大人タイタンを目の当たりにした私に言わせてもらえば、あれは間違いなく天災だ。ガレッツだろうと他の国だろうと、どこにあろうとくだんの禁忌物は、国家や民を害する」


 為政者として、すこぶる理性的な意見だ。


「おそらくあなたは――いや、イオレーヌ公閣下は、巨大人タイタンの力を国防や外交に利用したいのだと思うが、甘く考えない方がよろしい」


 そして、あれの恐ろしさを体感した一人としても、また。


「別に私は、巨大人の心臓タイタンズハートが惜しいわけではない。考えてもみてくれ。もしもあれを国益のために利用できるとしたら、過去歴代のパジーロ王たちが、迷うことなくそうしてきたはずだ。しかし、そのような事実はない。我が国が建国以来、あの禁忌物を封印し続けてきたことが、何よりの証拠だ」


 確かに、そのようなことが可能だったなら、教会堂の地下に押し込めたりはしていなかっただろう。


「正直なところ、あなたの言ったように、この地に巨大人の心臓タイタンズハートがなければと、私も思っていた。しかし、そういう次元ではないのだ。仮にガレッツがあれを引き取ってくれたとしても、巨大人タイタンが暴走しないという保証はない。パジーロの民が苦しまなくとも、ガレッツの民が苦しむかもしれない――それは、私の本意ではないのだ」


 誠意ある、ベテック陛下の返答。

 自国の民だけではなく、他国の民のにも配慮した上で、外交上の意思を伝えていた。


 しかし、そんな賢王たる態度に、なぜかラフマンは笑みを浮かべる。


「ふふっ」

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