012. 一宿一飯の恩義
「もう、旅に出ちゃうんだね」
「あと何日か、ここで泊まっててもいいんだよ」
「この町に残るなら、私たちが、毎日遊んであげるし」
ダニエさん宅、その玄関先。
子どもたちはみんな、吾輩たちの出発を悲しんでくれていた。
吾輩が、この町の砦にケンカを売って(?)から、もう一週間が過ぎた。
汚職役人と憲兵はみんな捕まり、その地位は剥奪された。
事の詳細を記した文章に、吾輩の署名と、国境なき騎士団員であることを証明するペンダントを印章として付け加えた書簡を、しかるべき立場にある方へ送ったからだ。
さっそく昨日から、新たに派遣されてきた真っ当な役人と憲兵が、このオーヌの町での仕事を開始している。
ここで吾輩がやるべきことは、もうない。
「また、きっと会えるよ。その時まで、私たちのことを忘れないでいてね」
吾輩よりも長い間、子供たちと接していたクーリアは、どこかさみしげに――けれど晴れやかな表情で、かわいらしい彼らに語りかけていた。
「お世話になっちゃったね、あなたには」
「いえ。吾輩の方こそ、温かいベッドと食事には、本当に感謝しています」
吾輩の正体と一連の行動を知ったダニエさんには、あの日から何度も頭を下げられてしまった。
吾輩にしてみれば、ただ、一宿一飯の恩義を返しただけ。
お礼を言うべきことはあっても、お礼を言われるようなことなんてない。
でも、吾輩の自己満足で、ダニエさんや子どもたちが幸せに暮らしていけるのなら、本当にうれしいことだ。
「旅の無事を、オーヌの町から祈らせてもらうね、顔なしゴーストさん」
「はい。ダニエさんも、どうかお元気で」




