013. 旅の相棒
ダニエさんたちに別れを告げた吾輩たちは、そのまま、オーヌの町の通りを歩いていた。
「ワガハイくんは、これからどこに?」
となりのクーリアが、吾輩に尋ねてきた。
「あてのない旅だからね。とりあえず、おいしいものが食べられそうなところにでも足を運んでみるよ」
クーリアも、吾輩と同じ旅人。
彼女には彼女なりに、旅をしている理由があるのだろう。
この町を出れば、それぞれがそれぞれの道を行く。
だから、ここでお別れだ。
見えてきたのは、オーヌの町から外へ抜ける簡素な門。
旅人を飲み込み、また、旅人を吐き出す――宿場町らしい、何とも雑多な風景が広がっていた。
「ありがとう、クーリア」
自然と、言葉が口をつく。
「短い間だったけど、君に出会えてよかったよ。名残惜しいけど、旅って、こういうものだよね。もしかしたら、またどこかでばったり出会えるかもしれない。だから、どうか元気で……あ、でも、盗賊だからって、盗みはほどほどにしないと、いろいろな――」
「何言ってるの、ワガハイくん?」
別れのあいさつをしていた吾輩に、クーリアが首をかしげる。
「ここで、笑ってバイバイ――みたいな雰囲気を出しちゃってるけど、私、そんなつもりないよ」
「…………え?」
「私、ワガハイくんの相棒になることに決めたから――だから、よろしくね♪」
「…………」
ものすごく一方的な宣言に、吾輩は沈黙。
「……勝手に決めないでもらえるかな? だいたい、これでも吾輩は国境なき騎士団の一員。いくら何でも、盗賊の女の子とパーティーを組むだなんて、そんなの――」
「わかったよ……残念だけど、あきらめるね、私」
意外なほど、あっさり引いたクーリア。
しかし、
「じゃあ仕方ないから、ワガハイくんを私の相棒にしてあげる♪」
「……同じだよね、結局」
どうやら最初から、吾輩の意見なんて聞くつもりがなかったらしい。
「安心してよ、ワガハイくん。私、ワガハイくんのパーティーメンバーのうちは、ぜーったい、誰かから物を盗んだりしないから」
「……何か、ずるくない、それ」
一種の脅迫だ。
私と組まないと、盗賊活動を止めないぞ――っていう。
「はい、決まり――今日から私たち、ゴーストとハーフエルフのパーティーね♪ よろしく、よろしくぅ」
「ちょっと……」
明確に拒否しなかった吾輩の態度を、クーリアは都合よく解釈しちゃったみたいだ。
「あ、そうそう――私、ちゃんと回収しといたよ、ワガハイくんが没収されてた剣」
布袋からクーリアが取り出したのは、確かに、吾輩が憲兵に取り上げられた剣だった。
何だか見覚えのある柄が飛び出していると思ったら、そういうことだったのか。
「そもそもワガハイくん、これを返してもらいたくて、あの砦に乗り込んだんだもんねぇ」
含みのある笑顔で、クーリアが、鞘に入った剣を吾輩に差し出す。
「本当はラフマンに話をつけに行くつもりだったのに、あえて剣を返してもらう――だなんて、かっこいいよねぇ、ワガハイくんてば」
「……吾輩の剣がどこにあるのか、それがわからなかっただけだよ。ラフマンとのことは、あくまで成り行きさ」
からかってきたクーリアから、ややばつ悪く、吾輩は剣を受け取った。
「だいたい、もう盗みはしないんじゃなかったの? 確かにこれは吾輩の持ち物だったけど、仮にも砦にある物を、こっそりと――」
「今のは、私を相棒にしてくれるってことが前提の発言だよね? わーい、やったぁ!!」
「…………」
何だか、上手くはめられた気がする。
「ということで、二人の新たなる出発だよ、ワガハイくん」
「……わかったよ、もう」
弾む足取りのクーリアに、力なく続いていく吾輩。
何やかんやで強引ながら、こんな吾輩にも、どうやら旅の相棒ができたみたい。
さぁ、次はどんな出来事が、吾輩を――いや、吾輩たちを待ち受けているのやら。




